アマニ油やえごま油などのオメガ3オイル。健康にいいオイルといわれているが、実はいくらとっても期待する健康効果をまったく得られないケースがあるのだ。オイルの専門家に話を聞いた。
スーパーの棚で目立つようになったアマニ油やえごま油。体内で作れない必須脂肪酸のひとつであるオメガ3脂肪酸を多く含むため「オメガ3オイル」と呼ばれている食用油だ。数年前から雑誌やテレビで取り上げられるようになり、2013年ごろは約13億円だった市場規模がいまや10倍以上。爆発的に市場が拡大した大ヒット商品だ。
なぜここまで急成長したのか。オイルメーカーの調査によると、消費者がオメガ3オイルにもっとも期待するのは健康効果。
たしかに、現代人はオメガ3脂肪酸が不足しがちなこともあり、オメガ3オイルは健康にいいというイメージが女性を中心に広く定着しつつある。そのひとつのきっかけとなったのが、2011年に発表された九州大学による大規模調査の結果だ。
死亡率が2・5倍も違うワケとは?
福岡県久山町の住民を対象に、オメガ3と、サラダ油などに含まれていて、比較的よくとっているオメガ6が体内にどのくらいの割合あるのかを調べたところ、オメガ3の割合が多いと、突然死を引き起こす心筋梗塞などの死亡率が低いというデータが出た。
オメガ3には血液をサラサラにする効果があるので、血がドロドロになることで発症しやすくなる心筋梗塞などの死亡リスクが下がったと考えられている。
こういった研究結果などによってマスコミがオメガ3オイルに注目し、一般の人にも広く知られるようになった。
ところが、オイルの専門家が血中の脂肪酸のバランスと食習慣を調べたところ、驚きの事実がわかったという。
「650人以上の血液を検査した結果、オメガ3脂肪酸を多く含んでいるオメガ3オイルを摂取していても、魚をしっかり食べていない人は期待しているような健康効果を得られていなかったのです」というのは体内における脂質の重要性を広めようと活動している日本リポニュートリション協会代表の地曳直子さんだ。
650人の中から、毎日オメガ3オイルをとっていて、かつ魚をよく食べている19人の平均値を調べたところ、オメガ6よりオメガ3の割合が体内で多くなっていて、さきほどの研究結果でいうと死亡率が低いほうのグループだった。 その一方で、魚をあまり食べていない28人の平均値を見てみると毎日オメガ3オイルをとっているにもかかわらず、死亡率が高いグループに入ってしまったという。両者の心筋梗塞などの死亡率の差は2・5倍だ。
(出典 九州大学大学院医学研究院久山町研究室(2011)を一部改変)
オイルのオメガ3は役立たない!?
「その28人は、アンケートで『魚を週に1~2回しか食べない』、または『ほとんど食べない』と答えた人たちです。魚をあまり食べていないと、オメガ3オイルを毎日とっていても健康効果を得られにくいという結果になりました」(地曳さん、以下同)
実はオメガ3脂肪酸とひと口に言ってもおもに3種類ある。血液サラサラ効果で有名なEPA、認知症予防が期待されているDHA、そしてもうひとつがαリノレン酸だ。
アマニ油やえごま油などのオメガ3オイルに含まれているのがそのαリノレン酸。αリノレン酸は私たちの体内でEPAやDHAに変換されることで健康に役立つものになるが、摂取したすべてのαリノレン酸がEPAやDHAになるわけではない。EPAに変換されるのは摂取したαリノレン酸の5~10%前後と少なく、DHAに変換される量はもっと少ない。
さらに、普段の食生活で鉄が不足していたり、糖が過剰だったりすると、変換される量はもっと少なくなり、また個人差も大きいと考えられている。
つまり、毎日一生懸命アマニ油やえごま油を摂取しても、わずかなEPAやDHAしか作り出されないということになる。実際、さきほどの血液検査で、魚を食べていない28人はオメガ3オイルを日常的に摂取しているのに、体内のEPAやDHAの平均値が650人の平均値を下回っていたという。
魚のオメガ3はすぐに役立つ
では、魚はオメガ3オイルと何が違うのか。アマニ油やえごま油と同じように魚はオメガ3が豊富だが、魚に含まれているのはαリノレン酸ではなく、EPAやDHAそのもの。変換する必要がないため、健康面での効率はオメガ3オイルよりはるかにいい。
そのため、魚を週6回以上食べている人はオメガ3オイルをとっていようがいまいが、EPAやDHAの平均値は、650人の平均値を上回っていた。
「ひと昔前の日本人は魚を食べることでEPAやDHAを十分にとれていましたが、食の欧米化で魚を食べる機会が減少しています。これが肌荒れ、アレルギー、動脈硬化などさまざまなトラブルを引き起こす原因になっているので、改善すべきなのは間違いありません。でも、オメガ3が含まれるオイルですべて解決できると考えるのは間違っています。大事なのはオイルだけでなく、魚も食べることなのですが、さきほどの28人のように、オメガ3オイルさえ摂取すれば魚は食べなくてもいいと極端に考える人たちが一定数います。その背景には、マスコミやメーカーの偏った情報の伝え方があるのかもしれません」
「魚のかわりになる」は間違っている
例えば、テレビの某情報番組では2018年の放送で「1日小さじ1杯のオメガ3オイルで魚不足を補える」と紹介した。
また、大手オイルメーカーのホームページでは、アマニ油の紹介ページに魚の写真を載せて、「アマニ油小さじ1杯でアジ約3匹分のオメガ3を摂取できます! 」と宣伝している。
「人によってはオメガ3オイルが魚のかわりになると誤解してしまう表現です。一部のマスコミやメーカーが、αリノレン酸とEPAやDHAをいっしょくたにして『オメガ3』という大きなくくりで表現しているために、アマニ油をとれば魚を食べたのと同じ健康効果を得られると勘違いしてしまう人がいるのが心配です」
では私たち消費者は、アマニ油やえごま油とどう付き合えばいいのだろうか。
「EPAやDHAの健康効果を得たいのなら、いちばん大事なのはオメガ3オイルだけに頼らず、魚をしっかり食べることです」
EPAやDHAは、イワシやサバ、サケ、タイ、ホッケなど、脂ののった魚に多く含まれている。
「ただ、毎食魚を食べるのはなかなか難しいもの。アマニ油やえごま油は、それを少し補う目的でとるといいと思います。また、オメガ3オイルがEPAやDHAにしっかり変換されるためには、鉄などのミネラルを含む食材をバランスよく食べていることや、サラダ油などのオメガ6をとりすぎないことも大事。オメガ3オイルをとるのと同時に食のバランスを見直すことが健康効果を得るためには必要なのです」
※今回、脂肪酸を調べた血液検査と、久山町研究で行われた血液検査では、調べている血液の成分が少し違うため調整した。その結果、幅のある数値になっている。
教えてくれた人……地曳直子さん●日本リポニュートリション協会代表理事。日本オイル美容協会顧問。複数のオイルメーカーに依頼されて、食用油の商品開発にも携わっている。