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 雨が降ると頭痛がしたり、台風の前には身体がダルかったり……。その不調、天気の変化で起こる“天気痛”かもしれない。

人体に常にかかっている15トンの圧力

「私は長年、痛みと自律神経の関係性について研究をする中で、気象の変化にまつわる痛みを“天気痛”と名づけました。正式な病名ではありませんが、天気痛は日本の気候の変化がもたらした新しい疾患概念といえるでしょう。実際、年々、天気痛で悩む患者さんが増えていることを実感しています」(佐藤先生)

 天気には風速や降水量などさまざまな要素があるが、身体への影響が大きいのは「気温」「湿度」「気圧」の3点

「気温と湿度は昔から身体に影響を与えることが知られています。気圧は、気温や湿度のような体感はありません。しかし、実は私たちの身体の表面積を約1・5平方メートルと仮定すると、人体には常に15トンもの圧力がかかっているのです。私が行った実験では、気圧の変化が天気痛の原因であることが明らかになりました」

 気圧の変化に敏感に反応するのが、耳のいちばん奥に位置する内耳だ。

「内耳は音を聴きとる聴覚と、身体のバランスをとる平衡機能をつかさどる部分ですが、ここには気圧を察知するセンサーもあります。気圧の変動はこのセンサーになんらかの影響をもたらし、痛みやめまいといった不調を強めていると考えられます」

 また、天気痛の症状は自律神経と深い関わりがある。

「自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、心身ともに健康であるためには2つのバランスを保つことが大切。気圧の変化を受けると交感神経が活発になって自律神経のバランスが崩れ、そのためさまざまな不調が現れてしまうんです。さらに女性は、閉経前後で自律神経が乱れやすい。気圧の変動が体調不安のトリガーとなるのです」

 梅雨は天気痛が出やすい時期でもある。

「梅雨の季節は気圧が変動しやすいうえに、湿度や寒暖差といった要因も上乗せされます。気圧の上下がある台風は3日程度で過ぎますが、梅雨は長期戦。私の患者さんのほとんどは、いつも以上に症状がつらいと訴えています」

コロナ禍のストレスで天気痛が悪化

 コロナ禍におけるストレスも天気痛に拍車をかけるという。

「天気痛の方は気分が下がりがちな傾向があります。コロナ禍のストレスによって余計に気持ちが落ち、不調を感じやすくなっています」

 天気痛の予防と改善に役立つのが、佐藤先生が考案した「耳くるくるマッサージ」。

「これまでの研究で、内耳の血流が悪いと天気の影響を受けやすいことがわかっています。“耳くるくるマッサージ”は内耳への血流を促進させる働きがあります」

 こうしたセルフマッサージで日ごろから症状に対応しておくことはとても大切だ。

「痛みがつらいと薬に頼ってしまいたくなりますが、私はクリニックに来られた方にはまずマッサージをすすめています。それから漢方、それでもだめなら薬といった順です。薬剤の使用過多による頭痛の方も多いですから、市販の鎮痛剤は1か月に10日以上の使用は控えましょう」

【えっ!? これも? 天気に関係する症状】

●頭痛……前頭部やこめかみがズキズキと痛む「片頭痛」は、70%以上が天気の影響を受けるといわれている。また、頭部を圧迫されるような「緊張型頭痛」は天気のほかにも頭や首の筋肉の緊張やストレスが痛みの誘因になることも。

耳の症状……天気が悪くなる前に耳の奥がつーんとしたり、ボワーッとするなど、なんらかの異常を感じるときは天気痛が疑われる。

首・肩の痛み……首や肩の痛みも天気の影響を受けやすい症状。特にむちうちなど過去にケガをしていたり、首や肩がこりやすい人は天気によって痛みが出やすい。

気管支ぜんそく……天気が悪くなったときや季節の変わり目にはぜんそくの発作が出やすい。特に高齢者のぜんそくに多く見られる傾向がある。

めまい……めまいは単独で起こることもあれば、片頭痛の予兆として天気が崩れる前に現れることも。また、緊張型頭痛もめまいを伴うことが多い。

更年期症状……ホットフラッシュやほてり、気分の落ち込み、イライラといった更年期に起こりやすい症状は天気とも関係が深いといわれている。

慢性痛……骨折やねんざ、手術の痕などの古傷は天気によって痛みがひどくなる。また、神経痛や腰痛、ひざ痛といった慢性痛も天気の影響を受けやすい。

心の不調……気分が憂鬱になって何も手につかない、不安になる、クヨクヨするといった心の不調は、天気の変化に大きく左右される。

認知症……興奮やイライラ、徘徊、暴行、うつ症状など認知症でよく見られる周辺症状も天気と関係しているという報告がある。

耳くるくるマッサージのやり方

 天気痛の予防と改善に役立つのが、手軽で簡単な「耳くるくるマッサージ」。いつでもどこでもできて身体への負担も一切ナシ。1日1分、朝昼晩と3回を毎日続けると効果的。

【1】親指と人さし指で両耳を軽くつまみ、上・下・横にそれぞれ5秒ずつ引っ張る。

【1】親指と人さし指で両耳を軽くつまみ、上・下・横にそれぞれ5秒ずつ引っ張る。 イラスト/赤松かおり

【2】耳を軽く横に引っ張りながら、後ろ方向に5回、ゆっくりと回す。

【2】耳を軽く横に引っ張りながら、後ろ方向に5回、ゆっくりと回す。 イラスト/赤松かおり

【3】耳を包むように折り曲げて、5秒間キープ。

【3】耳を包むように折り曲げて、5秒間キープ。 イラスト/赤松かおり

【4】手のひらで耳全体を覆い、後ろ方向に5回、円を描くようにゆっくりと回す。

【4】手のひらで耳全体を覆い、後ろ方向に5回、円を描くようにゆっくりと回す。 イラスト/赤松かおり

まだある! 梅雨時期の天気痛対策

 軽い運動も天気痛に効果を発揮する。

「散歩でもヨガでもYouTubeのエクササイズ動画でも、じんわりと汗をかくような運動を週に3日ほど行うと、自律神経のバランスがよくなります。汗をかいて水分代謝をすることで内耳の働きが正常になり、天気の影響を受けにくくなっていくんです」

 女性は身体に水分がたまりやすくむくみやすい。適度に身体を動かしてしっかりと汗をかくように心がけよう。

ストレッチ・ヨガ
 天気痛の予防・改善におすすめなのは「ゆっくり」「長く」「無理せず」できる運動。ストレッチやヨガで身体を心地よく伸ばすだけでも身体にはいい効果がもたらされる。

低温で半身浴
「忙しくて、運動する時間がなかなかとれない……」という人は、38~40度程度のぬるめのお湯で15分程度の半身浴を。じんわりと汗が出て心身ともにスッキリ。

教えてくれたのは……愛知医科大学客員教授・医師 佐藤純先生
1958年福岡県生まれ。疼痛生理学・環境生理学を学んだのち、名古屋大学教授を経て愛知医科大学病院で日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設。『「雨の日、なんだか体調悪い」がスーッと消える「雨ダルさん」の本』など著書多数。

(取材・文/熊谷あづさ)