長い老後の強い味方である年金。年金を増やすには「繰り下げ受給」がおすすめだとテレビや雑誌などでいわれているのを目にした人もいるだろう。繰り下げ受給とは65歳からもらえる年金を65歳で請求せずに、例えば70歳に遅らせて受け取ること。この方法を使うと受給額が最大で42%も増額されるため注目されている。ただ、繰り下げ受給には注意も必要だという。
ボーナス年金もらえる対象者は?
「たしかに、受給開始年齢を繰り下げると受給額が増えますが、なかには繰り下げようとすると、うっかりもらい損ねてしまいかねない年金もあります」と言うのは、ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんだ。
その年金、正式には「特別支給の老齢厚生年金」という名前で、ある年代より上の人たちが特別にもらえる厚生年金のこと。その年代は、男性が今年61歳以上、女性が今年56歳以上(詳しくは下囲み)。厚生年金を1年以上払っていて、かつ、公的年金に10年以上加入していたらもらう資格がある。
金額は人によって違うが、ごく大ざっぱにいうと、仮に在職期間にもらっていた給与の平均額が35万円だとすると40年加入で年間約120万円、最長の5年間もらうと約600万円になる。限られた年代の人だけがもらえる、まるで「特別ボーナス」のようなうれしい年金だが、実はもらい損ねている人もいるという。なぜだろうか。
「一般的な年金が基本的に65歳からもらえるのに対し、この特別支給の厚生年金は60〜64歳の間に受け取れる少し特殊な年金です。それを知らずに年金は65歳からと思い込み、書類が届いても詳しく見ない人もいるようです。また、年金を繰り下げ受給しようと考えている人がこの年金も繰り下げようとして請求していないケースも」(山崎さん、以下同)
重要なのはこの年金は一切繰り下げられないということ。もらえる時期がきたら何も考えずにもらうべき年金なのだ。また、寿退社した主婦がもらい忘れているケースもあるという。
「例えば結婚する前に何年間か会社に勤めていた場合です。いまとなっては自分が厚生年金に加入していたことを自覚しておらず、請求し忘れていることも。せっかく受給資格があるのなら、しっかりもらっておきましょう」
もともとこの特別支給の厚生年金は、1986年の年金制度の改正によって厚生年金の支給開始が60歳から65歳に引き上げられたことによってできたもの。
「突然、来年から65歳にしますというのは不公平なので、段階的に60歳から65歳に引き上げていくために作られたのがこの制度です。制度が作られてから35年がたち、今年65歳への切り替えが完了しました。今年以降に60歳になる男性は対象外で、この年金はもらえません」
女性は男性よりも早くから受け取れる
ところが、女性は事情が違うという。以前は定年になる年齢が男性より女性のほうが早く、それに伴い年金も早く支給されていたため、男性より5歳早く受け取れるように設定されているのだ。
そのため、女性は今年56歳以上の人ならもらえる。また、その年代の女性にはさらに年金を増やすいい方法が。60代前半に受け取るこの年金を65歳からの生活費に充て、そのかわりに65歳からもらえる一般的な年金を繰り下げるのだ。すると、繰り下げた分、受給額が増えるので老後資金を確実に増やすことができる。
この年金は60歳から64歳の間にもらえるのだが、ちょっと複雑なのは、その人が何年に生まれたかによって受け取り開始の年齢が変わってくる。60歳からもらえる人もいれば、64歳にならないともらえない人もいる。ただ、いずれにせよ、自分がもらえる年になると必ず日本年金機構から「年金請求書」が入った書類一式が送られてくる。それが手続きスタートの合図。
男性でいえば、今年63歳の人に誕生日の約3か月前に書類が届くはずだ。それより下の61歳と62歳の人は来年以降に書類が届くので、それを待っていればOK。
女性は今年62歳の人に去年書類が届いているはず。今年56歳から61歳の人は62歳以降の受給開始なので、来年以降に順次届く。
私、もしかしたらもらい忘れてるかも……と思ったあなた。あきらめる必要はない。
「たとえ請求し忘れていても5年を経過していない分なら遡って支給してくれます」
男性64歳以上、女性63歳以上で、厚生年金に1年以上入っていて「特別支給の厚生年金」を受け取った記憶がなければ、もらい忘れているかもしれない。まずは「ねんきん定期便」を確認したい。
「ねんきん定期便が手元にある人は『老齢年金の種類と見込額(1年間の受取見込額)』の左から3番目を見てみてください。そこに金額が印字されていて、もらった記憶がないなら請求し忘れている可能性があります」
あるいは最寄りの年金事務所や年金相談センター、ねんきんダイヤルに問い合わせて、未受給の年金があれば早めに請求を行おう。
限られた年代の人だけがもらえる「年金の特別ボーナス」をもらい損ねるなんて、なんとも悔しい。ぜひこの機会に確認を。
(取材・文/濱田麻美)