「ここはワンルームマンションなので入居者は独身ばかり。外国人を含む20〜30代の若い男性が目立ちますが、中年のおじさんも住んでいます。挨拶すら交わしたことはないけれども、ずいぶんと恥ずかしいことをしていたんですね」
と容疑者が暮らす集合住宅の男性住人はあきれる。
女子バレーボール選手の下着が透けてみえる動画をインターネットのアダルトサイトで販売し、女性の名誉を傷つけたとして、千葉県警が名誉毀損の疑いで逮捕したのは同県市川市に住む会社員・石上浩志容疑者(57)。
同県警サイバー犯罪対策課によると、
「(私がやったことに)間違いありません」
と容疑を認めている。
「2018年11月20日から今年3月10日までのあいだ、不特定多数のインターネット利用者に対し、当時26歳の被害者の顔と透けさせた下着を撮影した約8分間の動画を1200円で陳列販売していた。逮捕案件となったサイトでは40本以上の動画を販売しており、そのうち約30本が女性アスリートを対象とする動画だった」(捜査関係者)
石上容疑者は複数のサイトでこうした動画を販売していたとみられ、少なくとも6年前から計約600万円を売り上げていた。
手口については、
「モノクロ動画で下着が透けてみえる状況などから、赤外線カメラのようなもので撮影したものではないかとみて捜査中」
と前出の捜査関係者。
動画販売にあたっては《この作品は盗撮ふう動画です》と謳(うた)い、売らんがために次のようなウソ八百を並べたてていた。
《身分証は確認の上、18歳以上であり、法律・利用規約に基づいた内容です。上記身分証等、内容を確認しておりますので児童ポルノには該当しません。この作品はフィクションです》
動画では、女子選手が試合前に準備運動したり、試合中にプレーする様子が映されており、ユニホームを着用しているため本来ならば下着など透けるはずがない。本人に気づかれないよう盗撮したものとみられる。
女性アスリートのほか、一般女性を撮ったとみられる動画も販売しており、当事者が閲覧する確率の低いアダルトサイトで女性の名誉と引き換えに勝手に金にしていたとすれば許しがたい。
逮捕案件のサイトではこれら動画を1本あたり500〜1200円で売っていた。ほかのサイトでの価格帯は不明だが、平均値850円で換算すると約7059本も売りさばいていたことになる。
そんなイヤらしい人が住んでいたなんて
こうした裏収入と、表の顔である会社員としての報酬をあわせてどのような生活を送っていたかといえば、周囲には質素にみえる暮らしぶりだった。
東京都境に近い市川市内のワンルームマンションの家賃は管理費込みで月約7万円。築十数年と比較的新しいためトイレは温水洗浄便座つきだが、最寄り駅まで徒歩約15分とずいぶん歩かなければならない。
冒頭の住人とは別の20代の男性住人は少し面倒くさそうに言う。
「容疑者はひとり暮らしだと思いますよ。というか部屋が狭いので家族で暮らすのはまず無理です。駐車場もないので歩くか自転車しかない。そこそこ稼いでいるはずの50代サラリーマンが住む部屋じゃありません。悪いことをして得た金は生活費以外にあてていたんじゃないですか」
周辺は閑静な住宅街で、複数の近隣住民によると、ここ最近は不審者情報などは聞いたことがないという。
「そんなイヤらしい人が住んでいたなんてショック。どこかヨソに引っ越してほしい」
と近所の主婦はばっさり。
名誉毀損容疑での摘発は全国で初めて
女性アスリートを性的な意図で盗撮し、画像や動画をネットなどで拡散する行為は社会問題となっている。
五輪開催を控え、事態を重くみた日本オリンピック委員会(JOC)など関係団体は昨年11月、被害撲滅を訴える共同声明を発表。
今年5月には、テレビ局がオンエアした女性アスリートの画像を無断転載したサイト運営者を警視庁が著作権法違反容疑で逮捕。本件逮捕と同日の6月21日には、テレビ番組で放送された水着姿のジュニアアスリートの画像をアダルトサイトに無断転載した36歳会社員を警視庁が逮捕している。
刑法の名誉毀損容疑での摘発は全国で千葉県警が初めてだった。法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金となる。
事件は千葉県警サイバー犯罪対策課の捜査員によるサイバーパトロールで発覚した。
「女性アスリートの被害が社会問題化しているのを受けて捜査を開始したのは間違いない」(前出の捜査関係者)
前述した容疑者の陳腐な説明書きを、専門の捜査員が真に受けるはずがなかった。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する