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 スマートフォンや携帯電話に届く何げないメールや電話。それが大金や個人情報を奪われる入り口だとしたら……。注意していても騙される、そんな巧妙な騙しの手口について聞いた。

 総務省によると個人のスマートフォン(以下、スマホ)の保有率は67%超(「通信利用動向調査」令和2年調査より)。『ガラケー』を合わせると90%以上で、今や国民は1人1台、なんらかの通信機器を持っている時代だ。

 非常に便利なスマホだが、一方で画面の向こうではお金や個人情報を盗む詐欺犯たちも手ぐすねを引いている。

 ネット犯罪に詳しいITジャーナリストの三上洋さんは、

「最近のネットやスマホを使った詐欺は実に巧妙です。ネット詐欺のことを知っている人も騙されるリスクが高い」

 犯罪者を取り締まる立場にある警察も危機感を抱いている。東京都を管轄する警視庁の犯罪抑止対策本部担当者は、

「スマホを介した詐欺に『架空料金請求詐欺』という手口があります。その中でも通信関連企業やIT関連企業などになりすましたメールで詐欺が行われるケースが多い。“料金が未納です”という内容を送り、お金を振り込ませたり、電子マネーを買わせたりする手口が大半を占めています」

 さらに、三上さんが危惧するのは宅配業者のなりすまし、『不在のため荷物を持ち帰りました』という内容と電話番号やURLが記載された不審なメールによる詐欺だ。携帯電話やスマホにショートメールで文面が送られてくる手口。文中のURLから偽サイトに誘導する。

佐川急便を装った不審なメールの例。リンクをタップすると偽サイトに飛ぶ

 数年前からあるこの詐欺だが、コロナ禍でネットショッピングの需要が高まったことから、再び増加している。

「iPhoneはIDやパスワードを入力させAppleアカウントが乗っ取られます。アンドロイドは第三者がスマホを遠隔操作できるアプリが密かにインストールさせられるんです」(前出・三上さん、以下同)

 2次被害も起きている。アンドロイドの場合、不正アプリを入れられた被害者のスマホを犯罪者が遠隔操作し、複数の電話番号にショートメールを送信されることもある。

巣ごもりを狙った詐欺が……

詐欺 佐川急便の公式サイトと偽サイトを比べたもの。トップページの写真はあえて同じものが使われている。だが偽サイトには不正アプリを防ぐための設定を解除する方法が……(三上さん提供)

「ショートメールのリンクは絶対に押さないで」

 さらに巧妙で大胆なのが『偽サイト詐欺』だ。

「家具、家電、ゲーム機、キッチン用品など、『巣ごもり需要』を狙った商品を販売しているように見せかけた偽サイトが増えているんです」

 商品を購入すると偽物が送られてきたり、クレジットカード番号が抜き取られるなどの被害が発生。厄介なのは偽サイトが検索エンジンに出てくる場合があることだ。

 実際、ある家具ブランドの本物そっくりの偽サイトが出回った。すると、犯罪者は偽サイトの広告まで出したのだ。ブランド名で検索すると、本物のサイトよりも上に表示されたこともあった。

 騙されないためには、「欲しい商品は検索サイトから探さない」「『ブランド名+格安』といったキーワードで見つかったサイトにはアクセスしない」「アマゾンや楽天などの大手ショッピングサイトのトップ画面から検索する」、この3つを心がけたい。

“ネットで安いものを探そう”とした人が引っかかることが多いというので御用心。

「寂しさ」につけ込む心理的な罠が……

 さらに女性が注意したいのが『国際ロマンス詐欺』だ。

「海外在住の軍人や弁護士を装い、SNSなどを介してメッセージが送られてくる。仲よくなると彼は“日本に来たい”と言ってきてお金を騙しとられます」

 だがこの手口、コロナ禍で様相が変わったという。

「在日外国人を装うケースが増えています。最終的な落とし込みは仮想通貨絡みの偽サイトへの誘導です」

 ある30代女性はこの手口で騙され、1300万円超を奪われてしまった。

 彼女がマッチングアプリで出会ったのは東京都在住の台湾人男性。LINEを重ね、心を許していったという。

 女性はある日、男性から海外の為替取引サイトへの投資を紹介され、誘われるままにこれを始めた。男性は投資に使うビットコインの買い方から投資のルールまで丁寧に説明してくれ、女性はすっかり信頼していった。

 少し儲けが出ると男性は「投資金額を増やそう」と提案、最初は1万、2万だった金額は300万、500万と膨れ上がった。

 ある日、“海外から投資だと税金がかかる”などとサポートセンターから大金を払うよう、脅しのような連絡がくるようになった。悩んだ女性は男性に相談。すると彼は、今度は別の入金方法を提案、女性は投資を続けた。

 貯金を使い果たし、父親に借金を頼むと「詐欺だ」と指摘されたのだが、男性を信じて疑わなかった。

 後日、男性が音信不通になり、ようやく騙されていたと気がついた。

 実はこの男性も詐欺グループの一員で、サポートセンターもグル。女性が投資していた為替取引サイトも実在するサイトをコピーし、精巧に作られた偽物だったのだ。

「彼女専用に作られた偽サイトでした。入金すれば反映されるし、儲けも損も管理者次第。騙されてもしかたないです」(三上さん、以下同)

 この詐欺は「寂しさ」につけ込む心理的な罠が仕掛けられている。前述の女性も、「コロナ禍で出会いもないし、友達とも会えない。彼とのLINEで救われた」と明かしていたという。

「ネット上での人間関係や、やりとりは全然かまいません。ですが、お金が絡む話になったらダメ」

スマホにもオレオレ詐欺がくるかも

 警視庁はスマホ詐欺ばかりではなく、以前から問題になっている『オレオレ詐欺』『預貯金詐欺』『還付金詐欺』など、固定電話を使った手口についても危惧している。

 特に増えているのが医療費や税金などの還付金があるからと被害者にATMを操作させ、犯人の指定する口座に送金させる『還付金詐欺』だ。

 そこで警視庁は金融機関と連携する新たな取り組みをスタートした。

「金融機関等などのATMで、携帯電話やスマホで通話をしない・させないことを社会のルール、マナーとして定着させようという『ストップ! ATMでの携帯電話』運動を推進しております」(前出・担当者、以下同)

 今後はスマホにもオレオレ詐欺などの電話がかかってくる危険性もあるというのだ。

「受話器越しの相手がコロナ禍で会えない子や孫を騙っていたらどうしますか。受話器越しに聞く声を判断するのは非常に難しい

 子や孫を助けたいという気持ちを脳が勝手に記憶の中の本人と結びつけてしまう。

「もし電話に出てしまっても、話を詳しく聞く前に、一度電話を切り、自分から折り返し電話をする習慣をつけることも大切です」

 電話を切ったらあらかじめ登録してある子や孫の電話番号にかけ直し、今かけてきた内容が正しいのかを確認する。もしそこで出なかったら慌てずにほかの親族や信頼できる知人に必ず相談すること。

「話の中に『お金』『キャッシュカード』というワードが出たら詐欺です。少しでも変だな、と思ったら警察に相談してください」

 その際、110番だけでなく、#9110(警察相談専用電話)にかけ相談をしてもいい。

「それだけでも被害は未然に防げると思います。話を詳しく聞くとどんなにしっかりした人でも騙されてしまいます。一度、言うことを信用してしまうと、多くの場合は周囲が“詐欺だよ”と言っても聞く耳を持ちません」

 高齢の親にいくら言っても聞かなかったら子や孫が110番し、警察に説得してもらったほうが確実だ。

「手口や口実は千差万別です。みんなが気をつければ自ずと減っていく犯罪です」

「30分で26万円が不正に使われました……」

「私のiPhoneのAppleアカウントはあっという間に乗っ取られました」

 そう明かすのはTwitterアカウント・河上シェフさん(以下、河上さん)。

 5月14日、河上さんのアカウントは何者かによって乗っ取られた。登録していたクレジットカードを不正に利用され、乗っ取りから30分で20万円以上分のAppleカード(電子マネー)が勝手に購入される被害に遭った。

 幸いカード会社が異変に気づき、決済前に強制的に止めてくれたという。

 きっかけになったのは1通のショートメールだった。

 同日午後8時ごろ、『荷物のお届けに来ましたが持ち帰りました』という文面とURLが書かれたメールが届いた。

 送信者は宅配便業社。

 飲食店を経営する河上さん。通販事業も行っており、普段ならなじみの宅配便のスタッフが配達の連絡をしてくる。だが、この日は知らない電話番号からのメールだった。

 知らない番号に不自然な文面。気になる点はあったがコロナ禍で配達需要も増えていることから「きっと忙しいのだろう」と考えた。

「先方に迷惑をかけてもいけないし早めに確認したほうがいいと思い、メールのURLにアクセスしたんです」

 するとアカウントにアクセスするためのAppleIDとパスワードの入力を求める画面が現れた。アイコンなどからは本物のAppleのサイトにつながる。これこそが詐欺グループの巧妙な罠。

 実は河上さんは過去にこの画面の注意喚起を受けたこともあったというが慌てていたこともあり気づかなかった。

 そしてIDを入れないと次のページに進めないと思い、つい入力してしまった……。

 異変が起きたのは午後9時を過ぎたあたりだった。

「IDとパスワードが変更された、とメールが来たんです」

 これも手口のひとつ。アップル社のカスタマーセンターは日本時間の午後9時で終了するため、緊急事態の問い合わせができなくなる。犯行グループはその時間が過ぎるのを待って自分たちのIDとパスワードに書き換える。

 不審に思った直後、Appleに登録していた電話番号が変更された。そのため、セキュリティー対策のための2段階認証すらも突破されてしまい登録していた自分の電話番号は削除された。

 ここまでの時間は1分にも満たない。そしてクレジットカードの不正使用が始まった。

 河上さんはどうすることもできずに大量に届く領収書のメールに恐怖を覚えながら、不安な一夜を過ごした。

騙されたことを中傷する人も……

 翌日、アップル社に連絡をし、IDやパスワードをすべて書き換えた。

「乗っ取られたアカウントには私の個人情報も書かれていました。それが悪用されたら、と考えると……流出も怖い」

 注意喚起を呼びかけるためこの経験をTwitterに投稿すると同様の被害に遭った人たちから相談が相次いだ。

「親のカードを使っている学生、主婦など年齢層や職業もバラバラでした。ですが、みんなメールの相手に迷惑をかけないように、とアクセスしてしまった。そしてひとり、不安を抱え、なぜあそこでアクセスしてしまったんだろう、と自分を責めていました」

 そこで可能な限り相談に応じ、対応方法をアドバイス。不安な気持ちも受け止めた。

 だが、中には騙されたことを中傷してくる人もいた。「私も注意していたし、詐欺サイトやメールへの知識も持っていたのにまんまと引っかかってしまった。誰でも被害に遭う可能性は高いんです」

 こうした犯行には自衛しか対策はない。だが、巧みに心のスキマを狙うのが騙しのプロ。次の被害者はあなたかも──。

お話を聞いたのは……ITジャーナリスト・三上洋さん●専門はインターネットのセキュリティーやネット事件など。ほかにもスマートフォンやネット動画、携帯電話料金などにも詳しい。番組を制作、配信するほかセミナー講師なども務める