事後現場に花を手向ける被害児童の友人とその保護者

「現場の市道は、路側帯もガードレールもないんです。2車線で道幅は7mほどと狭く、センターラインさえなかった。近くの道で、6年前にも児童が負傷する事故があったので、いつ大事故が起きてもおかしくないと思っていました」(近所の住民)

 6月28日午後2時25分ごろ、千葉県八街市の市道で7tの大型貨物トラックが、下校中だった同市立朝陽小学校の児童の列に突っ込んだ。2人が死亡、1人が意識不明の重体、2人が重傷と大惨事となった。

 運転していたのは、事故現場から目と鼻の先にある運送会社『南武運送』に勤務する梅澤洋容疑者(60)だった。

「息子を死刑にしてくれ」

「容疑者はこの日、都内の建設現場で荷物を降ろし、帰社する途中で事故を起こしています。そして市道左側にある電柱にぶつかって、そのままの勢いで40m先にいた児童の列に直撃しました」(全国紙社会部記者)

 電柱に追突した理由について容疑者は、

「右側の老人ホームから人が飛び出してきたので、左にハンドルを切った」

 と供述。だが、ドライブレコーダーにはそのような人影はなかった。

 事故直後、容疑者は、

「大変な事故を起こしてしまった」

 というような電話を会社と実家に入れていたという。

 千葉県警佐倉署は当初、容疑者を過失運転致死傷の疑いで逮捕。だが、飲酒していたこと、それによる居眠り運転の可能性があることがわかり、より罪が重い危険運転致死傷に切り替えて送検されている。

「息子がこんな、とんでもないことをしてしまって、本当に申し訳ありません。亡くなった子どもさんや、その親御さんに、どう言って謝ったらいいのか……」

 と何度も頭を下げるのは、容疑者の80代の母親だ。

 事故直後は、息子をなんとか助けたいという思いもあったようだが、

「時間がたって落ち着いてきたら“息子を死刑にでもなんでもしてくれ”“殺してください”という気持ちになっています。こんな酷い事故を起こしたんだから……」

 だが、こうも続けた。

「とはいえ、私にとってはかわいい息子ですから、できれば代わってあげたいという気持ちも……。代わりに老いた私と主人の命を奪ってもらったらとも思います」

 と悲痛な胸の内を吐露した。児童5人が死傷する凄惨な事故を起こした梅澤容疑者。その母親は厳罰を望んでいるが、実際はどの程度の罪になるのだろうか──。

容疑者の実家。母親は玄関先で週刊女性の取材に答えてくれた

どのくらい酩酊状態だったのかが量刑のカギ

 元千葉県警交通事故捜査官で、現在は『交通事故調査解析事務所』代表の熊谷宗徳さんに話を聞いた。

「容疑者がどのくらい酩酊した状態にあったのかが量刑の大きなカギとなるでしょう」

 事件当時の容疑者の飲酒量について、佐倉署に問い合わせた。すると“基準値を超えるアルコール量”と回答するだけで、具体的な数値は公表してくれなかった。前出の熊谷さんが続ける。

「例えば基準値の3倍になる数値だったならば、へべれけ状態であり通常の判断ができない状態で運転していたことになる。そうなれば、危険運転致死傷が認められることになるでしょう」

 最長で懲役20年となる。だが、もし容疑者のアルコール量が基準値をほんの少し超える程度でしかなかったら、話は変わってくるという。

「事故で2人の方が亡くなっているので、もちろん実刑は確定だと思っています。ですが、数値によっては懲役5年くらいですんでしまうかもしれません。あのような大事故を起こしておいて、その程度の罪にしかならないんです」(熊谷さん)

 容疑者の飲酒について、母親はこう話していた。

「家ではほとんど飲まないんですけど……。息子はお酒に弱いですし。荷物を降ろして、あとは会社に戻るだけだったので、気が緩んだのかもしれません」

 だが、地元のタクシー運転手からはこんな話も。

「ここだけの話だけど、このあたりで飲酒運転しているドライバーはかなり多いよ。車がなければ生活できないところですから、どうしたって飲んじゃうじゃない」

 捜査関係者によると、容疑者は「帰る途中に飲んだ」などと供述しているが、

「容疑者は飲食店で飲酒していないと思うよ。だってあんな大型トラックを止められる駐車場を持つ飲食店なんてめったにないから。あらかじめ酒を買っておいて、車中で飲んだんじゃないかな」(同・タクシー運転手)

 いくら気が緩んでいたとしても“車中で飲酒”は許せない行動だ──。

さまざまな条件がそろえば罪が軽くなる

 また、容疑者が事故を起こしたときの車のスピードやブレーキ痕も量刑に関わってくる、と話すのは交通事故訴訟に詳しい高山俊吉弁護士。佐倉署は、これらに関してもまだ詳細を公表していないが、

「一部メディアには時速50kmだったと報じられています。これが事実だとしたら、事故が起きた市道の法定速度の範囲内であり、特別に悪質とはいえません」(高山弁護士)

容疑者の車がぶつかった電柱は、その衝撃で斜めに傾いた

 さらには、行政の不手際も量刑に影響してくるという。八街市の市議会関係者は、次のように話す。

「今回の事故は、行政にも責任の一端があると思っています。事故現場付近は、田んぼや落花生畑が多い市街化調整区域で、もともとは宅地ではない場所。ところが、その地域の住宅化が急速に進んでしまったため、道路などインフラの整備が追いついていないというのが現状なんです」

 八街市役所も事故が起きた市道の拡幅、歩道やガードレール敷設などが遅れていたことを率直に認めている。

 前出の高山弁護士も、こうつぶやく。

「さまざまな条件がそろえば、梅澤容疑者の危険運転致死傷が認められない可能性も出てきます。そうすると、過失運転致死傷に戻るわけですから、より罪が軽くなる」

 今回の事故で犠牲となった児童とその遺族たちは、そのような処罰に納得するのだろうか──。