東京・青海にある赤塚不二夫会館の外観

「ああ、やってしまった……」

 こんな経験はありませんか?

 例えば、徹夜で仕上げた企画書を保存しようと思ったのに、間違って全部消してしまった!

 ここまではいかなくても、「気合いを入れて書いた、長文メールの文章が消えてしまった」とか、そういうことってありますよね。

 あとは、保存のクリック1つで完了だったのに……。頭のなかは真っ白。そんなときに、なんとか立ち直らせてくれる「魔法の言葉」を紹介します。

赤塚不二夫の原稿が締め切り前に紛失!?

 私は本の執筆を生業としています。原稿はパソコンで作成していて、過去に何度も、「書き上げた原稿のデータを消してしまう」という失敗をしています。

 原因はいろいろです。完全に自分のミスだったり、原稿の作成中に突然、パソコンがクラッシュして、文章が全部飛んでしまうなど、不可抗力だったり。

 最近は、原稿を打っている途中でこまめに保存するクセがついていますが、つい先日もやらかしてしまいました。

 せっかく書き上げて、保存済みだった原稿に、別の原稿をコピペして上書き保存してしまったのです。8ページぶんの原稿が消え失せてしまい、「ウソでしょ」「やってしまった……」という言葉が、頭のなかを駆けめぐりました。

 こういったアクシデントが起こると、私はいつも「赤塚不二夫さんが編集者に言ったある言葉」を思い出して、書き直す気力を取り戻すようにしています。

 赤塚不二夫さんと言えば、『天才バカボン』『おそ松くん』などで知られる大人気漫画家です。お亡くなりになった今でも、キャラクターがCMに使われたり、深夜にリメイク版のアニメが作られたりしていることはご存知のとおり。

 その赤塚先生が人気絶頂だったころのこと。

 なんと、徹夜で仕上げた原稿を、担当編集者がタクシーのなかに置き忘れるという事件が起こったのです。

 真っ青になって赤塚先生のもとに戻ってきた編集者。無くした原稿を探していては、締め切りに間に合いません。ひたすらに謝って、「もう1度、同じ原稿を描いてください」とお願いします。

さすがは赤塚不二夫!

 それを聞いた赤塚先生からは驚きの言葉が。

「まだ(締め切りまでに)時間がある。飲みに行こう!」

 冗談ではなく、本当に、編集者を誘って飲み屋へ行く赤塚先生。

 ひと飲みしてから再び仕事場に戻り、締め切りまでに、描き直した原稿をきっちりと編集者に渡したのです。

 私が「仕事がおじゃんになったとき、気力を復活させるための魔法の言葉」として、ずっと使わせていただいているひと言を赤塚先生が言ったのは、描き直した原稿を編集者さんへ手渡すときでした。

 赤塚先生は、こう言って、編集者さんに原稿を渡したのです。

「2度目だから、(最初より)もっと、うまく描けたよ」

 赤塚先生! あ、あなたは神ですか!

 間違って、せっかく書いた原稿を消してしまったとき。私は、いつも、赤塚先生の言葉を思い出し、こう考えるのです。

「原稿は消えてしまったけど、消えてしまったおかげで、2回目は、もっとうまく書ける!」

 そう思って、最初から書き直す気力を呼び起こす。先日、8ページぶんの原稿を消してしまったときも、書き直しのときに、最初の原稿にはなかった話を盛り込むことができました。

 この考え方。強引ですが、企画書や長文のメール文面が消えてしまったときにも使えますよね。「2回目は、もっとうまく、書ける!」って。

 せっかくやった仕事がおじゃんになったとき。この言葉、ぜひ、使ってみてください。

(文/西沢 泰生)


【著者PROFILE】
にしざわ・やすお ◎作家・ライター・出版プロデューサー。子どものころからの読書好き。『アタック25』『クイズタイムショック』などのクイズ番組に出演し優勝。『第10回アメリカ横断ウルトラクイズ』ではニューヨークまで進み準優勝を果たす。就職後は約20年間、社内報の編集を担当。その間、社長秘書も兼任。現在は作家として独立。主な著書:『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)/『伝説のクイズ王も驚いた予想を超えてくる雑学の本』(三笠書房)/『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)ほか。

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