「グリーンイグアナは1階のベランダのケージで飼っていたんですが、その日はカギをかけ忘れてしまい逃げ出してしまったんです。ご迷惑をかけて、本当にすみません」
埼玉県川越市に住む20代主婦の飼い主は、バツの悪そうな表情で謝罪した。
「2年前、都内のペットショップで1万円で買いました。最初は20cmぐらいで可愛かったんですが、イグアナ用のペットフードや、ほうれん草を与えていたら、尻尾も入れて1m20cmほどになってしまって……」(飼い主の女性)
とてもおとなしくて、飼い主と2歳になる娘になついていたようで、
「名前はフアナちゃん、メスの2歳です。子どもが1歳のときに飼いはじめたんですが、まだ“イグアナ”ってうまく発音できなくて、“フアナ”と呼んでいました。それをそのまま名前にしたんです(笑)」(同)
『グリーンイグアナ捜索隊』結成
“フアナ”が逃げ出したのは、25日の午後2時ごろのこと。飼い主はすぐに埼玉県警川越署に110番通報した。
前述したように体長1m20cmなのだが、“体長2mのイグアナが逃げた”と少々大げさに大手新聞社のウェブメディアが報じられた。それを皮切りに、スポーツ誌やテレビでも取り上げられるほど話題に。だが、川越署は“捜索する予定はない”と発表した。なぜなのか?
「おとなしい動物で、人を襲う危険性がないですからね。でも、一応、注意を呼びかけて、見つけたら通報してくださいということにしています。連絡がきたら、すぐに出動できる態勢にはしています」(川越署)
5月上旬、神奈川県横浜市に住む飼い主宅から逃走したアミメニシキヘビの騒動と比べると明らかに緊張感は薄い。編集部もこのニュースから手をひくムードが流れていたが、飼い主の2歳になる娘は“フアナ”の帰りを健気に待っていて……。
そこで、編集部は1日限りの『グリーンイグアナ捜索隊』を結成することに。メンバーは50代の筆者を含めた3人だ。
「絶対に見つけてみせる」
「見つけてヒーローになるんだ!」
このときの20代の若手2人は意気揚々だった。
猛暑の中、決死の大捜索!
28日、台風8号が関東を過ぎ去った直後、30度超えの、うだるような暑さの中で、川越市に集合した。軍手、長靴、帽子といった出で立ち、それぞれ2Lもの麦茶や清涼飲料水を携帯して熱中症対策も万全だ。
ただし、軍手はしていたものの、捕まえるつもりは毛頭なかった。なぜなら、事前にあのアニメニシキヘビを捕獲した体験型動物園『iZoo(イズー)』の白輪剛史園長(52)にアドバイスをもらっていたからだった。
「グリーンイグアナは普段はおとなしい動物ですが、捕まえようとすると、尻尾を振り回したり、噛みついたりします。爪も鋭いので、危険ですから、発見したら110番通報したほうがいいですよ」
つまり、夏休みに入った子どもたちがグリーンイグアナの危険にさらされる可能性はゼロではないのだ。メンバーの士気が高まる。
さらに、木に登る習性があると白輪園長は指摘。
「昼行性で、昼間は地面からの輻射熱(ふくしゃねつ)から身を守るために木の上や、畑や川沿いの草むらにいることが多い。夜は木に登って眠っています。だから夜捜すなら木の上だけに絞っていい。でも街灯の少ない住宅街で見つけるのは難しいですね」
ペットショップの店主にも、アドバイスをもらった。
「カメと一緒で変温動物ですから、日中は甲羅干しのようなことをして温度を得る動物なんです。だから、屋根や軒先のようなところにいる可能性もあります」
午前11時から、手分けをして、それぞれひたすら歩き回った。筆者は8年前に、飼っていた猫が逃げ出して以来の一大捜索だった。
まずは、昼も夜もいる可能性が高い場所、木の上や屋根の上だ。このあたりは畑が多く、木のある場所はある程度、限定できる。双眼鏡を使って目を凝らした。
だが、どこにもいない。見当たらない。太陽はいっそう燦々と肌を熱く照りつけるばかり……。
私有地には入れず……
木の上、屋根の上にイグアナらしきものはまったく見つからないため、飼い主宅近くにあった川など捜索範囲を広げた。
午後3時に15分の休憩を挟み情報交換して、また捜索再開。4時には再び白輪園長に助言を求めた。
「イグアナは水の中にはいませんよ。人間が逃走するときと同じように、逃げるときだけ水路に入るだけです。行動半径はそれほど広範囲ではないと思うので、自宅から数百m内にいるはず」
“もうそこは捜したって……”という心の声を抑え込んで、
白輪園長の言葉を信じて、もう一度、近辺に集中した。しかし、とうとうタイムアップを迎えてしまう――。
みな、この暑さのなか、10kmぐらいは歩いただろうか。へとへとに疲れ果てていた。捜索メンバーの若手のひとりがつぶやいた。
「とにかく、暑かったの一言です。そして、残念。悔しい。最初は意外に簡単に見つかると思ったんですけど。この地域は一戸建てで庭の広いお宅が多い。私有地内には入れないので、その木に登っていたら見つけられない。そこがネックでしたね」
最終的には愚痴になっていた。もう1人の若手も、
「現場の子どもたちは思っていたほど、気にせずに遊びに夢中になっていたので、もはや軽く忘れさられているんですかね……」
『グリーンイグアナ捜索隊』は28日18時をもって解散。飼い主の娘に“フアナ”を帰すことはできなかった。
イグアナはカラスや猫に食べられてしまうケースもあるとか……。
ペットを飼っているみなさんは、くれぐれも動物の逃走には気をつけてほしい。