ビデオリサーチは1月から6月までのタレント別テレビCM起用社数ランキングを発表した。
ベスト3は次の通りだった。
1位 広瀬すず(23)リクルート、AGC、リクルートキャリアなど18社(前年同時期18社)
2位 本田翼(29)ソフトバンク、LIFULL、アサヒビールなど17社(同6社)
3位 永野芽郁(21)KDDI、アサヒ飲料、湖池屋など16社(同8社)
いずれも売れっ子。納得の顔ぶれではないか。本田と永野の起用社の伸びが著しい。
「誰々はいくら」といった“ランク表”は存在しない
もっとも、芸能プロダクションのCM担当者らの間で「CMの女王」と呼ばれているのは文句なしに綾瀬はるか(36)である。起用されているのは9社に過ぎないが、それぞれの契約金が芸能人でトップレベルだからだ。
綾瀬がCMに起用されているのはNTTドコモ、ユニクロ、SK-II、パナソニック、日本生命、日本コカ・コーラ、アリナミン製薬、キッコーマン、江崎グリコ。
いずれも日本を代表する有名企業や著名商品だ。その上、ユニクロは綾瀬にスペシャルアンバサダー(代理人)を任せ、NTTドコモも同じくブランドアンバサダーを委託しており、契約は通常より高額になると見られている。綾瀬は単純にCMに出ているわけではない。
綾瀬の具体的な契約金額だが、それに触れる前にCM契約に関する誤解を正したい。多くの人は「吉永小百合は1億円」「広瀬すずは3000万円」といったランク表があると思い込んでいるが、そんなものはどこにも存在しない。すべて虚構である。芸能人のCM契約金は各社との契約によってバラバラなのだ。
芸能プロのCM担当者が苦笑しながら説明する。
「宣伝費は『商品価格の5%』、あるいは『総売り上げ見通しの3%』などと決まっています。サラリーマンなら理解していただけるでしょう。にもかかわらず、同じ芸能人が100円のスナック菓子と300万円のクルマのCMに出演したとき、同じ金額の契約金をもらえるはずがないでしょう」(芸能プロCM担当者)
商品の価格も総売り上げもまるで違うのだから、CMの契約金を芸能人ごとに画一化できるはずがないのだ。
また、契約スタイルも単純ではない。「テレビCMのみ」「CMと雑誌・新聞広告のセット」「新商品の販売時期のみの短期CM」など多岐にわたる。それぞれ契約金は大きく違ってくる。やはりランク表など存在するはずがないのだ。あるのは「この芸能人は高い、この人はそうでもない」といった相場観のみである。
また、芸能人側が積極的に出たいと思うCMの契約金は安くなり、出たくないと思われるCMの契約金は高くなる。やはり芸能人によって契約金が画一というわけではないのである。
例えば契約金が安くなるのは女性用化粧品だ。意外かも知れないが、きれいな映像を撮ってくれて、自分にとってプラスになるから、芸能人側としては少しくらい契約金が安くたって出たいのである。
その上、化粧品メーカーの数は限られていて、チャンスは少ない。断ったら、ライバルにCMを奪われてしまう。依頼があったら、断りたくない。
逆に契約金が高いのは消費者金融。消費者金融はやましい存在ではないものの、今も暗いイメージを抱いている人がいるため、自分の印象も悪くなるのを恐れている芸能人は多い。契約金を高くしないと、なかなか出てもらえない。
タモリ(76)は2009年に消費者金融・アコムのCMに出たが、この時の契約金は超破格の年1億円と言われた。また、民放内では「アコムにはタモリさんを口説くための強力なコネがあったのだろう」とささやかれた。
構造的に契約金が安いのは格安ラーメン店チェーンなど薄利多売の商売をしている企業である。多額の宣伝費を計上しにくい。中華そば一杯440円の幸楽苑のCMに出ている、きゃりーぱみゅぱみゅ(28)の契約金もお手ごろとされている。
「幸楽苑のCMに出ている自分を楽しんでいるのでしょう。そういう付加価値を求め、契約金は度外視するタレントもいる」(芸能プロCM担当者)
「CMの女王」綾瀬はるかが人気のワケ
綾瀬の話に戻りたい。彼女の場合、契約金は各社年4000万円から年7000万円以上と目されている。
「圧倒的にトップクラスです。大坂なおみや大谷翔平ら世界的アスリートを除くと、これ以上の金額はありません。数多くのCMに出ている芸能人の場合、実は1社当たりの契約金は年2000万円程度というケースも少なくありません。高くてもせいぜい年3000万円程度。また若手の中にはどんなに安くてもCMに出たいという人がいます。CMを自分のプロモーションと考えているのです」(芸能プロCM担当者)
では、どうして綾瀬は企業にとって魅力なのか? 答えは単純である。好感度が抜群にいいから。企業は会社や商品のイメージを上げるためにCMを流すので、好感度の高い芸能人に飛びつく。
綾瀬は年に2回行われるビデオリサーチ社の「テレビタレントイメージ調査」で昨年前半(2月期)までV5を達成した。CM業界内で最も信頼されている調査である。
綾瀬はこれまでに首位を11回も獲得している。昨年後半(8月期)は新垣結衣(33)に首位を奪われたものの、2位だった。CMにはうってつけの存在なのである。
最後に同じビデオリサーチが発表した1月から6月までの関東地区のCM出稿量(秒数)も見てみよう。「その芸能人のCMがどれだけ流れたか」をカウントしたものである。
1. 米倉涼子(46)楽天モバイル、コーワ等/138,965秒
2. 綾瀬はるか ユニクロ、コカ・コーラ、SK-II等/137,795秒
3. 斎藤工(40)Indeed、コーワ、WOWOW等/126,735秒
4. 浜辺美波(20)NTTドコモ、味の素等/125,065秒
5. 芦田愛菜(17)ワイモバイル、リクルート、スズキ等/118,560秒
画面でよく見る顔が上位にいるはず。契約金がトップクラスで出稿量も多い綾瀬はやはりCM女王なのだ。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立