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 不眠、イライラ、不安感……女性にとっては更年期の症状としておなじみだが、男性にも同様に更年期があるという。

男性タレントも経験した更年期障害

「加齢にともないテストステロンという男性ホルモンが減少することで、心身にさまざまな不調が起きるんです」というのは順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科准教授の松下一仁先生。「疲れがとれない」「意欲がわかない」などは、テストステロンの減少による更年期症状の可能性が。しかも男性更年期は近年、増加傾向にあり、コロナ禍によるストレスの影響でより増えているという。一見、活力に満ちているような男性タレントも例外ではなく……。

「俺も何年か前、動悸があったり、フラフラしちゃったりしたよ。ずっと更年期障害の薬を飲んでたもん」と、今年3月、テレビ番組で話したのはヒロミ。ほかにもテリー伊藤や渡辺正行、美川憲一なども、男性更年期を自覚したとメディアを通じて告白している。

ヒロミ 男性更年期を自覚したとメディアを通じて告白している

事故やDV、うつ病にもつながる

夫は穏やかなタイプだったのに、50歳前後から突然キレるように。若葉マークをつけた車がもたもたしていると、クラクションを鳴らし続けることも」(52歳/Nさん)、

「ママ友と雑談をしていたら、俺の悪口を言っていたんだろう、不愉快だ、と不機嫌になって……」(59歳/Oさん)、「休日はソファでグッタリし、動かないばかりか表情も暗い。こっちまで憂鬱な気分になります」(54歳/Kさん)

 妻側も更年期で余裕がないのに、夫側もこの調子では夫婦関係はギクシャクしてしまう。とはいえ、これらのケースはすべて男性更年期障害の症状でもあるのだ。

「テストステロンというホルモンは、やる気を促し、筋肉や骨格を増強して、認知機能維持にも役立つ重要なものです。減少してしまうと、全身倦怠感、筋力低下、不眠、無気力、イライラ、性欲減退、集中力の低下などの症状が出てきます」(松下先生)

 テストステロンは加齢により徐々に減少していくのだが、運動不足やストレス、達成感や他人からの評価が得られない環境が続くとより減ってしまいがち。

「コロナ禍での在宅勤務や業績悪化、外出の自粛は男性ホルモンにとっては悪材料。定年退職とともに隠居し、社会と断絶してしまう生活もよくないですね」(松下先生)

 集中力の低下やイライラが続けば、交通事故や職場でのパワハラ、家庭内でのDV、重篤なうつ病にもつながりかねない。男性の更年期障害は生活に大きく影響する可能性があるのだ。

夫婦にとって最大の危機がくる

 加えて注目したいのが、49歳は脳機能の変わり目であるということ。

「脳は7年のサイクルで変わっていきます。7の7倍、すなわち更年期の年代にあたる49歳は脳が“ひと通り成し遂げた”と完遂感を抱く年ごろです」と話すのは、人工知能研究者で男女脳論の第一人者である黒川伊保子さん。ところがこの完遂感、先行きが見えない今の時代は、男性にとってマイナス要因に働く。

「不確かな状況では、完遂感は“終わった感じ”となって脳を襲い、テストステロンの減衰も伴って不安感がつのり、イライラして家族にあたりやすくなりがち」(黒川さん)

 鷹揚だった夫が50歳近くなって急に「洗面所の電気、消しとけよ」などと細かいことをいちいち注意してきても、それは夫がイヤなヤツになったのではなく、脳機能とホルモンの変化によるものだという。

一過性だと大目に見てあげて。あとワンサイクルたって56歳くらいになれば、達観の域に入り、安定してくるはずです」(黒川さん)

 また黒川さんは「49歳を過ぎると、男性は少年の脳に戻る」とも。もともと男性脳はデリケートで、幼少期は母に寄り添い支えてもらわなければ頑張れない脳でもある。思春期を迎えてテストステロンの分泌が盛んになると、競争心や闘争心、独立心が芽生え、冒険の旅へと駆り立てられる。

「そして中年期になりテストステロンが減少すると、再び脳は繊細な少年の脳に戻ります。母から旅立った男性脳は妻の元へと還ってくるんです」(黒川さん)

 それゆえ、男性は母を慕うように妻を慕い、依存するように。

「“どこ行くの? 何時に帰る?”なんて聞いてくることが増えるはず。これは“主婦のくせに何出歩いているんだ”という意味ではなく、単純に不安で、いつ帰るのかが知りたいだけ。5歳の男の子と変わらないと思ってあげてほしいです」(黒川さん)

共にしんどいとき、お互いに相手を理解

 中高年の男性がいかにデリケートか、ということがわかった。とはいえ、妻側だってしんどい。

「お互いに更年期があるということを、理解し合うといいですね」(黒川さん)

 イライラしたり落ち込むとき、脳は「自分が変わった」とは気づかないそう。だから「最近妻が怠惰だ」とか「夫がわからず屋でうんざり」となる。

「これはお互いに脳が脆弱になっている証拠。ギクシャク夫婦にならないよう、2人で理解し、新しい関係をつくってほしいです」(黒川さん)

 また妻としては、夫の変化を見逃さないようにしたい。

「更年期の症状は心の変化だけでなく、見た目にも変化しやすい。特に体重はゆるやかに3~5kgほど増える人が多いです。ほかには笑顔が減ってため息をつくようになり、勃起不全、異常な発汗、めまいや動悸も主な症状です」(松下先生)

 特に気をつけたいのが重篤な病気が潜んでいないかということ。テストステロンが減少すると、中性脂肪やコレステロールの代謝も低下。肥満を引き起こし、糖尿病、高血圧、動脈硬化につながることも。気になる症状があれば、医療機関を受診するのがおすすめだ。

【それ男性更年期かも?!要注意な夫の特徴をチェック】

□ なんとなく元気がない、いつも疲れている
□ 筋力が落ちてきた
□ めまいや耳鳴りがある
□ 不安感が強く、うつっぽい症状がある 
□ イライラして怒りっぽくなった 
□ ほてりがあったり、急に汗をかく
□ 不眠、寝つきがわるい、不眠傾向がある 
□ 集中力が続かない、仕事効率が下がった気がする
□ 性欲がわかない
□ 朝立ちがなくなった

※3つ以上当てはまるときは男性更年期障害の可能性が大きい。5つ以上当てはまり、体調が悪そうと感じる場合は、医療機関の受診をすすめて。

専門家が指南!「更年期夫婦」イライラ解決の処方箋

☆松下先生が教える! 家庭でできる男性ホルモンにいい習慣

●寝ている間にチャージ! 質のいい睡眠をとる

 テストステロンは寝ている間に回復するので、寝不足はタブー。「寝る数時間前にはシャワーでなく入浴をするようにして。心身ともにリラックスできてストレスや疲れが緩和されます。副交感神経も優位になり、ぐっすり眠れるはず」(松下先生、以下同)

●リラックスできるかがカギ、家庭を心休まる場所に
 自律神経の乱れはテストステロンの分泌を抑制する原因に。自宅は副交感神経が優位になるような、リラックス空間でありたい。「夫は妻や子どもとコミュニケーションを心がけ、妻はイライラをぶつけず、夫にストレスをかけないよう配慮を」

●いちばんのおすすめは運動、新しいことにチャレンジを
「テストステロンは冒険心を起こすホルモンなので、新しいことに興味をもって積極的に取り組むと分泌を保つことが」。もっとも手っ取り早い方法が運動。ひと駅分歩く、エスカレーターではなく階段を使うなどして活動量を増やして。

●やせ形でも危ない、生活習慣の変化に注意
 やせ形でも、急に太ってきた場合や、以前と比べて運動量が激減しているなら要注意。「生活習慣の悪化によって、テストステロンにも悪影響が。特に糖尿病の人は、それだけでホルモン値が下がるので、治療に専念を」

●趣味や社会的役割をもって人生を楽しもう
 目標を達成したり、周囲から「すごいね」と評価されると、テストステロンの分泌が増えて健康が促進される。「仕事や趣味、日課でも何でもいいので日々の暮らしに目標を持つようにして。いくつになっても楽しんで生きることが肝心です」

黒川さんおすすめ! 更年期夫婦の円満8か条

「男女は脳の働き方が違うので、イライラしたり、すれ違うのが当たり前」と黒川さん。更年期症状に加え、男女の脳の違いから導き出した円満の秘訣、知っておいてソンはなし。

●50歳前後の夫の変化は一時的なもの、と大目に見る
 元気がなくなりイライラする原因は男性ホルモンの低下。やがて安定する。

●家庭の中で夫の責務をつくり、妻は一切、手を出さない
 男性脳は与えられた責務を果たし感謝されることに大きな喜びを感じる。

●外出の予定は繰り返し何度も伝えておく
 予期せぬ妻の行動は夫のストレスのもと。男性脳を弱らせ、免疫力を低下させる。

●更年期で具合が悪いときは具体的に伝えて、夫を頼る
 男性脳は半径3メートル以内の出来事になかなか気づけない、と知っておく。

●毎日の「いってらっしゃい」と「お帰りなさい」は同じトーンで
 変化のない日常的なルーティンに男性の小脳は刺激され直感も冴える。

●結論や目的から先に言う。「ポイントは○つ」と数字を使う
 結論の見えない話が延々と続くと男性脳はイライラし、疲弊する。

●夫の言葉を裏読みしない。多くの場合、裏はない
「おかずはこれだけ?」と言われたら「そうよ」とにこやかに答える。

●共通の趣味を1つと、別々の趣味を1つ以上持つ
 60~70代を、適度な距離感で穏やかに過ごすための布石を打っておく。

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(取材・文/樫野早苗)

教えてくれたのは……
黒川伊保子さん
脳科学・人工知能研究者、感性アナリスト。30年以上にわたり人工知能の開発に携わり、脳と言葉の研究を究める。『定年夫婦のトリセツ』(SBクリエイティブ)など著書多数。

松下一仁さん
順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科准教授。男性ホルモン低下に伴う更年期障害、性機能障害などのメンズヘルスが専門。排尿機能・性機能障害に対する治療を積極的に取り組んでいる。