日本の海岸線や湖、半島、山の等高線など地形をなぞって楽しむ地図なぞり。グレーの薄い線をペンでなぞる行為で「夢中になる!」「心が整う」と全国にファンが増加中。コロナ禍で自由に移動ができない今、故郷やいつか訪れたい地域の地形をなぞって空想の旅を楽しんでは?
座禅と似てる? 心が整う「地図なぞり」
日本各地の“思わずペンでなぞりたくなる”地形を1冊にまとめた書籍『日本地図をなぞって楽しむ 地図なぞり』(ダイヤモンド社)。地図をひたすらなぞるというシンプルな面白さが評判を呼び、アマゾンの地理部門で売り上げ1位になるなど好調な売れ行きを示している。著者は人気ウェブサイト「デイリーポータルZ」編集長の林雄司さん。「日本にはなぞりたくなる地形がたくさんある」と言うが、そもそもありそうでなかった“地図をなぞる”書籍を作ろうと考えたきっかけとは?
「サイトに地図が必要なとき、国土地理院の地図をトレースして自分で作ることがあって、その作業が大好きでワクワクしちゃう。できればこれだけやっていられたらと考えて……」(林さん、以下同)
好きが高じ、過去には自作した地図をコミケで販売したことも。
「A3サイズの地図を1枚100円で販売して、バカ売れするかと思ったらほとんど売れなかった(笑)。だけど実際いろいろな人に試してもらったらみんな面白いと言ってくれたので、僕的には自信を持っていましたね」
だがいざ書籍化となると、その製作過程は想像以上の困難と苦労の連続だったと話す。
「なぞりやすくするために地図を簡易化するとどうしても小さい島や半島を省くことになる。でも地元の人には思いがあって、そのさじ加減が難しい。あとなぞるのにちょうどいい色を出すのも難しく、印刷所で印刷機の横に陣取り、“気持ち薄めに”など注文して調整を重ねていきました」
海岸線に半島、海峡、等高線や湖、川、城、台風の進路まで、収録した地図は計81点。風光明媚な名所に思いを馳せたり、現地で暮らす人々の生活を想像したり……。地図をじっくりなぞっていると、見知らぬ土地にも親しみが湧き、旅気分を味わえてしまうから何とも不思議だ。
加えて「実は勉強にもなるんです(笑)」というとおり、地図にまつわる地形の成り立ちや豆知識も紹介され、知的好奇心が刺激される。
“琵琶湖ってこんなに広かったんだ!”となぞって改めて気づかされることも多く、その土地の知識が自然と身についていく。
イライラ解消にも最適
本書の魅力はその没入感にもある。発売時に開催したオンラインライブイベント“朝まで地図なぞり”には延べ800人が参加。20時から翌朝4時まで8時間にわたりひたすら夢中で地図をなぞる様子を生配信し、反響を呼んだ。またSNS上でも“心が整う”“座禅と似た効果がある”“時間を忘れてしまう”と、無心に浸る醍醐味を挙げる声が多く寄せられている。
「なぞっていると頭が空っぽになる。リモート会議が続くと頭が疲れて、それをリセットするのにちょうどいい。ちょっとイライラしたことを思い出しても、なぜかそんなに腹が立たない。ストレス解消になるので、僕も仕事でキーッとなったときによくなぞってます(笑)」
さらに上級者になると、書き込みや色でアレンジするなどオリジナル化するファンも。
「旅の記憶やお店を書いても楽しい。地図は誰でも共通のものだけど、自分だけのエピソードを書き込むとオリジナルのものに。人生が凝縮された一冊になるかもしれません」
その醍醐味を知るには、まずは実践第一。林さんおすすめの「地図なぞり」をご紹介します。じっくり線をなぞるうち、いつしか心が整っている自分に気づくはず!
海峡の地図なぞりにトライ!
お気に入りのペンを用意したら、いざ地図なぞりにトライ! ひと筆書きでなくてもOK、なぞる過程を楽しむのが大切。なだらかな海岸線や奥深い入り江など長い時間をかけて形作られた自然の神秘に、トンネルの位置関係やそれが果たす役割など、なぞることで改めて発見する地図の楽しさも。1cm1秒ほどのスピードでゆっくりなぞるのが没入感を味わうコツ。
【津軽海峡】北の大地を思い浮かべて旅情をかきたてる海峡なぞり
北海道と本州北端を隔てる津軽海峡。両者を結ぶ青函トンネルは全長53.85km、海底部の距離は23.3kmと海底トンネルとしては世界最長で、北国への旅を思い浮かべながらなぞるのも味わい深い。難易度は★3つ(★5つで評価)。
【関門海峡】瀬戸内海と日本海をつなぐ難所。ハラハラの航行を疑似体験
本州と九州を隔てる関門海峡は、客船やタンカー、貨物船が多く行き交う海上交通の要所。しかも最も陸の近い壇之浦と和布刈の間はわずか幅670mと航路の上級コースで、なぞればその難度の高さを実感することができる。
(取材・文/小野寺悦子)