介護職歴20年の安藤なつさんと、研修を受けこれから実施にトライする加藤綾菜さん。介護をする側と受ける側の葛藤とは。「介護職の本音」を語ります。
中1から始めた介護ボランティア
綾菜 安藤さんは、中学1年生から介護を始めたってホントですか?
安藤 伯父が小規模の介護施設を運営していて、子どものころからよく遊びに行っていたんです。中1から土日に泊まりがけのボランティアを始めて、高校生になってからはアルバイトに変わりました。
綾菜 そのころは、どんなことをしていたんですか?
安藤 おむつ交換、トイレや入浴の介助、食事の介助、何でもやっていましたね。アットホームな雰囲気だったこともあり、つらいと感じたことは全然なくて、遊びに行く感覚で楽しかったんですよ。
綾菜さんこそ、まだ若いのにどうして介護に関心を持ったんですか? やはりご主人がきっかけ?
綾菜 45歳の年の差があるとはいえ、加トちゃんはまだとても元気。でも、周りの、彼と同世代の友人で、突然介護が必要になった人もいて。志村けんさんのこともあり、いつまでも今のままではいられないと思うようになってきました。私は加トちゃんをものすごく愛しているので、もし彼が倒れるようなことがあったら全力で支えたいし、ずっと元気でいてもらうためにも知識や経験を増やしたいと思ったのが、本気で介護を学ぶきっかけでしたね。
介護の醍醐味は心が通じた瞬間にあり
安藤 それは素晴らしい! そして、綾菜さんに向いていそうですよね。
綾菜 そうなんですよ。お年寄りが大好き! 銭湯通いが好きで、そこで仲よくなったおばあちゃんの友達が何人もいるんですが、頼まれごとをされたりすると妙にうれしくて(笑)。仕事となるとまた、違うのでしょうけど。
安藤 とはいえ、介護も人と人との関わりですからね。私も中学1~2年くらいのときのことで、とても印象に残っているのは、ひとりの認知症のおばあちゃんのこと。あるスタッフさんにだけは心を開いて言うことを聞くものの、ほかの人にはすごく頑ななおばあちゃんでした。私が着替えの担当になって何度お願いしても絶対、着替えてくれないんです。それが、数か月たったある日、突然「うん、着替える」と言ってくれて。たまたまタイミングが合ったのかもしれないけど、自分が受け入れてもらえたようで、その時はただただうれしかったですね。
綾菜 わかります~。私も、少しでも現場を知りたくて、デイサービスでボランティアをしたことがあるんです。月に1回、ひとり暮らしのおばあちゃんの車イスを押して買い物に付き添ったりしたんですが、最初は全力で嫌がられて(笑)。心が折れそうになったものの、めげずに続けているうちにだんだん親しくなれて、最後は「月にたった1回の楽しみの日に来てくれるのがあなたで本当によかった」って言ってもらえたんです。涙が出るほどうれしくて! コロナのせいで中断しているのですが、またぜひ、現場に出て経験を積みたいです。
家族の介護には第三者を入れたい
綾菜 安藤さんは、芸人さんになってからも介護のお仕事をしていたんですよね?
安藤 20歳のときに『ホームヘルパー2級』(現在は『介護職員初任者研修』の資格を取って、深夜の巡回介護をしていました。週に3回、15軒から20軒のお宅の鍵を預かって、おむつ交換や安否確認をするんです。
綾菜 おむつ交換って、私、資格を取るための授業でやったことはあるんですけど、実際に経験したことはないんです。大変ですよね?
安藤 きっとびっくりすると思います。頭の中ではイメージできていても現場では全然違うんです。私も初めて、大人のおむつ交換を経験したとき、それまでの知識は全然役に立たなくて「これはやってみないとわからないな」とつくづく思いました。
綾菜 私も、加トちゃんがおむつをするなんて全然想像できないんですが、いつかそんな日も来るかもしれません。そのときに気持ち的に引かないで、持てるすべての愛を注いで対処するには、今から経験しておかないと、と思うんです。それもあって、現場で働きたいんですよね。
安藤 ご主人も幸せですね。でも、もしご主人が倒れるようなことがあったら、ひとりで介護したいですか?
綾菜 いいえ、どんどん人に頼りたいと思っています。
安藤 家族を介護するのと、他人を介護するのは全然違いますからね。家族が衰えて何もできなくなっていくのが許せなくなることも。許せないというのも実は悲しみの裏返しで、事実を受け入れるのがつらいんですよね。
綾菜 以前、加トちゃんが病気で倒れて大変な状態になったときは、弱った彼を誰にも見せたくないと思ったんです。その気持ちが強すぎて、2人きりで家に引きこもり状態でした。介護の勉強をするようになって、私は何があっても自分1人でやろうとしちゃうけど、それではダメだと気づかされました。いろんな人の手を借りたほうが、自分にも余裕が生まれて、愛情深く介護できると思います。
安藤 家族の世話を人に頼むのはよくないという風潮がありますが、そんなことは全然ない。そのほうが、介護される側も楽しく過ごせることもあると思うんです。もっと人に介護を頼むハードルが低い社会になるといいですね。
自分でおむつをしてみて初めてわかることも
綾菜 いろんな制度があっても、知らなくて使っていない人もたくさんいますものね。
安藤さんは、介護する人にはどんなことが必要だと思いますか?
安藤 介護される人は十人十色。みんな違いますから、相手が今、何を望んでいるのかいないのかをくみ取る力が必要ではないでしょうか。経験を積むしかないですよね。
綾菜 わかります。一度実習で、おむつ替えをしたとき、どうすれば上手にできるかばかり考えていて、やってもらう人の気持ちを想像する余裕がなかったんです。それを注意されて、自分も1日、おむつをつけて過ごしてみたら、全然、出なくて……。そのとき初めて、おむつを替えてもらう側の気持ちが少しわかったように思いました。
安藤 私も同じ経験がありますが、やっぱり出なかったです。排泄ってやはりものすご~く羞恥心が伴うものなんですよね。その羞恥心の程度もまた、人によって違うし、なかなか難しいです。
綾菜 でも、これだけ高齢者も増えて、ますます介護が必要になるのに、介護に携わる人が減っているように思うんです。私が一緒に授業を受けた若者たちもみんな介護職を辞めてしまいました。
安藤 やっぱりお給料が安いからでしょうね。誰だって自分の生活があり、そこがまったく満たされないのに天使のような笑顔で頑張れと言われても無理ですよ。
綾菜 私もこういう機会に「介護って素晴らしい。やりがいがあります」って発信していきたいのですが、介護を本職にして生活する大変さを考えると、うかつなことも言えなくて悩みます。介護の仕事に就く人が、もう少し将来に希望を抱けるしくみがあればいいですよね。私たちの世代が介護される側になるころには、老人施設に入居することも今より難しくなるんじゃないですかね。
安藤 絶対にそうだと思います。給料が安いうえに、将来に夢を持てず、体力的にもキツい。それでは誰もやりたくならないですよ。私も、精神的にキツいと思ったことはないけど、腰痛には悩まされました。もっとリフト機器の導入が進んでいれば、と思うんですけどね。日本は介護のテクノロジー導入も遅れていると聞きます。
綾菜 そうですよね。機器の導入が進めば、介護者が腰を痛めるとか、身体に無理をするということも減りそうです。私たちひとりひとりが声を上げていくことが大事ですよね。コロナが収束したらすぐにでも介護の仕事に就きたい私にアドバイスがあれば!
安藤 偉そうなことは言えませんが、でも、大変なことがあっても“忍耐で!”とか思わないほうがいいかも。忍耐だと思った時点で、その仕事はしたくないってことなので。最初からあまり構えないで、平常心で自分らしく取り組むのがいちばんですよ。
綾菜 知識や経験は足りなくても、笑顔で明るくやれば何とかなりますよね!? 今日はありがとうございました。頑張ります!
かとう・あやな●1988年4月12日生まれ。2011年に加藤茶と結婚し、45歳の年の差婚で注目を集めた。夫を支えるため介護を勉強。「介護職員初任者研修」(旧ホームヘルパー2級)、「介護福祉士実務者研修」(旧ホームヘルパー1級)を取得。TWIN PLANET所属。
あんどう・なつ●1981年1月31日生まれ。介護歴は20年以上。'12年、カズレーザーと『メイプル超合金』を結成し『M-1グランプリ』などで注目を集め大ブレイク。'19年11月22日には自身のブログで、年下で介護職に従事する一般男性との結婚を発表した。
《取材・文/中村裕美(羊カンパニー)》