写真はイメージです

 今年5月、爆笑問題・太田光の妻で芸能事務所「タイタン」の太田光代社長が自身のツイッターで睡眠時無呼吸症候群(SAS/Sleep Apnea Syndrome)の検査を受けている姿を公開し話題となった。その後、治療の様子もツイッターに上げている。

衝撃的な検査姿を公開した太田光代社長(太田光代Twitterより)

「SASとは、睡眠中にのどの空気の通り道である上気道が一時的にふさがり、窒息した状態を何度も繰り返す病気のことです。日本では推定300万人以上の患者さんがいるといわれています」と話すのは呼吸器内科が専門の宮崎雅樹先生。

閉経後の女性はSASのリスクが上昇

 SASは中年以降のメタボ体形の男性が患う病気という印象があるが、実際はどうなのだろうか。

「肥満によって首まわりの皮下脂肪が厚くなると上気道が狭くなるため、肥満の方は正常体重の方の約4倍、SASになりやすいといわれています。欧米人のSASの患者さんは肥満の方が多い傾向にあります」

 ただし、日本人を含めたアジア人は、SAS=肥満というわけではない。

「アジア人は欧米人と比べて骨格が小さいのに加え、頭部の前後径が狭いんです。それゆえ、骨格的に上気道がふさがりやすく、SASを発症しやすい。実際、私のクリニックに来院する患者さんの中には、やせ型でもSASを発症している方は少なくありません

 SASの男女比は2~3対1とされており、男性の患者のほうが多い。だが、女性の場合、更年期後は約3倍、発症しやすくなるといわれている。

「女性ホルモンの一種であるプロゲステロンには気道を開く筋肉の活動を高める働きがあるとされています。そのため、閉経前の女性は男性に比べてSASを発症しにくいものの、閉経後は男性と同程度のリスクを抱えることになります。ちなみに、更年期症状を緩和するためのホルモン療法を受けることで、SASのリスクを閉経前と同程度まで下げられるという報告も」

 SASの症状には次のようなものがあるが、中でも顕著なのはいびき。

セルフチェックで確認しよう!

□家族や同居人から、いびきがうるさいと言われる
□家族や同居人から、寝ている途中で呼吸が止まっていると言われる
□日中、眠気やだるさがある
□朝起きると身体が重い
□起床時に頭痛や、頭が重い感じがする
□熟睡感がない
□夜中に何回もトイレに行く
□集中力や記憶力が低下しているように感じる
□不眠がある
□ドライマウスが気になる
□性的欲求の減退や、ED(勃起不全※男性の場合)がある

自覚しにくい睡眠時無呼吸症候群。セルフチェックで確認しよう

「一般的にSASは、自覚症状が乏しい疾患です。いちばんわかりやすいのがいびきで、ご家族やベッドパートナーにいびきを指摘されて来院される患者さんが非常に多いです」

SASの治療は生涯続くもの

 いびきや日中の眠気など、痛みやつらさを伴わない症状だからといってSASをスルーしてはいけない。

SASを放置すると、高血圧や糖尿病、中性脂肪の上昇などを招き、動脈硬化が進行し、心不全や脳卒中のリスクが高まります。中等症以上のSASを治療せずにいると8年間で38%も死亡率が上がるという報告があるほどです。また、活性酸素が発生するので美容面にも影響を与えますし、妊娠中のSASが流産の原因になる可能性があるともいわれています」

 SASが疑われる場合、まずは「簡易検査」を受けることになる。

「血中酸素濃度を調べるセンサーと鼻の気流を感知するセンサーよってSASがあるかどうかを調べます。検査で中等症以上のSASが疑われた場合は精密検査に進みます。精密検査は1泊2日の入院をして行うことが多いですが、最近は自宅で検査を受けることができる場合もあります」

 精密検査によってSASと診断された場合、どのような治療が行われるのだろうか。

「いちばんスタンダードな治療は、鼻に装着したマスクによって一定の圧力をかけて上気道の閉塞を取り除くCPAP療法です。また、軽症の患者さんやCPAP療法が困難な方には、マウスピースを使って下あごを前方に引っ張り上気道の閉塞を防ぐという選択肢もあります」

 だが、これらの治療を受けてもSASは完治はしない。

「ただ、治療を続けることで快適な睡眠をとることができ、SASの症状の改善も期待できます」

 また、自分でできるSASの予防や改善方法もある。

「禁煙やダイエット、飲酒量や塩分を控えること、舌や口まわりの筋肉を鍛える体操などは、SASの予防や改善につながります。しかし、SASは自然治癒しない疾患です。気になる症状があるときには、“睡眠外来”や“睡眠時無呼吸外来”といった科目を掲げている病院の受診をおすすめします」

日常でできる予防法

ダイエット……肥満で首まわりの皮下脂肪が厚くなると上気道が狭くなってしまう。ダイエットで肥満の解消を。

禁煙……喫煙はのどの粘膜の炎症やむくみの原因となり、SASを3~4倍増加させるといわれている。

鼻炎の治療……鼻が詰まると鼻からの気流が減少し、のどを広げる圧力が弱まる。鼻炎を治療し鼻の通りをよくすることも大切。

ベロ体操……「あ~」「い~」「う~」「べ~」とそれぞれ口を大きく動かして1秒キープ。口元の筋肉が鍛えられる。

横向きに寝る……あおむけに寝ると重力の影響で舌が落ち込み気道が狭くなりがち。就寝時には舌の落下が起きにくい横向き寝で。

飲酒量を控える……アルコールには筋肉を弛緩させる作用が。舌やあごの筋肉が緩んで気道を圧迫してしまわないよう飲酒は適量を。

日常の生活から睡眠時無呼吸症候群を予防できる

保険適用もできる最新の治療法

CPAP療法

 シリコーン製エアチューブのマスクを鼻か口に取りつけて、CPAP装置からホースとマスクを介して圧力を加えた空気を送り込み気道の閉塞を防ぐ。SAS治療の標準的治療法。適切な治療を行えばその日から快適な睡眠がとれる。SASの根本的な治療はなく、CPAP療法は継続して行う。健康保険3割負担で月に約4500円。

装置はより小型化・軽量化が進んでいる(写真はイメージです)

マウスピース

「スリープスプリント」と呼ばれるマウスピースをはめ込むことで舌の落ち込みを防ぎ正常な上気道を維持。SAS治療のマウスピースには上下一体型(保険適用で2万~3万円程度)と、上下分離型(保険適用外で15万~20万円程度)の2種類がある。いずれも専門の歯科医がひとりひとりに合わせて作製する。

教えてくれたのは●みやざきRCクリニック 宮崎雅樹(みやざき・まさき)先生●2006年群馬大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院呼吸器内科助教などを経て2016年に現クリニックを開院。『林修の今でしょ!講座』などテレビ出演多数。著書『長生きしたけりゃ肺を鍛えなさい』(エクスナレッジ)。

(取材・文/熊谷あづさ)