今大会より正式種目として採用されたスケートボード。男子では堀米雄斗が金メダル、女子では西矢椛(もみじ)と中山楓奈(ふうな)が、それぞれ金メダルと銅メダルを獲得し、男女とも初代王者に日本人が輝いた。そんな彼らの活躍とともに注目されたのが、プロスケートボーダー・瀬尻稜の“フリーダム”な解説だ。
「7月25日と26日、NHKのEテレでスケートボードのストリート部門決勝戦が放送されました。瀬尻さんは“そうっすね~”や“鬼ヤバい”など、フランクな言葉を連発。王道な実況を務めたフジテレビの倉田大誠アナウンサーと対照的で話題になりました」(スポーツ紙記者)
瀬尻はこれまでスケボーの大会で5度の優勝を果たした実力者。そんな彼に今回の解説を振り返ってもらった。
地獄かよ!? の意味は
「解説は初めてだったんで、不安とかもありました。今年の5月くらいからアナウンサーの倉田さんと一緒にいろんな大会のビデオを見ながら、お互いが自然に話せるように繰り返し練習をしていました。倉田さんも周りも“普段どおりの話し方でいんじゃない”って言ってくれたのもあって、話し方については特に考えたりしませんでしたね。
事前に、出場選手が出す予定の技とか調べたりもしました。倉田アナも本当に勉強熱心で、知識ゼロのところから最終的にはトリック名やカルチャーとかも理解してくれていて、おかげでとてもやりやすかったです。スケボーの楽しさやカルチャー、選手が繰り出す技のスゴさが伝わればいいかなって思ってました」
“ビッタビタ”や“ゴン攻め”などの特徴的な用語も話題となったが、今回使ったもの以外にはどのような“スケボーワード”があるのだろうか。
「ヤバすぎって意味で“地獄”ってよく使いますね。すごい技を出したときに“地獄かよ!? ”って。テレビでは、さすがに使わなかったですけど(笑)。あと実況でも1回使ったんですけど“スケッチー”は、“危なっかしい”的な? ひと言で説明するのは難しいのですが、そんな意味で普段でもよく言います。“こいつなんかスケッチーな奴だな”とか。まぁ、スケーター以外で使ってる人は見たことないですね」(瀬尻、以下同)
解説のオファーは、日本の放送機関各社が枠組みを超えて共同制作する放送機構『JC』を通してあったという。
「最初に聞いたときは“あんまり俺しゃべるキャラでもないんで、やらなくていいかなぁ”って断ろうと思ってたんです。でも、世界大会に出ているという経歴を見て評価してくれて “俺がいい”って言ってくれて。“そんなふうに言ってもらえんなら、オリンピックも4年に一度だし生で観たいな”って感じでやることになりました」
スケボー以外の興味は
一躍注目を浴びる状況となったが、周りの反応は?
「母ちゃんはめっちゃ喜んで“すごいことになってる! 息子がバズってる!”ってメールくれました(笑)。友達からもたくさん連絡きましたね。スケーターからも、そうでない人たちも連絡くれて出てよかったなと思ってます。でも、今後また実況やるかはわかんないっすね(笑)。五輪は特別だからやってみようと思っただけですから。なにか出演とかのオファーがあっても断っちゃうかもしれませんし、ひょいっと出てるかもしれません」
世界大会の優勝歴に、まだ若い年齢……。今回、選手として出場しなかった理由はどこにあるのだろうか。
「スケートボードが五輪種目に決定する直前の'16年ごろから、スケボーに対していろいろ気持ちの変化があって、大会はもっと楽しく滑りたいなって気持ちが強くなったんですよね。当時、記者会見とかには出たんですけど、目指すかどうかフワッとしてました。そこからいろいろ考えてたんですけど、あるとき日本代表監督のスラ(西川隆)さんから電話があって“どうする? 出る?”って聞かれて“俺はいいっす”って返したら“わかった”って。そんな感じっす」
若い選手の活躍が目立ったが、瀬尻もまだ24歳。実力と実績から次の五輪もありえない話ではないが……。
「どうですかね(笑)。もし俺が今から目指すんであれば、これからいっさい遊ばず毎日練習しないとですね(笑)。その気持ちが芽生えればですけど」
解説の仕事の合間でも時間を見つけてスケボーしていたそうだが、スケボー以外の興味はというと……。
「ワンちゃんとかネコちゃんとか、動物が好きっすね。あとは絵を描くのも好きです。お笑いも見ますよ。バナナマンや東京03が好きっす」
決勝ではより高難度の技が繰り広げられ、選手の転倒も目立った。スケートボードに恐怖感はないのだろうか。
「怖いっすよ。子どものころ、年1回は大きなケガをしていました。学校にはしょっちゅう松葉杖をついて通ってましたからね。一番大きいケガは中2のころ、腕を開放骨折したことですね。その点、椛ちゃんは13歳らしい恐れ知らずな滑りでしたね。見てて“いいなー”って思いました」
日本人が結果を残せた理由
今回のメダルによって普及が進みそうだ。
「五輪が決まってから国内でも練習ができる施設が増えてきてありがたいんですけど、まだ大会で勝てるための練習ができるようなパークは少ないと思います。スケボーしている人と、していない人が同じスペースを共有できる環境ができればいいなとも思いますね」
ブームの予感の裏で、スケボーには、昔からある“イメージ”がつきまとう。
「街とかで滑ったりするスケーターに対しての偏見が変わってくれればなと思います。どうしてもスケボーのカルチャーとして街で滑りますし、そのカッコよさで始める人もいます。実際、迷惑をかけてしまっていることもあると思いますし、申し訳ないと思うこともあります。俺らがやっていることを全部理解してほしいとも言いません。でも、人気のない場所で“ここなら誰にも迷惑かけないっしょ”って場所で滑っていても、“スケボーしている人は不良”ってイメージで通報されるので、今回の五輪でそんなイメージが少しでも変化してくれたらなと思います」
スケーターにとって恵まれているとは言えない環境でも、今回日本人が結果を残せたのは、どういった理由なのだろうか。
「やっぱ日本人ってまじめで技術が高いんだと思います。
アメリカの選手とかイケイケでガンガン攻める選手もいますけど、大会となると戦略を練ったりとかもありますからね。キチッとしたまじめな性格が結果につながってるんじゃないでしょうか」
そんな彼は、新しい夢に向かって動き出している。
「今は自分の“ビデオパート”を出したくて撮影中です。パートっていうのは、街でのスケートを撮影してまとめて、音楽を乗せて映像として出す、作品みたいなものです。俺も好きなスケーターのビデオを見て、“こんな技やりたい”って練習していましたから。動画作品は勝ち負けがある競技と違って、自分のスタイルとかを自由に表現できるから好きですね」
彼が思う、スケボーの魅力とは。
「やっぱカッコよくて楽しくて自由なところですかね。何十段の階段とかガンガンとんだりもして、ケガする可能性がありますけど、それでも“かっこいい”や“楽しい”が上回っちゃう。そんなところだと思います」
“鬼ヤバ”トークで視聴者を魅了してくれた瀬尻。次は誰もが「地獄かよ!?」と驚く技を見てみたい!