人生最大のイベントのひとつでもある結婚。晩婚化が進む現在、適齢期ギリギリで婚活を始める女性も数多い。そんな焦る気持ちにつけ込まれ、男に騙された女性たちの“それから”とは―。
婚活パーティーで仕組まれた罠
婚活パーティーは独身男女が参加するもの。そう信じて参加し、出会ったら男性は既婚者で、騙されたとわかったときは、お金も心も奪われていた。そんな悪行男に惑わされる女性が後を絶たない。
さらに婚活アプリが浸透するにつれて、不倫相手を探すツールや、結婚詐欺の温床になるケースが顕著だ。
アパレル会社に勤務の美帆さん(仮名・35歳)は5年前に医師や弁護士、経営者などハイスペック男性が多く集まる婚活アプリで、結婚相手を探していた。だが相手が見つからず、理想が高すぎたと気づいた。30歳までに結婚したかった彼女が“方針”を変えることを決意した矢先─。
「ハイスぺ男性が集うパーティーの参加はこれで最後と決めて臨んだときに、長身で爽やかな雰囲気の男性から声をかけられたんです」
2歳年上の不動産関係に勤める男性。彼が好むファッションブランドが、美帆さんの会社で販売しているものだったこともあり話が弾んだ。だが男性のエスコートがスマートすぎたので「女性慣れしている」と感じた美帆さん。話を切り上げて、別の男性に声をかけようと移動を決めたとき、彼の大学時代の友人を名乗る男性がやってきた。
「“久しぶり”とか“元気だった?”とまるで再会を喜んでいるように見えた2人でしたが、実は仕組まれた芝居だったんです。後からわかったことですけどね」
と、彼女は悔しそうに唇を噛む。
「友人と名乗る男性は有名なIT会社に勤務していると自己紹介してきました。不動産業の彼が私たちのドリンクを持ってきてくれる間に、男性は“彼は昔から硬派だけど、あなたと話しているときはリラックスしているように見える”と言うのです」
フォローしているのかな、と思いつつ「女性慣れしているように感じますけど」と彼の印象を話すと、
「大学のテニスサークルは女性が多くて、副キャプテンだった彼は女性たちに気を使っていましたから」
と、サークル時代のクセだという。そこに彼が戻ってくると、その男性は私たちのそれまでの会話を彼に教えつつ、
「“彼女、気にしているみたいだよ”とまるで私が彼に気があるみたいなことを言いだして。すかさず“今度ランチしませんか”と彼が誘ってきたんです」
結婚も近いと有頂天になっていた
最初のランチはお台場のイタリアンレストラン。テラス席の、ゆったりしたソファに座って、ランチシャンパンで乾杯し、ピザやパスタをシェアした。彼は美帆さんに仕事のことをいろいろと尋ねてきた。
「リーマンショック以来、アパレル業界は将来が危ぶまれていると、つい口にしたんです。すると彼が“不動産を持ってみませんか”とすすめてきて。そのときは“機会があれば”と話を止めました」
2度目のデートは夜景がきれいなレストラン。彼は、若い世代が将来の不安を払拭できるよう、不動産で財産を築いてもらうことが自分の夢だと打ち明けてきた。
「彼の弟が20代で起業した会社が倒産し、自己破産したそうです。不動産を持っていれば、破産しない可能性もあったのにと、とても残念そうでした。だから若い世代のために売りたいと。熱くアグレッシブな語り口に、好意を持ち始めていたんです」
3度目のデートは房総までドライブ。車中で口説かれて、その夜はホテルへ。「また会いたい」と別れ際にキスされるが、「結婚を前提に付き合ってほしい」という言葉はなかった。
「そのころには、私のほうが彼にぞっこんになっていました。だからプロポーズを急かすのもよくないかなと。彼を失ってしまうのが怖いというか、妙に臆病になっていたんですね」
婚活中の女性は「プロポーズ待ち」になると、常に心が揺れるものだ。美帆さんも例外ではなかった。その心情はやがて「彼に好かれたい」という思いを駆り立てる。そんなときに、彼から不動産をすすめられたという。
「都内近郊で、JRの最寄り駅から徒歩10分ぐらいの、700万円のワンルームマンションを掘り出し物だと告げられて。賃貸にすれば利益にもなるとすすめられました。貯金と親から少し援助してもらい購入したときは、結婚も近いと有頂天になっていました」
ところが1年たっても一向に結婚話が出てこない。クリスマスイブも正月も、仕事を理由にデートを断られる。彼からのLINEの返信が速いので、「誠意はある」と美帆さんは自分に言い聞かせていたが……。
「年末年始に会えない日が続き、こらえきれず“あなたの両親に会いたい”と頼んだんです」
すると実家暮らしだという彼は、
「正月中に父が脳卒中で倒れて……。幸いにも一命をとりとめて退院したんだけど、今リハビリ中なんだ。母親は父の病気のせいで心労がたたって、具合が悪いんだよ」
と美帆さんに説明し、会わせられないことを謝った。
「そのあたりから、おかしいと不信感を抱くようになって。そこでデートの後、こっそり彼の後をつけたんです」
すると彼が中規模マンションに入っていくのを目撃した。彼が乗ったエレベーターは5階で停止。追いかけるように美帆さんも5階に上がり、部屋を突き止めようとすると、ある一室からゴミ袋を持った彼が出てきた。美帆さんは非常階段に隠れると、彼はエレベーターで下っていく。彼が出てきた一室を確認してから、美帆さんが非常階段から階下に下りて、彼の姿がないことを確認してから帰宅したという。
宅配ピザに込められた、“妻としての意地”
「ドキドキしながら、彼のマンションを出ました。このことがきっかけで、彼の家族のことをもっと知りたいという思いが強くなりました」
それから数日後の夕方、美帆さんは彼のマンションのインターホンを押した。すると「はい」という女性の声。美帆さんは自分の名前を告げ、「婚約者です」と挨拶をした。ドアを開けたのは同年代ぐらいの小柄な女性だった。
その女性の口からは「私は妻です」との言葉。頭に血が上った美帆さんが「彼を待ちたい」と申し出ると、妻と名乗る女性はスリッパを置いて、美帆さんをリビングに通した。そしてソファに腰かけることをすすめると、宅配ピザを注文した。
無言が続く。リビングのつけっぱなしのテレビでは、中年のお笑い芸人がネタを連発していたが、2人ともテレビの画面を無視し続けた。ピザが到着し、彼の妻を名乗る女性がテーブルにピザを置く。再び美帆さんと女性は無言で彼の帰りを待っていた。
「午後10時近くに、やっと彼が帰宅しました。冷めたピザを挟んで座っている私たちを見て、あ然としていました。私は“どういうこと? この女性は妻だと言っているけど、私と結婚するつもりで付き合っているんじゃなかったの?”と詰め寄ると、彼は私を連れ出してエレベーターで1階へ。マンションの外でひたすら謝罪するんです」
女性が彼の妻だと説明され、自分が単なる遊び相手だったことがわかると、美帆さんは彼を思い切りビンタした。
「騙したのね!」
こう訴えると、彼は「明日の朝、電話する」と、マンション前の道路でタクシーを拾い、美帆さんを帰した。
「帰宅したら、彼からLINEをブロックされていました。翌日、名刺にある会社に電話をしたら、休暇中と言われたんです。そこで半休を取って、午後に彼のマンションを訪ねたんですが、応答なし。管理人に問い合わせると急に引っ越しをしたとか。逃げ足が早かった」
騙されていたとわかった美帆さんは、女友達に相談。弁護士に依頼して慰謝料をもらおうとも考えたが、彼の妻がなぜピザを頼んだのか、引っかかっていた。
「女友達は、彼の妻が私という存在を認めたくなかったのだろうと。単なる夫の“お客様”として扱おうと、もてなしのつもりでピザを頼んだのではないかって」
そのとおりなら、あのピザには妻としての意地が込められていたのだろう。悔しさはますます募ったが、
「あんな男の妻よりも、絶対に幸せになってやるって。あまりにも悔しかったから」
自分の幸せを優先すべきだと考えを変えたという。
それから美帆さんはファッションもメイクも一新。再び婚活に臨むと、2年後、33歳で2歳年上の男性と結婚。現在妊娠中だ。
気持ちを弄ばれ、時間を無駄にしたように見える美帆さん。しかし皮肉にも、自分を騙した男から購入したマンションは賃貸として、それなりに財産になっているという。お金こそ失わなかったが、美帆さんの心の傷はほかの女性と同様に深い。負けず嫌いな女性だからこそ、決して口にしないのだが。