開栓するだけで泡が出てくる『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』。一時、品切れを起こし、販売が再開したときは歓喜の声が上がった。見た目ばかりか美味しさも大きく左右するビールの泡。実は普通の缶ビールでもポイントを押さえれば、最高の泡が作れる。プロがこっそり教える注ぎ方、巷で噂の裏ワザを紹介します。
生ジョッキ缶「もこもこ泡」のヒミツ
パカリとフタが全開し、泡がもこもこ自然発生。こんもりと缶に盛り上がった泡を、そのままゴクゴクと生ジョッキ感覚で味わえる─。“日本初の生ジョッキ缶”としてこの春登場した『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』。
何とも不思議な泡の秘密は、缶の内側に施した凹凸の塗料。ビールに含まれる炭酸が凹凸に反応し、開けたときの気圧差で泡を自然発生させている。
「構想のきっかけは、“お店で飲む生ジョッキを家でも飲みたい!”というお客様の声でした」(アサヒビール広報部、以下同)
開発に着手したのは今から4年前のこと。試行錯誤が続くなか、大きなヒントになったのが、陶器のグラスとシャンパングラスだった。
「素焼きの陶器はざらざらした表面にビールを注ぐことで泡ができる。シャンパングラスも底に小さなキズがつけてあり、炭酸があたることで発泡している。そこから塗料を使って缶の内側を荒らしたらどうかと考えました」
缶の仕様にもこだわり抜き、フタをフルオープンにすることでお店の生ジョッキ感覚を再現。同時にケガの防止に配慮し、「ダブルセーフティ構造」を飲料缶で初めて導入した。この前代未聞の新商品は大きな話題を呼び、4月のコンビニ先行販売は予想を大幅に上回る反響により発売2日で出荷停止に。
6月に販売を再開し、以降9月まで月に1度・各回約30万箱限定発売を行っている。販売再開に歓喜の声が上がるも、10月以降の販売は未定で、争奪戦は当面収まりそうもない。その圧倒的な人気の理由を、飲料専門家の江沢貴弘さんはこう分析する。
「第一に目新しさ、泡が自然と出るサプライズ感。今までと全く違う形のエンターテイメント性がある。フタが全開するので飲み口も全然違って、口に流れ込んだ泡が舌全体に行き渡り味がしっかり感じられる。これらの要因が家飲みが主となる現在の飲酒事情にマッチしたことで、ヒットにつながったのでしょう」
専門家が解説! 泡作りのポイント
『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』のヒットで改めて泡の魅力に気づかされたが、そもそも泡の役割とは?
「泡で覆うことで、ビールが空気と触れず、劣化を防ぐ。同時に泡がフタになって香りと発泡が維持され清涼感も保持されます。また、良質な泡は口あたりがよくなり、泡に苦味成分が集まることで、ビール自体の苦味がマイルドになり、ビールを飲み慣れていない方でも飲みやすくなります」(江沢さん、以下同)
泡の質により口あたりは変わり、ゆえに注ぎ方次第でビールの味わいは変化する。では、自宅で美味しい泡を作るにはどうしたらいいだろう。
「注ぎ方はもちろん、泡作りでポイントになるのがまずグラス。必ず清潔なグラスを使ってください。中性洗剤などでグラスを洗い、油や汚れをしっかり落とす。
グラスの拭き上げは行わず、そのまま伏せて水けをきります。布巾で拭いてしまうと、細かい繊維がついて、ビールを注いだ際に繊維に発泡が張りつき、炭酸を損なってしまいます」
グラスの温度も大切。
「ビールに溶け込んだ炭酸は温度が高いほど逃げ出し、冷たいと発泡を保持する。グラスを冷やすことできめ細かい泡を保ちやすくなります」
冷蔵庫で冷やすと、においが移るのが難点。おすすめは氷水での冷却。注ぐ直前まで冷やし、内側は布巾で拭かずに伏せて水けをきる。泡の保持力もアップする。
グラスの準備が整ったら、いよいよ泡が美味しい注ぎ方。江沢さんが推奨するのは、ビールの“3度注ぎ”。
「1度目は高い位置から注いでグラスを泡で満たし、2度目は泡を立てないようそっと注ぎ、3度目で7対3の黄金比を目指します」
“3度注ぎ”で作った泡は、ふんわりとして口あたりよく、香り高い味わいに。
3度注ぎがおっくうという場合は、陶器のマグを活用しても。
「より手軽に泡を楽しみたいなら備前焼のビアマグを。備前焼の肌目に炭酸が反応することで自然と泡が生まれます」
ちょっとしたコツを押さえれば、いつもの缶ビールもひと際美味しく、口あたりもなめらかに。ただし、発泡酒や新ジャンルに関しては、商品により、これらのワザが有効ではないものもある。
「発泡酒や新ジャンルはしっかりと冷やした缶をそのままパッと開けて飲むと美味しい商品も多い。もしグラスに注ぐなら、発泡を保つためにも“1度注ぎ”で泡を立てすぎず本来の清涼感やボディ感を楽しんでもらいたいですね」
プロが注いだ泡は、ふんわり、プルンッとしているのがポイント。一方、巷では数々の裏ワザがあり、その真偽も気になるところ。そこで編集部が検証! 代表的な4種の方法を実践してみることに。
割り箸、塩、2つ穴、あとのせ……どれがおいしい?
まずは割り箸。
ビールに入れた途端しゅわしゅわと泡が立ち、箸を動かすとさらに発泡が増していく。江沢さんいわく「箸の肌目に反応して泡ができる。これは備前焼と同じ原理」。試飲の印象はというと、柔らかくモルト感もありなかなかイケる。
次は塩。
実は“塩入れ”はビールの撮影ではおなじみの泡作りテク。実際キメの細かい泡はできるが、当然塩の味はしっかり残る。「写真を撮るにはいいけれど、美味しく飲むという意味ではおすすめできない」とプロもばっさり。
続いて2つ穴に挑戦。
泡立ちはよいものの、時間をかけて少しずつ注ぐなどコツが必要。それ以前に缶切りで穴をうまくあけるのが難しい。江沢さんも「ビールサーバーと同じで小さい穴をビールが通ることで細かい泡ができる。理にはかなっているが再現は難しい」と指摘。
最後はあとのせ。
タンブラーでビールをシェイクし、グラスに注いだビールにのせる。「炭酸が抜けない分、味は保たれる。ただ泡は粗くなる」と言うとおり、発泡が感じられビール自体は美味しい。しかし泡のきめ細かさに欠けるため、泡を楽しむという意味では及第点に至らず。
検証の結果、割り箸、2つ穴、あとのせの順で、塩は圏外、というのが編集部の結論。比べるまでもなく、プロの技がダントツ1位となった。
まだ自粛ムードが続くこの夏、プロの極意で最高の家飲みを楽しんでみては?
●噂の方法を試してみた
(1)割り箸で混ぜる◎
木肌に反応し予想以上に発泡。味もよく麦の味わいも感じられる。
(2)塩を加える△
ひとつまみでキメ細かな泡が発生。しかしもこもこの泡にはならず。
(3)穴を2つあける△
泡立ちはよいが、注ぐ位置が高すぎたせいか少々粗めの泡に。
(4)泡をあとのせ○
30mlほどシェイクしビールにのせる。泡は粗めだが味はよい。
おいしいビールの注ぎ方
【下準備】
・グラスは洗って布巾で拭かない
・氷水でしっかり冷やしておく
(1) 高い位置から垂直に
高い位置から注ぎ、徐々に勢いをつけて泡で満たす。泡と水分が等分になるまで待機。
(2) 泡がひいたら注ぐ
泡がひいたら再び端からそっと注ぎ、7対3を目指してふわふわの泡を作り上げる。
(3) さらに待ち再び注ぐ
端からそっと注ぎ、7対3を目指してグラスより1、2cm上に泡を盛り上げる。
●開けたら泡が楽しい! と大人気『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』
お店で飲む生ジョッキの感覚を再現した日本初の生ジョッキ缶。フタを開けると泡が自然発生し、ごくごくそのまま楽しめる。現在月1回発売で、8月3日、9月7日に数量限定で販売を予定している。
〈取材・文/小野寺悦子〉