若者のしゃべり言葉の本来の意味や、意外と歴史が古~い言葉、日常的に使っているけれど、実は間違った言い回し……。テレビでも人気の山口謠司先生が教えてくれた奥が深~い日本語でディスカバー日本!
知ってた? 【1】若者言葉の本来の意味!
1.【推し】
推しを推す、とかもう意味不明だってば!
「“推し”ってすごい言葉ですよね。“隹”は、ずっしりとしたものを表す。漢字の意味的にはその重苦しいものを手で押して、はねのける・おしのける、という意味なんです」(大東文化大学教授・山口謠司先生、以下同)
いまや動詞でなく「私の推しは~」などと自分の推すアイドルやキャラクターを表す名詞のようになってるけど?
「ならば“推し”より“挙げ”のほうが、ニュアンス的に近いかなぁ? 挙には、ワッショイワッショイとその人を応援する意味があるからです」
挙げ活、挙げメン、挙げが尊い……先生のおすすめの“挙げ”をぜひ使ってみて!
2.【あざと可愛い】
“あざと可愛い”はあさはかわいい!?
数年前まではぶりっ子キャラで同性から不人気だった田中みな実も“あざと可愛い”ブームで女性たちの憧れの的に。そもそも“あざとい”って褒め言葉なの?
「“あざと”はもともと、子どもっぽい・あさはかであるという意味。現代では少し変化して“小利口で、やり方があくどい”という意味ですが……本来の意味でなく小悪魔的、というニュアンスで使っているのかもしれませんね」
ブームとはいえ、あざと可愛いはイイ意味じゃなさそう! 使い方にはじゅうぶんご注意を!
3.【ヤバイ】
連呼するのはヤバイよ、ヤバイよ〜
若者の会話で、日常的に使われている「ヤバ!」。
「川端康成が小説で使ったことで流行った言葉ですが、もとは盗人たちが使った隠語。兵庫県の方言では“弱いこと”、福井県では“狡猾なこと”を指します。“ヤバイ”は、人に対して使うとヤバイよ、って思っています(笑)」
出川哲朗のギャグも意味を知らずに使うとヤバイよ〜!
知ってた? コラム.1
ウナギと穴子が同じもの? ナニ言ってるニョロ~!
黒くてヌルヌル、ニョロニョロ長いウナギと穴子。たしかに見た目も食べ方も似てるけど……。「ウナギの“うな”は穴の意味。そして“ぎ”は穴子の“ご”と同じく、小さいものを指します。穴のような所に潜んでいる小さなもの、という意味では2つは同じ名前といえます」。今年も豊漁だというウナギ。なんなら値段も穴子と同じになりますよ~に!
知ってた? 【2】その言い方、間違ってるよ!
4.「ことのほかキライ」
“こと”の漢字は事でなく、殊。「殊には木を切り倒すことを表す“朱”と、死と同じ部首から、殺してしまう、という意味があります」。つまり“ことのほか”には、それ自体に好きなものを1つ決め、それ以外はすべて切り捨てる、という意味がある。なので、ほかを切り捨てたのに“キライ”って重複させて使うのはオカシイのだ。
5.「あっけらかんとした性格だ」
なぜか「天真爛漫な性格」的な意味で使われることもあるけれど、実は「“あっけ”は呆気、口をポカーンと開けている様子のこと。あっけにとられる、などにも使いますよね」。本来の意味でいえば“呆然と口を開けた性格”なんて意味になっちゃうぞ!
6.「ひとり旅をする」
ソロ活ブームの今、ひとり旅なんて気軽に使う言葉だけれど、実は……「旅という漢字は“方”が旗を立てている様子、“从”が人の集まりを示す。つまり先導がいて集団で移動することを表すのです」。旗を立てて集団を率いる、なんてまさにひと昔前のガイドツアーそのもの! へぇ〜、ひとりでは旅ってできないものなのね~!
7.「すごい楽しかった~」
今日のデート、すごい楽しかった~! なんてモテ子を気どって使いがちだけど、文法的には間違い。「すごいという形容詞は本来、名詞にしかつかない。でも“すごく”よりも、感覚的に度合いを強調できますよね」。いまや“めっちゃ”でも“マジ”でも、すごさが相手に伝われば、文法からはずれていてもアリなのかも?
8.「のべつ幕なしにしゃべる」
ひっきりなしにしゃべる人に使ってしまうけれど、「もともとは“述べつ”という、ずっとしゃべり続ける様子を表す言葉。明治時代に“幕なしに〇〇する”となり、“まるで、しゃべり続けて幕を下ろすことができないくらいに〇〇をしている”という意味に」。だから“しゃべる”をつけると意味がダブっておかしい!
「のべつ=しゃべる」なので、言葉の二重使いになってしまう
知ってた? 【3】意外と古~くからあるコトバです!
9.【すっぱぬく】
イマドキ“すっぱ”の任務はパパラッチでござる!
週刊誌でおなじみのこの言葉は漢字にすると“素破”。「素(もとのまま)を破るので、暴くという意味になる。情報収集や奇襲が得意な忍者のことを鎌倉時代には素破と呼んでいました」。そして戦で名告りもなく、いきなり斬りつけてくるさまを“すっぱぬく”といった。現代の忍者(記者)たちに、スキャンダルを狙われる有名人はご用心!
10.【かったるい】
腕がだるいことを指していた言葉が変化
「明日の仕事かったるいな~」などと使う“かったるい”は、若者言葉のようだが実は室町時代から使われている古い言葉。「もともとは“腕(かいな)だるい”と言って、腕をぐるぐる回して肩をほぐす様子を表した。これが時代とともに変化しました」。疲れて動くのが面倒~、というニュアンスは昔から変わらないかも!
「かったりーなぁ」って意外と古風な表現だったのね☆
11.【たまげる】
魂が消えるくらい驚くことってナニ!?
びっくりしたときに出るこの言葉。「“たまげる”のたまは、肝っ玉とか人魂の魂を表し、げるは消えるを早口で言った言葉です。漢字で書くと“魂消える”となり、魂が消えてしまうくらい驚いてしまう様子を指します」。ちなみに“びっくりする”も室町時代からある言葉。バブル時代に流行った“おったまげ~”は、茨城弁だそう。
12.【にやける】
いつの時代もイケメンを見たらニヤけちゃう♪
楽しいことを想像して薄笑いを浮かべる様子を指すこの言葉。「鎌倉時代、身の回りの世話をする可愛い男の子のことを“若気(にゃけ)”と呼んでいた。江戸時代には男性が派手な着物でなまめかしくしているのを“にゃける”というようになり、明治時代には“にやける”に変化したのです」。言葉と使い方は変わったけれど、可愛い男の子が語源なのは納得!
13.【生憎】
嫌な気持ちがモヤッと心の中にある状態
生憎ですが……など、丁重に断りを入れるとき便利な“生憎”は「“あやにくし”が変化した言葉。平安時代の『蜻蛉日記』にも出てきます。あやにくしのあやは現代語なら“あぁ”。あ~憎たらしい、という意味。また“憎い”の曽は、水蒸気のモヤモヤを指します」。つまり、うまく言えないイヤ~な気持ちがある状態を表す言葉なんだって。
知ってた? コラム.2
五輪は新聞記者が考えた言葉だった!
「1940年のオリンピックが東京に決定したニュースを新聞記事にしようとしたとき、なるべく“オリンピック”の文字数を少なくしようとした記者が、宮本武蔵が書いた『五輪の書』と五つの輪を結びつけたのがきっかけです」。今でも使う五輪。東京五輪はどうなることやら!
日本語ハカセ! 山口先生のつぶやき
面白い変化を遂げる日本語を知ってドヤれ!
「イマドキの若者言葉、面白いですよね。こういう言葉の派生って、とっても日本語らしくていいなぁと思います」
と、語るのは、日本語に関する著書も多い大東文化大学教授・山口謠司先生だ。
「日本語は生きてどんどん変化しています。この変化を楽しみ、成長させていくのが今を生きる私たちの仕事。ただちょっと間違った使い方だなぁと思うときは、修正することも忘れてはいけないですね」
ちなみに特集タイトルの“ドヤれる”の語源は“どやく”。関西の方言で、わめく・どなるの意味だったそう。
「そこから、どや~(どうだ)と誇示する意味に変化したようです。日本語の柔軟さと面白さ、少し下品さもあって笑いを誘う言葉ですね」
(取材・文/安川ヤス子)