世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。
メンタリスト・DaiGo(2018年)

第17回 DaiGo

「ホームレスの命はどうでもいい」「生活保護の人が生きていても、僕は得をしない」「僕は生活保護者の人たちにお金を払うために、税金を納めているんじゃない」

 自身のYouTubeでこんな発言をしたメンタリスト・DaiGoが大炎上しています。

 DaiGoと言えば、2020年10月18日に行ったライブ配信「人生最高額を更新したので月収を公開します」において、月収が9億円に到達したことを明かしていましたが、このような経験から「税金をたくさんおさめているオレは、エラい。エラいから、税金の使い方に口をはさむ権利があるんだ」という歪んだ考えをするようになったのかもしれません。みなさんご存じだと思いますが、日本国憲法第25条第一項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権を定めており、だからこそ何らかの理由で困窮した人のために生活保護という制度があるわけです。国民の権利なわけですから、誰にも文句を言われる筋合いはありません。

 当初は「僕は個人的に思うので、そう言っただけなので、別に謝罪するべきことではないと思いますよ」と強気を貫いていたDaiGoですが、世間の批判が予想以上のもので焦ったのか、一転して反省動画をアップしました。しかし批判の声は止まず、出演していたCMのクライアントが放送を当面の間自粛することを発表すると、謝罪の定番である黒いスーツを着て「もし自分の母親が、生活保護を受けていたら、同じ発言を僕が聞いてどう感じるのか」と亡くなった母親までちらつかせて、改めて謝罪をしたのでした。

DaiGoは実は「自信がない」のでは

 そんなDaiGoについて、8月15日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)に出演した社会学者・古市憲寿は友人関係にあることを明かし、「メンタルが弱いんですよ」と発言しています。こんな傍若無人なことを言う人のどこが「メンタルが弱い」のかと思う人もいるかもしれませんが、私もDaiGoはメンタルが弱いというか、本当は自分に自信がない人なのではないかと思います。

 みなさんは「自分に自信がある」というと、どんな状態を思い浮かべるでしょうか。おそらく、多くの人が年収やルックスのように“証拠”を伴うものと考える人が多いと思います。確かに「目で見えるもの」は大切です。たとえば、高倍率を勝ち抜いて、年収が高いとされる有名企業から内定を得たのなら、周りに一目置かれたり、チヤホヤされて「オレはすごい!」「勝ち組だ!」と自信がつくかもしれません。

 しかし、この自信のつけ方には盲点があります。それは「社会的ブランドがなくなると、自信が保てなくなる」可能性があることです。上述した例で言うのなら、有名企業に勤務していることで自信を得ていた人が、なんらかの理由で体調を崩して働くことさえままならなくなったら、今までの自信を保つのはかなり難しいと思います。それでは、人からほめられなくなったら、自信がないままに生きていくしかないのでしょうか。「俺は負け組だ」と膝を抱えて生きていくしかないのでしょうか。もちろん、それは違います。

自己肯定感と自己効力感の違い

 努力して有名大学に入ったとか、がんばってダイエットして〇キロ痩せたなどというふうに、証拠や理由があってこそ成立する自信を、心理学では「自己効力感が高い」と言います。

 反対に「社会的ブランドをすべて失ったり、人にほめられたりしなくても自分を卑下しない、これはこれでいい」と思える状態を「自己肯定感が高い」と言います。SNSでは、自己肯定感は「自分を誇りたい気持ち、自分は最高と言いたい気持ち」と解釈されていることが多いようですが、それは誤りです。

 自己肯定感と自己効力感は正反対のもののように感じますが、車におけるアクセルとブレーキのように、「本当の自信」のためには、どちらも必要不可欠なものです。オトナになり経済活動を行うようになると、誰もが一定の成果を上げなくてはいけませんから、自己効力感は必要です。しかし、評価というのは評価する人や時代によっても変わりますから、努力したとて、毎回必ず報われるわけではないのです。ですから、がんばる人ほど挫折を経験するでしょうが、その時に必要になってくるのが「仮にうまくいかなくて、社会的なブランドが得られなくても、自分の価値が損なわれるわけではない」と思える自己肯定感なのです。

 自己肯定感が強い人は失敗しても自分を傷つけることはありませんから、もう一度頑張ってみようと再チャレンジすることができるでしょう。反対に自己肯定感が低ければ、「失敗した。社会的ブランドを手に入れられない自分は価値がない」と思い込み、すべての挑戦をやめてしまうかもしれません。このように、自己効力感と自己肯定感が組み合わさって成立するのが、揺るぎにくい「本当の自信」なのです。

“価値”へのこだわりの裏にあるもの

 DaiGoの自己効力感と自己肯定感について、考えてみましょう。彼の動画を見ていると、自分と違う意見の人に対し、「お前の生涯年収、俺の2週間分くらいだけど?」と年収で丸め込むことが多いことに気づきます。資本主義社会において年収が高い人は“成功者”として扱われますから、「年収が高い自分は価値が高い、正しい」と勘違いしてしまったのかもしれません。上述したとおり、証拠があってこその自信を自己効力感と呼びますから、DaiGoの自己効力感は突出して高いと言えるのではないでしょうか。

 その一方で、自己肯定感はひどく低いように感じるのです。DaiGoの動画のタイトルを見ると「謝る価値のない相手について、炎上覚悟で語ります」といった具合にタイトルに“価値”がつくものが多いのです。価値にこだわるということは、無価値を恐れていると見ることもできるでしょう。自分が無価値だと思いたくないからこそ、「金を稼いでいる」ことをひけらかしたり、DaiGoの基準から見て無価値な人、今回の場合、経済的に困窮している人をターゲットにして叩いたのではないでしょうか。自己効力感は高いけれど、自己肯定感が低いのだとしたら、その自信は「本当の自信」ではなく、いびつで脆いものだと思います。

DaiGo的二元論は孤立や攻撃的思考を招く

 DaiGoはいいオトナなので自分のことは自分でどうにかしてもらうとして、頼まれもしないのに私が危惧しているのは、人生経験の浅い若い視聴者がDaiGoのYouTubeを見ることで「本当の自信」から遠ざかるのではないかということです。DaiGoの動画の特徴として、「縁を切るべき人、信頼できる人の見分け方」というふうに、正反対のものを比較するタイトルが目に付きます。短い文字数で人の気持ちをひきつけるためには非常に効果的な手段なのですが、実際に人を「縁を切るか、信頼できるか」のように二分するのは危険な発想だと思います。

YouTubeチャンネル「メンタリスト DaiGo」より。人間関係をテーマにした動画は再生回数も多い

 たとえば、つらいことがあったとき、相手に話を聞いてほしい、優しく受け止めてほしいと思うのは当たり前のことです。しかし、相手にも都合や事情がありますから、忙しかったり疲れていたりして、いつも優しく受け止めてくれるとは限りません。それなのに「信頼できる人、縁を切る人」のように二元論で考えてしまうと、99回優しく話を聞いてくれたとしても、たった1回話を聞いてくれなかっただけで「冷たい人だ、縁を切ったほうがいい人だ」と思い込んで、自分から縁を切ってしまい、孤立してしまうことになりかねないでしょう。

 こういうトラブルを数多く経験すると、次第に「自分は人とうまくやっていけない、欠陥のある人間なのではないか」と自分を責めるか、「自分を傷つけたあいつが許せない」と他罰的・攻撃的な思考になっていきます。その結果、恋人に極度に依存したり、DaiGoのように社会的な条件で相手をねじふせるような発想になり、対人トラブルの素を増やしていくことになるのではないでしょうか。

 2019年9月18日に配信されたカジサックのYouTubeにおいて、DaiGoはメンタリストを志した理由について、小学校のころからいじめられていた事実を打ち明けるとともに、「まともに生きてきた人間は、人間の心を読みたいといか、心理に興味があるなんてならないんですよ」と発言しています。もし、「またいじめられたらどうしよう」という不安から人間心理に興味を持ったのだとしたら、問題は解決しない気がします。100%の確率でその読みが的中するなら安心できるでしょうが、はずれたとしたら、そこでまた不安になることは目に見えているからです。

 DaiGoのYouTubeはビジネスですので炎上商法を狙った可能性も否定できません。その結果ピンチに陥ったのなら、その責任は自らで取るしかないでしょう。本当にヤバいのは、知らず知らずのうちに、極端な成果主義や思考をすりこまれ、「本当の自信」から遠ざけられていく、情報の“受け手”な気がしてなりません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」