週末の夜。駅前には流行(?)の“路上飲み”が目立つ。渋谷との違いは、若者ばかりでなくさまざまな年齢層がいる点。都内でも有数の“飲んべえ”タウンとして知られ、コロナ前は朝まで飲み歩く面々も少なくなかった街・高円寺。この街最大の夏の風物詩が、『高円寺阿波おどり』だ。
「毎年8月末に開催されて100万人が来場します。踊り手は1万人。街を周回する“流しおどり”を見る人で道はごった返して、当日は移動するのがひと苦労です。駅前は動線の確保のため一部封鎖されて、大混雑。朝のラッシュの満員電車みたいになることもあるので、今の時代でいうとかなりの“密”ですね(苦笑)」(高円寺のバー店主)
開催決定も辞退する連が多数
コロナ禍にあってこの夏祭りが物議を醸かもしている。昨年はコロナのため開催を見合わせたが、今年は8月28日・29日、9月25日・26日の4日間にわたって開催されることが決定したのだ。
「流しおどりは昨年に続き、中止で、区立の施設である『座・高円寺』のステージを使っての“舞台おどり”のみでの開催となります」
そう話すのは、高円寺の阿波おどりに参加する連(阿波おどりに参加するグループのこと)に所属する高円寺在住の男性。彼の連は今年の舞台おどりに参加するという。
「この時代ですから、怖いですよね。ただ僕もいろいろと付き合いがあるので、連長が“参加する”となったらなかなか断るってことも……」(参加する連の男性、以下同)
参加する連のリストを見ると、あることに気づいた。
「かなり多くの連が、今回の参加を辞退しているんですよね。『高円寺阿波おどり振興協会』に所属している、長い歴史を持つ有名な連を中心に。いくら振興協会がやるって言っても、自分の連はとても参加させられないってことでしょう。協会への悪口を言ったら簡単に干されるような狭い世界ではありますが……」
協会に所属する連(通称・協会連)は30。運営側となる協会の役員も兼務する連長のいる連が中心だ。
「開催の決定をした段階では感染者は落ち着いていたかもしれませんが、その後感染者は爆発的に増えていますから、“中止にすべきだ”と考えている人は多いです。どういう対策がとられるのかよくわからないし……」
今回、“協会連”であり、今年の阿波おどりに参加しない複数の連に、参加辞退について取材依頼をかけた。“匿名でも構わない”という話で依頼したが、ほぼすべてに取材を断られる結果に。そんななか「名前を出して構わない」と取材に応じてくれた連がある。『吹鼓連』(すいこれん)。連員は110名の協会連だ。吹鼓連の連長(連の代表)である福村沙織さんは、今年参加を辞退した理由を3つあげた。
「8月の公演までの間、緊急事態宣言およびまん防の影響で杉並区の施設が19時及び20時までしか使えないことにより、事実上、練習会場の確保ができなかったこと」
「これまでも宣言とまん防により練習を中止してきたのに、今回の公演のために活動を開始すれば、今までやってきたこととの整合性が取れなくなると判断したため」
「(開催が決定した)6月の時点で、8月の公演の時期はコロナ感染者の拡大が予測でき、本番代わりの公演とはいえ、そこまでのリスクを冒してまで出演するメリットを見いだせなかったため」
福村さんの吹鼓連は、今年参加しないが、阿波おどりが開催されること自体についてはどう考えているのか。
「東京都の指針に基づいて人数や客席数を制限して開催するものであり、主催者側(高円寺阿波おどり振興協会)の考えにも賛同し、協力したい気持ちは大いにあります。
しかし、タイミング的には今まででいちばんの(感染)拡大期に開催という最悪の状況にあたり、主催者の開催決定には賛同できても、連としては連員の命を守ることも踏まえて不参加にするのが適切と、いろいろ話し合ったうえで結論づけました」(福村さん)
辞退した理由は大いに理解できた。しかし、その考えのなか、“開催自体”を賛同する理由は何になるのか。
「政府や東京都の方針について賛成・反対含め、いろいろな立場の方のさまざまな意見があります。それを全部聞いていては何もできませんので、阿波おどりの開催については東京都や杉並区の指針に従って行い、あとは連ごとに連内の状況を踏まえて結論を出せばよいことと思いました。出たい連・出られる連のみで、見たい人だけがチケットを買って見ればよいのであって、反対の方は見なければいいというシンプルな考えです」(同・福村さん)
演舞中はマスクをしてはいけない
このコロナ禍にあって高円寺駅前では酒盛りがくり広げられる。開催当日はどのような状況になるのか。
取材を進め、阿波おどりに参加する男性に改めて話を聞くと、驚くべき“対策”が講じられていることがわかった。
「協会に対し、舞台で踊る際に、“マスクをつけさせてほしい”と話した連がいくつかあったそうです。しかし、協会の返答は、演舞中はマスクをしてはいけないというものだった。おそらく“美しくないから”ではないでしょうか。まったくよいことではないですが、百歩譲って“演舞中だけつけなくてもいい”ならわからなくもないですが、“つけちゃダメ”というのはどう考えてもおかしいと思うんですよね……」(前出・参加する連の男性)
今年開催することや対策、またマスク着用NGの件について、主催である振興協会に問い合わせた。前提として以下の返答があった。
「今年も東京高円寺阿波おどりは(流しおどりは)中止です。事業の継続を目指して別途施設内での公演を開催する運びとなりました」
対策についても話を聞いた。
「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインに基づき、策定した感染症防止マニュアルに沿った対策を講じています」
開催自体については……。
「公演への出演にあたっては当初より各連の判断を尊重しています。各連における検討の結果として、出演を見合わせた連が一定数あるということと理解しています。今日までの過程で特定の連から開催反対の連絡を受けたことはありません」(協会役員)
しかし、週刊女性の取材依頼への反応にあるように、反対すする人間は多い。マスクについては?
「演舞時を除く行程でのマスク着用を徹底しています。演舞時につきましても、観客席とステージとの規定距離を確保した運用のうえで、マスクおよびマウスシールドの着用有無について各連の判断に委ねております」
週刊女性が取材した男性が受けた回答とは違う回答が返ってきたのはどういうことか。すべてを自粛しては、確かに前に進めない。しかし、それはしっかりと対策をとったうえで成り立つ話だ。阿波おどりの開催は、間近に迫っている。
8月23日(月)、NPO法人 東京高円寺阿波おどり振興協会のサイトで8月28日(土)、29日(日)の舞台公演「2021夏 東京高円寺阿波おどり」の中止が発表された。同期間中に動画収録し、後日配信されることに。9月公演については現状発表はない。
※原稿を一部加筆しました(2021年8月23日20時05分)