脳の前頭葉は、早ければ40代頃から委縮し始め、50代になると老化がじわじわと進行していく。そこへもってきて、コロナ禍でマスク生活が長引き、笑うことも少なくなった結果、感情のコントロール機能や・自発性・意欲が低下し、脳の老化に拍車をかけているのだ。
このままでは絶対にまずい。これから60代、70代に向かっていくのに、今から脳老化を進行させるわけにはいかない。どうしたらいいのか。
脳の専門医・田澤俊明先生はこう言う──「鏡を見て笑いなさい。鏡に映った自分の笑顔を見て快感神経を刺激することで、脳は活性化します。免疫力もあがりますよ」。
そんな簡単なことで、脳は若返るの!? 教えて、田澤先生!
笑うと“NK細胞”が活性化する
「欧米や日本で笑いの効果に関する研究が進み、病気の予防や改善に役立つことが証明されています」と田澤先生。
例えば、漫才や喜劇を楽しんだ直後に採血を行ったところ、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)が活性化した実験結果もあるという。NK細胞とは、がん細胞やウイルス感染細胞などを攻撃して破壊する免疫細胞のこと。
笑うことで、免疫系の一部をコントロールしている間脳が刺激され、NK細胞を活性化する神経伝達物質が大量に分泌されるというのだ。
笑うだけで免疫力が上がり、病気を防げるなんて、にわかには信じられないけれど、よく笑う人は、笑うことがほとんどない人に比べて脳卒中や心筋梗塞のリスクが低くなるという研究発表もある。他にも糖尿病の人の血糖値が低下し、しかも血糖値の高い人ほど、大きく下がったそうだ。
このように、笑いが健康に果たす役割は、私たちが思っている以上に大きい。そして現在、私たちが直面している新型コロナウイルス感染症に対する予防効果の可能性も期待できる。ワクチン接種も大切だけれど、ウイルスを撃退する免疫力アップのためにも注目したい。
鏡の中の自分にほほ笑むだけでいい
でも、笑うだけで健康効果があるといわれたって、面白いことがなければ笑えるもんじゃない……。そんな声が聞こえてきそうだが、なんと面白くなくても“つくり笑い”をするだけでいいらしいのだ。
田澤先生に解説してもらおう。
「人間(霊長類)の脳には、『ミラーニューロン』という特殊な神経細胞があります。別名『物まね細胞』です。
相手があくびをすると、自分もつられてあくびが出てしまう。頭をかくと、自分もかいてしまう。笑いかけられると、自分もほほ笑み返してしまう。あるいは、相手が泣いているのを見て、ついもらい泣きしてしまう。そういう経験は誰にでもあるでしょう。
このように相手の行動を見て、“鏡”に映るように自分も同じ行動をしてしまうので、ミラーニューロンといいます」
そして、このミラーニューロンを利用するのが『鏡に映った自分の笑顔を見て、脳を活性化させる』という作戦だ。
面白いことがなくてもいいから、とりあえず鏡に向かってにっこりとほほ笑んでみよう。すると、鏡の中でほほ笑んでいる自分を見て、脳は「楽しいんだ」と理解(錯覚?)してくれるというわけだ。
さらに、別名“快感神経系”ともいわれるA10神経系が刺激され、脳内ホルモン(神経伝達物質)の1つで幸福感ややる気をアップさせるドーパミンも分泌される。
最後に、田澤先生は50代にむけて、心強いエールを送ってくれている。
「とくにうれしいことがなくても鏡の前で笑顔にはなれるでしょう。1日に何回かでも鏡の前に立ったら、笑顔になりましょう。免疫力が上がり、さらに脳の衰えを防ぐ相乗効果が期待できます」
(取材・文/水口陽子)
《PROFILE》
田澤俊明 ◎新都心たざわクリニック(脳卒中予防と脳疾患の早期発見・早期治療を目的とした脳神経外科専門のクリニック)理事長。東京医科歯科大学卒業、脳血管障害の分野ではトップクラスの専門医。主な著書に『脳は死ぬまで進化する』他多数。