メジャーリーグでホームランを連発し、大活躍中の大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス所属)。彼が花巻東高校から、ドラフト1位で指名され、日本ハムファイターズに入団したのは2013年のこと。
その年。はじめてプロ野球のキャンプに参加した際、たった1冊だけ、キャンプ地に持って行った単行本があります。それはいったいどんな本だったのか? なぜ、その1冊だったのか?
無名の会社員が書いた本が選ばれた理由
大谷選手がキャンプのお供に選んだのは、『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』という、非常に長い題名の本です。
書名からすると、一見、自己啓発書かビジネス書のようですが、中身はその中間のような内容。例えば、イチローやマザー・テレサなど、有名人や歴史上の人物のエピソードをクイズにアレンジして、人生のヒントにしてもらう……と、そんな本です。
発売されたのは、'12年の9月。大谷選手がドラフト会議で日ハムに指名されたのが同年の10月25日ですから、ちょうど1か月前の発売ということになります。
出版社は、健康に関する本などで数々のベストセラーを生み出している株式会社アスコム。そして著者は……。
自分で言うのは、恥ずかしい限りなのですが、実は私なのです。
しかも、私にとっては初めての本で、この本を出したときは、まだ、クイズ番組に出演したことがあるだけの「無名の会社員」でした。そんな自分のデビュー本を、あの大谷選手が、プロ入りして最初のキャンプに持ち込む唯一の本として選んでくださったのは、私にとっては奇跡的な出来事です。
すでに自分の著書でも自慢……ではなくご報告をさせていただきましたし、SNSでも書かせていただいていますが、今回は、最近の大谷選手の大活躍に刺激され、恥ずかしながら、なぜ大谷選手がその1冊をキャンプへ持っていってくれたのか。その真相についてお話をしたいと思います。
実は、私のその本を読んでくださった女性スポーツライターの方が、日ハムのキャンプに参加する直前の大谷選手に「面白い本があるよ、読んでみたら」と手渡してくれたのがきっかけでした。
その女性は、東北地方のアマチュア野球やプロ野球を取材されているライターで、大谷選手とは以前からずっと知り合いだったのです。
では、どうして私は、大谷選手がキャンプに本を持参してくれたことを知ることができたのか? それは、そのライターさんから、アスコム社に手紙が届いたおかげでした。
手紙の中身は、簡単に言うと「私はスポーツ記事のライターをしています。出版社の許可も得ずに大谷選手に本を渡してしまったところ、それが新聞記事になってしまい、申し訳ありませんでした」と、そんな内容。
えっ? 新聞記事に? ライターさんは恐縮していましたが、こちらとしては、嬉しいことこの上ない話です。逆に「ありがとうございます!」と返事をしました。
そんなわけで、大谷選手がキャンプに持ち込んだ本の件は、'13年1月31日の『スポーツ報知』に記事がデカデカと掲載されました。
大タイトルは、『イチロー ドクター中松 矢沢永吉 赤塚不二夫 夏目漱石 江頭2:50 から学び 大谷超一流』
小タイトルは、『考え方紹介の本持ち込む きょう沖縄入り』
そして中身は……。
《日本ハムのドラフト1位・大谷翔平投手(18)=花巻東=が“一流イムズ”を取り入れ、超一流への道を歩む。キャンプ地・沖縄入りを翌日に控えた30日、必須アイテムとして単行本『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(西沢泰生著、アスコム)=写真=を持ち込む考えを明かした。》
という出だし。記事中には、大谷選手の言葉も載っていて、「1冊、持っていきます。一流の人の本です。あっちで読みたいです」と。
本についてのくだりは「キャンプ中での自由時間に読むつもりで、一流を目指す黄金ルーキーが、偉人の教えを学び取る考えだ」と結ばれ、本の表紙もバッチリ掲載!
実はこの本、発売日に朝の情報番組で紹介されて、いきなりドカンと売れた過去があるのですが、この記事が出た日は、その発売日と同様に、ネットでの売れ筋本ランキングの順位がドーンと跳ね上がり、著者としては、ありがたい限りでした。
それにしても、いくら「黄金ルーキー」と呼ばれていたとはいえ、メジャーリーグのファンたちが熱狂し、オールスターゲームに史上初めて二刀流で出場するほどの大選手になろうとは……。
新聞記事が出た当時の私は、「大谷選手、ぜひ頑張ってプロ野球で活躍してほしい!」なんて、本気で応援していました。今となっては、懐かしくも恥ずかしい思い出です。
大谷翔平選手へ伝えたいこと
読書家の大谷選手のことですから、私の本を読んだことなど、もう忘れてしまっていることでしょう。
でも、これからプロ野球を背負って立つ偉大な選手が、プロ入り後の初キャンプに自分のデビュー本を1冊だけ持っていってくれたというのは、私にとっては名誉以外の何ものでもありません。
大谷選手に本を渡してくれたライターさん(その後、何度かお会いしています)と、それを律儀にキャンプに持っていってくれた大谷選手には、感謝の気持ちでいっぱいです。
最後に、大谷選手へ「本のおまけ」として、もうひとつ、先人の名言を。
《汝(なんじ)は、汝の道をゆけ そして人々にはその言うにまかせよ》(ダンテ 『神曲』より)
「自分が信じる道を行きなさい。言いたいやつには言わせておけばいい」という意味です。
野球ファンの1人として、今後のプロ野球の未来を担う大谷選手に伝えたいのは、ぜひ、周囲の声に影響されることなく、二刀流を続けてほしいということ。
投打のどちらかの調子が悪くなったり、故障したりすると、必ず「大谷は投打のどちらかに専念すべき」と言い出す専門家が出てくると思うので、ぜひ、無視してほしい。
もし、無理やり二刀流をやめさせようとする監督が就任したら、球団にトレードを申し入れて、理解のあるチームへ移ってでも、自分の意志を貫いてほしいと思います。
私が言うまでもなく、大谷選手自身がそう考えていると思うので、余計なお世話ですが……。
そして、「どうか故障することなく、シーズンを過ごしてほしい」と願うばかりです。
(文/西沢 泰生)
【著者PROFILE】
にしざわ・やすお ◎作家・ライター・出版プロデューサー。子どものころからの読書好き。『アタック25』『クイズタイムショック』などのクイズ番組に出演し優勝。『第10回アメリカ横断ウルトラクイズ』ではニューヨークまで進み準優勝を果たす。就職後は約20年間、社内報の編集を担当。その間、社長秘書も兼任。現在は作家として独立。主な著書:『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)/『伝説のクイズ王も驚いた予想を超えてくる雑学の本』(三笠書房)/『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)ほか。