今年5月11日、18歳の専門学校生の男性と14歳の中学生の少女が新宿・歌舞伎町のホテルから飛び降りて、死亡した。少女のものと思われるバッグの中からは遺書らしきメモが見つかっていた。亡くなったのは“トー横キッズ”の2人だ。歌舞伎町の映画館「TOHOシネマズ」横の通り、通称“トー横”に集まってきた若者たちのことで、“トー横界隈”とも呼ばれている。
自殺・誘拐……問題浮き彫りに
亡くなった男性のものと思われるTwitterには、飛び降りる数時間前に《(一緒に亡くなった中学生と)付き合ったカモ〜》との投稿がされている。最後の投稿は、約1時間前の《お幸せになるが〜!!》というものだ。
自殺した理由の書き込みはなく、はっきりとはしないが、市販薬を映した動画が投稿されている。その市販薬を過量摂取(OD、オーバードーズ)し、意識を朦朧とさせることが一部で流行っているが、同じことが行われていた可能性がある。
ちなみに、5月5日には、岩手県の男(20)がTwitterで知り合ったトー横の少女(13)をビジネスホテルに連れ込み、誘拐の疑いで逮捕される事件も起きた。今年の5月に、自殺と事件が相次いだことで“トー横”の問題が浮き彫りになったのである。
“トー横キッズ”の実質的な“リーダー”は、バーテンダーの男性、あまみやさん(23・仮名)だ。2年ほど前から、若者たちが歌舞伎町周辺で飲んでいたのが始まりだという。
「若い子が多い。昼は中学生もいますよ。多くの子たちは、ここで知り合って友達になって、『また会いたい』から来ているのではないでしょうか。メンツの入れ替わりは激しい。全体では200人くらいが来ていると思いますが、1度に集まっているのは最大で40人くらい。半年に1回しか来ない人もいますし」
SNSで注目を浴びたのは、TwitterやTikTokに投稿している動画だ。トー横周辺で踊ったり、前転や側転を繰り返す内容だったりする。中でも“地雷メイク”はトレンドとなった。
7月某日。トー横で座って、男友達と話していたチャッピーさん(20代・仮名)。「あまみやさんが投稿した動画を見て、“やばいやつがいる”と思って、凸(突撃)したんです」と話す。動画を見て、興味を持ち、トー横にやってきた。
「今は月に2、3度くらい来ています」
出会った友達と立ち話をしていた高校3年生のクズさん(18・仮名)は「Twitterで知り合った友達に会いたいから来ています。ここで友達が増えました。共通する話題がある」と楽しそう。
来春には卒業だが、
「就職も学校から紹介された会社に決まっていますし。きっと、卒業してもまたここに来ると思います」
親からの虐待の果てに辿り着いた“トー横”
NPO法人若者メタルサポート協会の相談員、竹田淳子さんは歌舞伎町に集まっている若者について、
「“トー横キッズ”をよく見ます。飲酒をしていたり、女の子同士が話していたり。そこに男の子が声をかけたりしていますね。以前の歌舞伎町なら、グループが集まることはなく、基本的には1人で徘徊したり、集まっても2、3人だったのではないでしょうか。最近はSNSでつながって集まってきている印象です」と話す。
歌舞伎町で徘徊する若者たちはどんなタイプなのか。
「普通の子に見えていても、家族や学校に居場所がなかったりします。例えば、親からの虐待を回避するために居場所を求めてたどり着いたという子たちもいます」
“トー横キッズ”の中で自殺者が出たが、前出のあまみやさんは「警察の事情聴取で、自殺した人たちの原因を聞かれました。最初の2人は家のことでちょっと悩みを抱えていたようです。翌週、同じホテルから男性が飛び降り自殺をしている。3人目はよく知っている10代の子でびっくりしました。死ぬって感じじゃなかったので……」と驚きを隠せない。
最初の2人が飛び降りる直前の様子を知る人がいる。サラさん(10代・仮名)だ。ホテルのエレベーターを待っているときの表情を見た。
「そのとき、2人とは会話はしていないのですが、暗い様子でした。(市販薬の)ODの後だったらしくて、結構目がパキッた(キマった)後のような目をしていました。2人が亡くなったことを知ったときは、ショックで泣き叫びました」
亡くなった男性と思われるアカウントには5月4日、ODをしたと思われる市販薬を映し出した動画がアップされ、《パキるが〜!!!!》と投稿されていた。ODを繰り返していたのだろうか。
「(亡くなった2人は)今年の4月から来ており、そこで親しくなり、連絡を取り合っていました。トー横に集まる若者たちの中には、精神的に不安定な若者も多く。そこで、市販薬のODや飲酒をすすめられたりします」(サラさん)
未成年者の市販薬の乱用が増加
国立精神・神経医療センター精神保健研究所の松本俊彦・薬物依存研究部部長(精神科医)は、全国の精神科医療施設で調査。10代の薬物乱用で、市販薬が多用されていることを明らかにした。
「危険ドラッグ規制以来、10代では特に、市販薬の乱用は増えました。(亡くなった2人が)死のうと思って飲んだとすれば、さらにいつもよりも多くの量を飲んだ可能性もありますね」
市販薬のODは、危険性を伴うことを指摘する。
「非合法薬物の成分が微量ですが、入っています。また、ほかの成分によって、肝臓や腎臓の機能が悪くなることも。大麻のODでは死ぬことはないですが、市販薬のODで死ぬことはありえます。さらにエナジードリンクやストロング系のチューハイを飲むことで体調悪化が拍車をかけます」
なんのために市販薬のODするのか。
「臨床経験でいえば、性被害や被虐待経験者が多いです。患者さんたちは『消えたい』『いなくなりたい』『死にたい』を紛らわせるために飲んでいます。日ごろから居場所がない子たちなのです」
家庭や学校に居場所がない若者たち。SNSで知り合った、悩みを抱える同年代の若者たちと友達になるために、トー横に集まっている。コロナ禍でもあり、さらに居場所がないと感じているのだろう。
もちろん、市販薬ODは危険を伴うだろう。ただし、若者たちが、トー横に集まらなくなったとしても、別の場所を探し、市販薬のODをするだけ。ODをしてしまう背景の解決にはつながらない。
こうした状況に、「警察の問題というよりも、福祉の問題です」と松本医師。前出の竹田さんも、「普通に見える子どもたちのSOSに気づいてほしい。大人は正論をかざすが、説教や経験を述べるのではなく、ただ、ひたすら若者たちの声に耳を傾けてほしいのです。悩みがあれば、一緒に解決策を探すことが大切」と、大人に忠告する。
“トー横キッズ”に見られる現状は、大人たちがサインを見逃した結果ともいえるのではないだろうか。