さまざまなドラマや映画に出演し、人気中堅俳優として注目を集めてきた高良。現在出演している大河ドラマ『青天を衝け』でも渋沢喜作役としてその存在感を示している。そんな彼が語る役者としての自分、そして、これから先の“生き方”とは。
演じ方、ボクシングで例えると
「幕末から明治時代って、日本に外国からいろいろなものが入ってきて、そこで日本の新しい文化が生まれた、めちゃくちゃ面白い時代だと思うんですよ」
こう語るのは、大河ドラマ『青天を衝け』で渋沢喜作(成一郎)を演じている高良健吾(33)。彼自身、大河に出演するのは『花燃ゆ』以来、6年ぶり。久しぶりの現場に入ったときのことを、
「現場でいちばん、役者と接する時間の多いメイクチームが、『おひさま』や『花燃ゆ』のときと同じメンバーなんです。だからすんなりと現場に入れたし“帰ってきたんだな”と思えましたね」
と振り返る。
「大河ドラマは近代モノに弱い」という“定説”があったが、『青天を衝け』は平均視聴率が15%を超えるなど、視聴者からも支持されている。
「ドラマで描かれているのは遠い過去の話ではなく、今の日本が作られた激動の時代だということが見どころです」
と、力強く話す高良。今回演じている喜作という役は、主人公・渋沢栄一の従兄で幼なじみ。“バディ”として栄一とともに幕末の世を走り続けている。『花燃ゆ』では高杉晋作という大役を演じた高良だが、今回の喜作という役への取り組み方について、
「晋作の演じ方は、ボクシングでたとえれば、早いラウンドから全力で相手を倒しにいくノリ。彼は短命で物語の途中でいなくなるとわかっていましたから。でも今回の喜作は、かなり最後のほうまで居続けます。彼の人生のターニングポイントまではボディ打ちでじっくり攻めて、ここぞというときから“やるぞ!”という感じですね」
と語りつつ、ふたりのキャラクターの違いをこう説明する。
「どちらがやりがいがある、とは言えませんが、高杉晋作は、誰が演じてもカッコいいレベルの人物じゃないですか。彼の生き方やキャラの立ち方に引っ張ってもらえるというか。でも、喜作というキャラは晋作ほど強い個性がないので、演じ方が何通りもあると思うんです。そういう意味で、僕は喜作を楽しんで演じています」
せっかくなら楽しまないと
何通りもあるという中で、高良が選んだ演じ方とは?
「ずっと栄一の横にいた喜作が、だんだん自分の意思を持って栄一との距離が離れたり近づいたり。そういう部分を丁寧にやりたいなと思っています。見続けてくれる人が、楽しんでもらえる芝居になっていたらいいですね」
高良自身、撮影を楽しんでいると笑うが、今回はコロナ禍というこれまでとは違う状況での撮影。ドラマのスタートも前作の放送日程が大幅に変更されたため、大河史上初の2月放送開始となった。
高良は「大変なのはスタッフ。僕たち俳優は気を遣われているほうです」と言うが、リハーサル中もマスクをしたまま、相手の表情は本番まで見えない中で撮影は進んでいるという。
「確かに、どんな表情をしているかがわからないのは困るというのはありますけど……。新鮮な気持ちで本番に臨めるというか、楽しいですよ。こういう状況だし、せっかくなら楽しまないと、と僕は思っています。
ただ、キツイなと思うことは、みんなとご飯に行けないこと。これまではそこでコミュニケーションがとれていたのに、今はできないので。主演の吉沢くんとも行きたいねと、ずっと話しています」
撮影現場が楽しい、と思えるのは吉沢亮(27)の存在も大きいという。
「彼は正直で素直なんですよ」
“バディ”として共演シーンも、ともに過ごす時間も多い高良は、吉沢の魅力をこう語る。
「演技の力強さとキレのよさ、それとセリフの発し方がいいですよね。吉沢くんの中で、もう栄一というキャラのリズムができているんですよ。あと、彼は芝居を高尚なものにしすぎていないというか、どこか遊び心があるんです(笑)。
大河を見ている人たちも感じていることだと思うけど、吉沢くんの演じる栄一という人物が華やかじゃないですか。栄一というキャラの演じ方は、いろいろあると思うけれど、彼のような見せ方は、簡単そうにやっていますけど、なかなかできないと思います」
感情を表に出して知らず知らずに周囲を巻き込んでいく─。そんな栄一を演じる吉沢の“素顔”を高良に聞いてみると、
「すごくおとなしくて、恥ずかしがり屋ですね。騒ぐタイプではないし、僕が話しているほうが多いかな。そんなときでも、ちょっと本心を隠してくるというか、はぐらかしてくるんです(笑)。でもそこに邪気はないから、話していて面白いんです」
やっぱり30代は面白い
27歳で大河主演を務める吉沢。高良は28歳で高杉晋作役で大河初出演を果たしたが、当時、彼は本誌のインタビューで「このままじゃいけない、自分は意識を変えていかなくてはダメだ」と語っていた。今年で34歳を迎える高良。当時の悩みについて聞いてみると─。
「25歳くらいのときから“今のままだとツラい”という気持ちがあったんです。演じるということが、自分の中のものを削り取って出しているというイメージがあって……。このままじゃ、役者という仕事を辞めるしかないのかなと。
役者って、役という“他人”が自分の身体の中を通るので、自分が“NO”と思っていることを“YES”と言わなくてはならなかったり、自分が信じていることを否定しなくてはいけなかったり。そういうことを、あのときは器用にできていなかったなという気がします」
人気俳優と注目され、さまざまな作品で多くの役を演じてきた高良。自らのアイデンティティーと、演じる役との狭間で感じていたことは?
「自分が自分じゃなくなっていく感じ……。僕たちの仕事って、紙に書いてある文字を言葉にするだけじゃないと思っていますけど、その言葉だけを切り取られたり」
そして迎えた30代。少しずつだが、高良自身、変わってきているという。
「芝居の中でつく“嘘”を自分自身が咀嚼して捉めるようになったかなと。感覚という不確かなものだけに頼るのではなく、ある意味、言葉にして自分を納得させることができるようになったと思います。僕の中ではこのことが“捉まえる”という認識なんですけど。
20代のころに自分の中でいろいろ考えて準備をして、30代になってから思っていたことがすぐにできたというわけではないけれど、ここに来るまでの段階として必要だったんだなと。やっぱり30代は面白いですよ(笑)」
30代も半ばに差しかかり、次のステップとしての目標について聞いてみると、
「僕は年齢って過ぎていくものではなく、重ねていくものだと思うんです。役者という仕事は、やり続けていればもっといい演技ができるようになる可能性がある。70歳、80歳でも続けられるし、その年齢にならないとたどり着けない境地もありますよね。
この仕事を続けていくのであれば、もっと自分がやっていることをしっかりと捉まえられるようにしたいですね。今、ようやくそれができるようになってきたかな、と思っています」
●次回(8/15)放送の『青天を衝け』はこうなる!
篤太夫(吉沢亮)や昭武(板垣李光人)らがパリで新年を祝う中、幕府から書状が届く。“慶喜(草なぎ剛)が政を朝廷に返上した”との文面に一同大混乱する中、篤太夫は昭武の留学費用を捻出すべくさらなる節約策を講じる。そんな折、篤太夫はエラールに連れられ、証券取引所を案内される。
債券の仕組みを教わり、ひとりひとりの小さな力が合わさり、この世を変えられることを知り、新たな決意を抱く。そのとき、日本では、成一郎(高良健吾)、惇忠(田辺誠一)、平九郎(岡田健史)が、新政府軍と戦っていた。
《取材・文/蒔田稔》