筆者の元に寄せられた、性暴力を訴える声

 度々報道される「父親からの性暴力」。そんな中で、「兄からの性暴力」を訴える声も後をたたないという。ノンフィクションライター・大塚玲子さんが伝える。

「兄から性被害を受けた妹の話をけっこうな頻度で聞く。信じがたい、て人も多いだろうけど、今現在も『悪いことをしている』という感覚がないまま、妹に性加害してる子どもたちは相当いるはず。何からどうしたらいいのか」(原文ママ)

 今年の3月、筆者がこんなツイートをしたところ、予想以上に大きな反響がありました。7月はじめ現在、引用を含むリツイート数は874件、いいね数は2244件。返信も多数寄せられました。

 コメントの多くは「自分も同様の被害を受けた」「知人が被害を受けた」というものです。着替えを覗く。風呂を覗く。身体に触る。胸や性器に触る。指を入れる。性器を入れる。何年前、何十年前の経験でも、被害者は精神的に深い傷を負い、ずっと苦しみます。

 ここ数年、筆者は家族に関する取材対象者を募ってきましたが(現在は休止中)、最近は兄から被害を受けた妹の話が目につきます。最も多いのは実父や継父、親せき男性から娘への性暴力ですが、次いで兄から妹への性暴力も多く、ほかにも弟や母、祖母が加害した話や、息子、弟が被害を受けた話もときどき聞きます。

 この1年は特に、性被害を打ち明ける人が増えているようにも感じます。コロナ禍で家にいる時間が増えたため、ネットで同様の経験をした人の話に触れる機会が増え、自らの被害にも気付く、あるいは自分も人に話そうと思う人もいるのかもしれません。

痛みを抱え続ける被害者
一方で加害者は

 空恐ろしく感じるのは、加害者たちの罪悪感のなさと、被害者が受けた傷のギャップです。殴る、刃物で人を刺す、といった行為であれば、加害者も相手の痛みをある程度想像できそうなものですが、性的な行為に関しては、被害者が受ける精神的な痛みと、加害者の認識が、別次元の様相です。

 人間関係に支障が生じ、精神科の薬を飲み続ける妹たちと、結婚して家庭を持ち平穏に暮らす兄たち。理不尽、という程度の表現ではとても足りません。

 こうした認識のギャップは、性暴力全般に共通するのでしょうが、特に兄から妹への性暴力については、加害者側も子ども、未成年であるところに、もどかしさのようなものを感じます。あと少し「何か」があれば止められたことでは? そんな思いも沸きます。

「どこかで『妹をそういうことをしてかまわない存在』と思わせるとんでもなくまちがった知識を得てしまってるんじゃないかと思うんだけど。どこなの? ネット? ネット以前の時代から、多かったのかどうか?」

 冒頭のツイートに続き、筆者が問いかけたところ、これにも多くの反響がありました。ネットに出まわっている動画や漫画、あるいは小説などの影響が大きいとする声。家族内の性暴力は昔から大量にあって、ネットの普及でようやく表に出ただけだとする声。どれも「そうかもしれない」と感じます。

私たちにできることは何か

 何が原因だとしても、さらなる被害を食い止めなければならないことは間違いありません。寄せられたコメントなどを参考に、できることを考えてみました。

 まずは周囲の大人が、それは「起き得ることだ」と想定すること。「あるわけがない」ではなく、年ごろになったら、子どもたちの寝る場所を分ける配慮も必要でしょう。部屋数がなくても、仕切りを置くくらいのことはできます。

 それを「やっていい」と思わせるような情報を、子どもの目に触れさせないことも必要でしょう。以前あるバラエティー番組で、男性芸人が姉の入浴の盗撮を試みたことを明かし、他の芸人たちが爆笑する様子が放映されましたが、気が遠くなりました。見た側は「家庭内の盗撮は笑い話」と受け取らざるを得ません。

筆者の元に寄せられた、性暴力を訴える声

 もし性暴力が起きてしまったときは、「許されないこと」と周囲がはっきり伝えることも重要でしょう。ある女性は、小学生のときに兄から風呂を覗かれて叫んだところ、兄は父、祖父、祖母から激しく怒られて号泣したそう。彼が同じ過ちを繰り返すことは、おそらくなさそうです。

 やりきれないことですが、娘が兄や父親から性暴力を受けても気付かないふりをする、あるいは「よくある」などとして放置する母親も、珍しくありません。

 おそらく母親自身も、過去になんらかの形で強者からの暴力を受け入れ、「仕方がないこと」と自分の心を殺してきたのでしょうが、同様の考えで娘の被害を「なかったこと」にするのは、許されないことです。

 被害者となり得る子どものためにも、加害者となり得る子どものためにも、そんなことが起きないよう、周囲の大人が十分考えたほうがよさそうです。なお、加害する子どもに障害がある場合は、専門医に相談を。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。