健康を維持するためには「何を食べるか」はもちろんのこと、「どう調理するか」も重要になります。新著『医者が教えるあなたの健康が決まる小さな習慣』を上梓した牧田善二医師が解説します。
前回:医者が教える「本当に注意すべき病気」の優先順位
「鰻を食べて精力をつけたい」は正しい反応
マグロやカツオなどの回遊魚、稚魚から成魚になるまでに太平洋を大回遊する鰻、走り出す力の強い馬、大空を飛ぶ鳥類などには「カルノシン」という天然の抗酸化物質が豊富に含まれます。カルノシンはアミノ酸が2つ結合しただけのシンプルな構造ながら、抗AGE、抗炎症効果もあり、強力な疲労回復作用があります。夏バテしたときに「鰻でも食べて精力をつけたいな」と感じるのは、正しい反応なのです。
なお、AGE(Advanced Glycation End Products)は「終末糖化産物」と呼ばれ、「糖化」によって産出される、とてもタチの悪い老化促進物質です。酸化が「体がさびること」であるなら、糖化は「体が焦げること」。AGEは体にできた「毒性の高い焦げ」とでも認識しておいてくれればいいでしょう。
「酸化」「糖化」「炎症」といった体にとって非常に悪い作用はたいてい同時に起きます。酸化だけ起きるとか、糖化だけ起きるというのではなく、複合的な悪作用によって健康は脅かされていきます。カルノシンにはそれらをまとめて対処する力があるのです。
カルノシンが含まれる肉や魚の主成分はタンパク質です。タンパク質の摂り過ぎは腎臓に負担をかけます。しかし、日常の食事ではめったにタンパク質過剰にはなりません。プロテインのような不自然なものは一切やめ、日々の食事で肉や魚から良質なタンパク質を摂るようにしましょう。
魚については、カルノシン豊富なマグロやカツオに加え、サバ、アジ、サンマ、サーモンなどを積極的に食べることをすすめます。これらには、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)という脂肪酸が多く、動脈硬化を防ぐ効果があります。最近ではアルツハイマー病も予防すると報告されています。
豆アジやジャコのように、頭から全部食べられる小魚は、カルシウムとビタミンD(カルシウムを吸収するために必要です)が豊富ですから、骨粗鬆症が心配な人に向いています。
いずれにしても、魚はそれぞれにいい働きがあるので「種類にこだわらずどんどん食べる」というスタンスでいいでしょう。サバの水煮缶やシャケの中骨缶などを常備しておけば、ちょっとしたお酒のつまみとしても魚を食べることができます。
肉を食べるなら「鶏肉中心」がおすすめ
一方で、肉には少し注意が必要です。国立がん研究センターの研究チームが日本人を対象に行った大規模調査で、牛肉や加工肉の摂取が大腸がんの発症率を高めることがわかりました。鶏肉にはそうした傾向は見られなかったことや、カルノシンが多く含まれることもあり、「肉を食べるなら鶏肉中心」でいることをすすめます。
肉については産地も重要です。アメリカから輸入されている牛肉は、早く大きくするための肥育ホルモンが使われている可能性があります。今、世界中で前立腺がんと乳がんが増えていますが、これら性ホルモンに関係する疾患が、牛肉などの肥育ホルモンと無縁だとは言い切れません。
健康を考えたら、「危うきには近寄らず」が一番です。魚をたくさん、鶏肉をほどほどに食べ、そのほかの肉は、信頼できるものをときどきに留めるという形で良質のタンパク質を摂りましょう。
今でこそ、寿司も刺身も世界的にメジャーな食べ物になりましたが、少し前までは魚を生で食べるなど奇異な目で見られたものです。でも、寄生虫や食中毒などが心配な食材でない限り、栄養素のことを考えたら生で食べるのが一番いいのです。野菜は火を通すとビタミン類が大きく損なわれます。野菜以外の食材でも同様のことが起き、火を通すことで大切な栄養素が目減りします。
また、ほとんどの食材は、火を通すと前述したAGEが増えます。AGEは、悪魔のような老化促進物質で、体のあちこちで悪さをします。血管にAGEが溜まれば動脈硬化に、骨に溜まれば骨粗鬆症に、皮膚に溜まればシミやシワに……という具合です。細胞そのものを老化させますから、がん、糖尿病、アルツハイマー病など、あらゆる生活習慣病の原因となります。
日に当たったり、ストレスを受けたり、糖質を摂ることでもAGEは産出されますが、食べ物からも体内に入ります。だから、毎日の食事では、なるべくAGEが増えない調理法を心がける必要があります。では、具体的にどうすればいいのでしょう。
「AGEは、高温で調理するほど増える」と覚えておいてください。最もAGEが少ないのが生。次いで、蒸す・茹でる・煮る・炒める・焼く・揚げるとAGEは増えていきます。同じアジであっても、刺身で食べるより塩焼きにすればAGEは増えます。同じ豚肉でも、とんしゃぶのほうがとんかつよりAGEは少なく抑えられます。
揚げ物好きの人は、どんな食材でも天ぷらやフライにして食べたがります。たしかに、揚げ物は美味しいですね。でも、そうした食生活を送っていれば、いつの間にかAGEをたくさん溜め込んでしまいます。
普段から、生で食べられるものは生で食べてみましょう。火を通すにしても、せいぜい蒸したり茹でたりに留めましょう。このようにシンプルな食べ方をしていると、食材そのものの味がわかってきます。結果的に、調味料による味付け自体も控えめになって減塩につながります。
バーベキューではAGEがどんどんつくられる
ちなみに、バーベキューは最悪です。まず、バーベキューでは、素材を直火に近い高い温度で焼きますから、AGEがどんどんつくられます。そこには、焦げもできます。焦げには発がん物質が含まれます。
また、バーベキューでよく食されるフランクフルトやソーセージなどの加工肉には、亜硝酸ナトリウムやリン酸ナトリウムなど体に悪い添加物がたっぷり入っています。戸外での食事は開放感もあり楽しく、心の健康には寄与します。ただ、そこでどんな食材をどう調理して食べるかといったことが、体の健康を左右するということを忘れないでください。
これまで動物性の食材について述べてきましたが、植物由来の食材も健康を保つためには非常に重要です。
私たちの大腸には、1キログラムを超える腸内細菌が存在し、いろいろな働きをしています。その働きは、便秘など大腸内の問題を解決するにとどまりません。
実は、私たちの免疫を担う免疫細胞の7割が大腸にあります。大腸の調子が悪ければ免疫システムが正しく機能せず、がんやさまざまな生活習慣病を引き起こし、コロナのようなウイルスと闘う力も弱くなります。あなたの健康を考えるうえで、大腸の状態は非常に重要で、その状態を左右するのは腸内細菌なのです。
腸内細菌は、ただ量があればいいというものではなく、その種類とバランスが大事になります。健康な人間の大腸には、およそ1000種類、数にして100兆~1000兆個の腸内細菌がいるといわれています。
1000種類の腸内細菌は、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の大きく3つに分けられます。日和見菌は、腸内の状態によっていろいろ立ち位置を変える菌です。加工品やファストフードなどに偏った不健康な食生活を送っていたり、食物繊維の摂取が少なかったりすると、バランスが崩れ悪玉菌が優位になります。
便秘が原因で悪玉菌が増えると、尿毒素などの有害物質を多く産出し、腎臓も悪くします。また、腸内細菌のバランスが悪い状態が続くと、脳の炎症が引き起こされ認知症につながる可能性も指摘されています。
このようなことから、善玉菌優位になるようないいエサを腸内細菌に送ってあげなければならない。そのために必須の栄養素が食物繊維なのです。
野菜、豆類、海藻、キノコといった植物性食品は、食物繊維が豊富です。食物繊維というと、「ゴボウやセロリなどを食べたときに感じる筋っぽいもの」という解釈をしている人も多いのではないかと思います。そうした、いかにも繊維らしきものは「不溶性食物繊維」といって、どちらかというと便のかさを増すのに役立ちます。
一方で、ワカメやコンブ、キノコなどのヌルヌルした部分は「水溶性食物繊維」で、こちらは主に腸内細菌のエサとなります。大腸にとっては「不溶性」「水溶性」どちらも大事。普段から野菜や海藻、キノコ類を意識的に食べるようにしましょう。
「食物繊維」に対する認識が一変した
かつて食物繊維は、ただの「カス」と捉えられていました。というのも、唯一、私たちが消化・吸収できない栄養素だからです。
私たちが食事をすれば、消化の過程で、例えば炭水化物はブドウ糖へ、タンパク質はアミノ酸へと姿を変え、小腸から吸収されていきます。ところが、食物繊維だけはそれをしないので、栄養学的には「役立たず」だと思われていたわけです。
実際に、野菜嫌いの人たちの発言の中には「野菜に含まれるビタミンやミネラルをサプリメントで補充すれば何も問題はない」と、食物繊維の存在などまったく無視したものも見られました。
しかし、腸内細菌の研究が進んで、その認識は一新されました。私たちが消化・吸収することができないからこそ、食物繊維は小腸を通過して大腸まで届き、腸内細菌のエサとなるわけです。
ちなみに、今、日本人に大腸がんが激増しています。女性は、部位別がんの罹患率では2位(1位は乳がん)で、死亡率に関して言うと1位なのです。男性は罹患率では、前立腺がん、胃がんに続いて3位。死亡率では、肺がん、胃がんに続いて3位となっています。
女性で死亡率が高いのは、肛門からの大腸内視鏡検査を嫌がっているうちに進行させてしまうといった理由もあるかもしれません。しかし、最大の原因は、男女ともに食物繊維豊富な食材の摂取が減っていることです。繰り返し述べますが、大腸の環境は大腸の問題に留まりません。全身の健康を守るために、食物繊維を摂りましょう。
牧田 善二(まきた ぜんじ)Zenji Makita 医学博士・AGE牧田クリニック院長
AGE牧田クリニック院長。糖尿病専門医。医学博士。1979年、北海道大学医学部卒業。ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。1996年より北海道大学医学部講師。2000年より久留米大学医学部教授。2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、腎臓病治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業し、延べ20万人以上の患者を診ている。