『ヤバイ事故物件1週間住込みチャレンジ』(ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』提供)

 事件や事故、病気、自殺など、人が亡くなる現場となった物件を「事故物件」と呼ぶ。不動産用語では『心理的瑕疵(かし)物件』、いわゆる“訳あり物件”。もし契約のときに記載されていたら要注意だ。

殺人や自殺が起きた物件はヤバい

 宅地建物取引業法では、瑕疵の内容を借り主や買い主へ告知する義務が定められている。だが、不動産仲介業者や大家によって対応が異なっているのが実情だ。

「瑕疵物件は不動産物件全体の5%とみられています。ですが何があったか借り主や買い主に知らされていないケースもあります。そうした物件で人知を超えた現象が起きることがあります」

 そう話すのは元不動産会社勤務のヒロさん(33)。現在、会社員として働く傍ら、事故物件や心霊スポットなどを訪れた動画を配信する心霊系ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』の企画、編集を担当している。

 同番組は一般の人は立ち入ることがない事故物件や空き家も多く紹介されており、ゾッとするような恐怖体験が綴られている人気チャンネルだ。

左からヒロさんとトモさん。そしてカメラマンのTさんの3人で現場に赴く(ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』提供)

 そこでヒロさんから5%の物件に起きる本当にヤバイ事実を話してもらった。

「僕らはこれまで40軒近くの事故物件を訪ね撮影しましたが、何も起きないところも多く、公開しているのはほんの一部だけ。ヤバイなと感じるのは殺人や自殺が起きた物件。明らかに雰囲気が違いますね」(ヒロさん、以下同)

 こうした部屋では科学では説明ができないような現象が起きることがあるのだ。

「何年も人が住んでないはずなのに人の気配を感じるとか、夜中になると腐敗臭が漂うことがあるんです」

夜中に隣から「助けて」と女性の叫び声が

 本当にある物件の話。

「住人が孤独死し、体液が染みていたことから床を張り替えた物件がありました。なのにその後も人の形のシミが床に浮き出てきて、掃除しても張り替えても浮き出てくるとか……。にわかには信じがたい現象は実際にあります」

事故物件に住む男性の動画より。壁に飛び散った血のシミは何度こすっても消えない(ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』提供)

 入居者が替わるたびに同じようなクレームが入る物件もある。

「僕が不動産会社に勤務していたころの話です」

 担当するマンションのある部屋に住む男性から相談の連絡が入った。

「夜中に隣から女性の“助けて”って声が聞こえる、というクレームでした。ですが隣は男性のひとり暮らし……」

 そこは地方出身者が集まる派遣会社の寮。慣れない土地で故郷に帰れない寂しさや仕事のつらさから精神を患い、幻聴が聞こえるようになったのではと推測された。だが、クレームが入るのはその部屋の住人から。

「その後も数人続きました。その部屋の噂が広まってほかの部屋の住人も怖がるようになり、住む人がいなくなった。数年後、その建物は取り壊されました」

 叫び声の正体はいまだにわかっていない──。

 建物を取り壊すような事態になれば大家としてもたまったものではない。

 物件で人が亡くなった場合、通常ではリフォームや特殊清掃業者による清掃が行われ次の人に貸されるが……。

「実はそうでもないんです。

 事故物件になる部屋の99%はワンルームや1K。しかも建物が古く家賃が安い物件であれば、そもそも大家さんにあまり収入がないことが多い。費用をかけたリフォームはせずに、そのまま人に貸すこともあるんです」

 あろうことか「孤独死していた浴槽を簡易な清掃のみで貸す」物件やお祓いや供養がされていない物件もある。

「以前、身寄りがない認知症の高齢者が孤独死し、2週間後に発見された事故物件を撮影しに訪れたときのことです。そこは住人が亡くなったときのままで、ゴミや排泄物まで残されていました……。清掃業者すら入れずに部屋ごと封鎖されていたんです」

 あまりの悲惨さに動画にはできず物件を後にしたという。

 事件後、なんの手も加えられず封鎖されている部屋は少なくないという。

 いわくつきの部屋にはろくに供養もされず、志半ばで亡くなった人々の念、時に怨念のようなものがとどまっているのかもしれない。

亡くなった人の念より怖い“人間の闇”

 こうした物件は相場より2〜3割安く取引されることが多いという。安価だという理由で、あえて事故物件に住もうと望む人はいるのだろうか。

「よくあるのが派遣会社などが借り上げている寮で、入居者はそこが事故物件だと知らないケースがあります。多くは県外出身者で隣近所との交流も少ないので、以前何があったのか知らない。知らずに住んでいる人はいます」

 前述のとおり自殺などが起こった物件は必ず借り主や買い主に告知する義務があり、借り主や買い主が代わっても告知は必ず行うことになっている。

 だが、告知されず価格も相応であれば事故物件だとは知る由もない……。

 悪質な業者などは事故物件と知ったうえで安く借り上げ、入居者に知らせることなく相場の家賃で住まわせることもあるとか。亡くなった人の念より怖い人間の闇が垣間見えるようだ。

 ただ、かつての日本では老衰や病気など、自宅で亡くなることが一般的だった。

 だが、これを事故物件と言っていいのか。事故物件に対する心理的な線引きが難しいのも事実だという。

「告知義務でガチガチに縛ってしまうと、今度は経済的な理由で施設に入れない高齢者の住む場所がなくなるという社会問題にもなりうる」

 だが、告知してほしいのは、その部屋で誰かが亡くなったことだけではない。

「とんでもないクレーマーが住んでいるとか、近くで毎晩、毎晩どんちゃん騒ぎをしている人がいるとか、一度内覧に行っただけではわからない瑕疵もありますから……」

 こうした物件にあたってしまってはひとたまりもない。ましてやそれが持ち家にでもなってしまえば、一生後悔することになるだろう。

事故物件を回避するためのポイントは

 回避するためには、具体的にはどのような方法があるのだろうか──。

「とにかく業者の言うことを鵜呑みにしないこと。掘り出し物みたいな安い物件はまずないと思ったほうがいいでしょう。近隣の相場からみて価格が安いのには理由がある。その理由を突き詰めて、納得したうえで借りたり購入したりするといいはずです」

 瑕疵物件とは言われなくても怪しいと感じることがあれば、朝・昼・晩と時間帯を変えて現地を訪れるといい。

「ゴミが散乱しているような物件は、何かあっても業者が対応しないなど管理が行き届いていない可能性があります」

 あらかじめ事故物件と知らされている物件については「事故後、入居者が何人住んだか、それぞれがどれくらいの期間住んでいたか」、「本当にきちんとリノベーションされているか」などを確認してほしいとヒロさん。

「ただ実際にいくつもの事故物件の怖さを経験している僕らからすれば事故物件に住みたいとは思いませんけど」

車の後部座席に女性が…

『オウマガトキFILM』は数々の奇怪な現象に遭遇してきた。それは番組外でも……。

「ある時期から僕の車の後部座席に女性が座っている気がするんです。撮影を終えた深夜に帰宅するときに女性のため息が聞こえたり、石けんの匂いが漂ってきたりするんです……たぶん今もいます」

 別のメンバーに起きた驚きの撮影後日談もある。

「保険金詐欺の末、女性が殺害された事件が起きた物件を訪れた日のこと。メンバー全員がその部屋で同時に、そこにはいないはずの女性の声を聞いたんです。帰宅後あるメンバーから鼻血で真っ赤に染まった洗面台の写真が送られてきました……」

 そのメールには、家で再び女性の声が聞こえたと思ったら、次の瞬間、大量の鼻血が出たとの報告がされた。

「実は女性は顔面を殴られて殺害されたんです……」

 身の毛もよだつ話だ。

 こうした物件ではカメラの映像が乱れたり、異様な音が収録されていたり、映像や音声が突然途切れるというようなギョッとするエピソードが頻繁に登場する。

「実際、僕らの撮影の現場でも機器に不具合が生じることは本当によくあります。ですから物件を内覧時に、写真や映像を撮ってみてもいいかもしれません。電子機器に異常が起きるような物件は、『向こう』が何かしらのアクションを起こしてきている証拠です。事故物件ならそれは誰かを妬んだり、恨みがこもった負の感情かもしれません」

動画の怖さは《甘口》《中辛》《辛口》《激辛》で分類されているがそれ以上になることも……(ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』提供)

 だが、本当の恐怖は住んでみないとわからないという。

「事故物件に住んで精神を患った人もいました。幻聴や幻視、眠れなくなるなど原因がわからない体調不良から始まり、次第に普通の生活ができなくなってしまう。ですが引っ越すとそれがうそのように消えるケースがほとんどなので、“この物件はヤバイ”と感じたら、とにかく早めに引っ越したほうがいいです」

 事故物件には心霊スポットにない恐怖の濃さがある。

「圧倒的にいわくのある空き家や事故物件のほうが怖い。心霊スポットはある種、誰でも行ける場所。ですが事故物件は僕ら以外は入っていない。空間に漂う負の念というか、濃さが違いますよね……」

 そこで何が起きたのかを五感で感じられる事故物件はより生々しさがあるという。

「これまでの経験やつながりから事故物件や空き家などを訪問して、そのリアルな恐怖を視聴者に届けられるのは僕らの強みだと思っています」

 事故物件に関心がある方はぜひ視聴してみてはどうだろう。ただし、夜ひとりで見るのは……。

編集部が選ぶ
絶対に住みたくない物件トップ3

『オウマガトキFILM』の動画から、編集部が心底住みたくないと思った本当に怖い物件動画をランキング形式で紹介する。

■第1位
恐怖と狂気が同居する『夏本番開かずの間禁断の潜入スペシャル』

『夏本番開かずの間禁断の潜入スペシャル』(ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』提供)

「生きている人間の狂気に触れた瞬間がいちばん怖い」とヒロさんも震える物件。ある女性の依頼で訪れた家の一室。何十年も封印されていたその部屋では『何か』が行われており、誰もいないはずなのに人の気配も……。

■第2位
1週間もムリです……『ヤバイ事故物件1週間住込みチャレンジ』

『ヤバイ事故物件1週間住込みチャレンジ』(ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』提供)

 メンバーの1人、トモさんがある事故物件で1週間生活した企画。定点カメラを設置、部屋で滞在する様子を撮影しているとそこには不可解な現象。日に日に険しい顔つきに代わっていくトモさん。そして背後から……。

■第3位
数々の謎と怨念が残る『幽霊の出る怖い家』

『幽霊の出る怖い家』(ユーチューブチャンネル『オウマガトキFILM』提供)

 ヒロさんの知人の不動産関係者からの依頼で調査。訪れた数年前に住人が失踪した空き家。「絶対に扉を開けっぱなしにしないで」という謎のルールがあるのも不気味。だが、締めたはずの扉が開いて……。

『オウマガトキFILM』ヒロさん
2020年に仲間2人と同チャンネルをスタート、現在の登録者数は23・1万人。地元の不動産会社に8年間勤務した経験から、心霊スポットだけでなく、いわくつきの事故物件や空き家などで検証を行う動画も配信中。

《取材・文/藤井千加》