昨年4月に初めての緊急事態宣言が発令され、その後も新型コロナウイルスの脅威は収まることなく1年以上の月日が流れた。
「学校が一斉休校になったり、夫が在宅となったり……。コロナ禍となり、家庭を持つ女性には大きな負荷がかかりました。それを表すかのようなショッキングなデータがあるんです」というのは、心理カウンセラーの大野萌子さん。
3月に発表された厚生労働省と警察庁のデータによると、2019年の自殺者は男性が1万4078人、女性が6091人、2020年は男性が1万4055人、女性が7026人。男性が微減なのに対し、女性は約1000人も増加した。今年に入っても増加傾向は続いていて、警察庁の暫定値では、今年5月に自殺した女性は616人で、前年同期に比べ23・7%増加。2020年6月から11か月連続で前年を上回っている。そして注目したいのが、自殺者の中で急増しているのが“同居あり女性”だったという点(厚生労働大臣指定法人いのち支える自殺対策推進センター「10月の自殺急増の背景について」より)。
大野さんの元にも、「夫も子どももいるのに、どうしようもない孤独を感じる」「家族と一緒で幸せなはずなのに苦しくて仕方がない」「夫が在宅となり、1日3回の食事作りを毎日するのが苦痛」「ひとときもリラックスできない。やることが多すぎて、押しつぶされそう」など、主婦からの相談が多く寄せられている。家族が家にいるため、クローゼットの中から声を殺して電話をしてきた女性もいた。
家庭の不安を背負ってしまう
なぜ主婦ばかりが追い詰められてしまうのだろう。
「大きく3つ考えられます。第一は、お母さんが家族のストレスの矛先になりやすい点です」(大野さん、以下同)
夫が、リモートにストレスを感じる、コロナ禍で仕事がうまくいかないなどから、妻に八つ当たりをしたり。子どもが外で遊べずにイライラして、母親に当たり散らしたり。
「家族の中心人物であるお母さんは、自分だけでなく、みんなの心理負担も背負うことになるのです」
第二は、女性が持つ役割の多さによる。
「母の役割、妻の役割、家事など生活全般を担う役割、実母や義母に対して子どもとしての役割……家族を持つ女性は役割がとても多い。やるべきことや気がかりなことが山積みで、常になんとかバランスをとっている状態です」
コロナ禍でどこか1か所に負荷がかかると、たちまちバランスが崩れ、連鎖的にすべてが回らなくなってしまいがち。
「一気に、全部つらい、という気持ちに陥ってしまうのです」
最後は、収入が少ないことへの引け目。
「例えばコロナ禍でパート収入が減った場合、うしろめたさを感じる人が多いです」
夫から「仕事もしていないんだから、家事くらいちゃんとしろ」などと心ない言葉をかけられでもすれば、反発もできず、すべて真に受けてしまいやすい。
「自分のふがいなさや、家事をきちんとやらない自分が悪いなどと感じ、自分を追い詰めてしまうのです」
リセット時間を持つことが大事
コロナ禍前であれば、気分転換にちょっとウインドーショッピングを楽しんだり、ママ友に夫のグチを言うなどして、ストレスを発散できた。けれども現在は、家族が家にいることが多く、ひとりの時間が激減。
「行動が制限され、ストレスも吐き出せず、精神的な閉塞感が募りやすいと思われます」
つらい、苦しい、悲しい、死にたい……そんな感情を少しでも抱いたら、押し殺さずに「今、自分は追い詰められている……と早めに自覚して、気づいてほしい」と大野さん。限界を超えてなお我慢をしていると、つらい状況に麻痺してしまい、無力感、絶望感、孤立感に支配されてしまう。“自分はこの世に必要とされていない”という気持ちが膨らみかねない。つらいときは、次に紹介する方法を試してみてほしい。
つらいときは試してみて!
【ひとりの時間をつくる】
「散歩をしたり、密を避けてショッピングをしたり。人間は誰かと過ごす時間も大切ですが、同様に、ひとりで過ごす時間も必要です」
【身体を動かす】
「心と身体は連動しています。心が凝り固まっているときは、まず身体からアプローチを」
気持ちが落ちているときほど、軽い体操やストレッチをしたり、マッサージに行くなどを意識的にやってみて。
「気分転換にもなるし、心も次第にほぐれていきます」
【悲しさや腹立ちなどの思いを誰かに話す】
心の内を話すことはカタルシス効果といい、浄化作用がある。
「友人や親、姉妹など、誰かに聞いてもらえると、心はぐっと軽くなります」
【“リセット時間”を持つ】
「憂うつな時間を引きずって1日を過ごすのではなく、1日1回は気持ちを切り替える時間を持ってほしいです」
趣味があれば、それに没頭する時間を大切に。好きなドラマやコンサート映像などを見て、違う世界に意識を向けても。また、香りを楽しむのもおすすめ。
「香りは感情と記憶に直結している感覚器官。気分転換に非常に効果的です」
コーヒーを豆からひいたり、アロマをたいてみたり……。
「リセット時間は1日に何度あってもOK。小まめに数回あるといいですね」
思い詰めてしまう女性は、まじめで頑張り屋さんが多い。
「自分だけの時間、ボーッとする時間を持つことに罪悪感を持たないで。その余白があるから、人はまた頑張れるのです」
家事も子育ても、仕事もこなし、すべてを担うことは不可能。手を抜くことも、必要不可欠なのだ。
(取材・文/樫野早苗)