誰もが1度は見たことがあるだろう『刑事ドラマ』。バディもの、組織としての群像劇、“一匹オオカミ”の活躍。これまでに放送された数多い作品の中であなたの心に残る刑事モノは、どれですか?
心を動かした「刑事ドラマ」ランキング
いつの時代も“テッパン”の人気を誇る刑事ドラマ。日本では、1957年に放映された『ダイヤル110番』(日本テレビ系)が刑事ドラマの第1号だ。それから60年以上、シリアスな作品、アクションが激しい作品、はたまたコミカルなものと、さまざまに形を変えながらこのジャンルは現在へと続いている。
今回、自分の中の“伝説の刑事ドラマ”について40代・350人、50代・350人、60代・300人、男女比が200対800の合わせて1000人にアンケートを実施。各世代別のランキングはどんな結果に!? あなたの“伝説”は何位ですか?
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40代で1位となったのは『あぶない刑事』(日本テレビ系)。'86年10月から'87年9月まで放送され、翌年には『もっとあぶない刑事』が続編として登場。スペシャルドラマや映画にもなった、人気シリーズ。
「絶対ありえないだろう、という展開。バブル時代を象徴するようなコミカルさが好きです」(東京都・48歳男性)
「登場人物のキャラが面白かった。セリフも軽快で、テンポもよく、楽しめた」(北海道・49歳女性)
「笑いあり、涙あり。そんな中でも光るのが、ワイルドな銃撃シーン。大好きです」(東京都・42歳女性)
「アクションシーンがカッコよく、舘ひろしが演じているタカと、柴田恭兵のユージ、ふたりの主人公のアドリブと思えるやりとりが楽しかった」(大阪府・48歳男性)
ドラマについてのコラムなどを数多く執筆している田幸和歌子さんは、「40代の1位とは意外」と話しつつ、
「この作品はもう少し上の世代に支持されていると思っていました。リアルタイムで視聴していたメインは50代だと思いますが、3位ですね。再放送と、その後の映画化されたシリーズで下の世代に支持が広がったのでは」
そんな50代での1位は、『太陽にほえろ』(日本テレビ系)。'72年7月から'86年11月まで、全718回放送された。60代でも支持を集め、1位になっている。
2世代で1位『太陽にほえろ』
「アクションシーンがリアルで、今のドラマと違って物語に人情味があったと思います」(神奈川県・51歳女性)
「刑事それぞれのキャラクターが個性的で、そのみんなが全員カッコよかった」(東京都・55歳女性)
「ブラインドを指で広げて窓の外を見る、ボスのしぐさをまねしていました」(神奈川県・52歳男性)
「あだ名で呼ばれる新人刑事とベテラン刑事のコンビで事件を解決するところがよかった」(秋田県・60歳女性)
との声。刑事ドラマの“王道”といってもいいくらいの作品。“青春アクションドラマ”と銘打ち、刑事を主役に据えたこのドラマ、当時としては、それまでの作品とは違うことをやっていたと田幸さん。
「お互いを愛称で呼ぶということ。あれは発明ですよ。竜雷太さん演じた“ゴリさん”、小野寺昭さんの“殿下”、松田優作さんの“ジーパン”。こういった愛称をつけるからこそ、愛着を持って見ることができました。
うまいシステムになったのが、殉職ということで新しい役者さんを入れる新陳代謝のスタイル。これも『太陽~』以前には、ほぼありませんでした」
今なら放送できない『西部警察』
また、その殉職についても、
「役の死に方に、俳優さんご自身のアイデアを入れていたそうです。それぞれが演じたキャラに対する美学みたいなものを感じる部分もありますね」(田幸さん)
『太陽にほえろ』に出演している石原裕次郎さんで思い出されるのが、石原軍団の『西部警察』(テレビ朝日系)。各世代とも5位までにランクインはしていないが、40代で6位、50代で7位、60代で8位という成績に。
カーアクションや派手な爆発シーンが多く、ドラマウオッチャーの間では評価されているのだが……。
「今回は女性が8割のアンケートなので、そこまで票が伸びなかったのでしょう。石原軍団という“男臭さ”はあまり女性ウケしないと思いますし(笑)。
ただ、爆破シーンで使用している火薬の量とか、カースタントなどをCGではなく実写でやっているのはすごい。今の時代では絶対にできない撮影だからこそ、改めて見ると女性も当時より盛り上がると思います」(田幸さん)
3世代から支持された『相棒』
そして3世代ともに上位にランクインしたのが『相棒』(テレビ朝日系)。'00年6月から'01年11月にかけ単発ドラマとして放送され、'02年10月から連続ドラマとしてシリーズ化。現在は『season19』まで放送されている。
「これまでの定番刑事ドラマではなく、社会的な問題や官僚や政治家の陰謀などが絡んでくるストーリー展開が面白い」(愛知県・45歳女性)
「複雑なストーリーと、緻密に練られた推理。そこにコミカルなところもあって、物語のバランスがすごくいいと思う」(千葉県・53歳女性)
「シリーズによっていろいろな“相棒”がいたけれど、及川さんが演じたときの右京さんとの掛け合いが最高でした」(神奈川県・56歳女性)
「派手ではないが、事件を解決するだけではなく、事件の背景にある深い問題がテーマになっている。2人組の刑事の関係性も楽しい」(石川県・66歳女性)
「近年で“バディモノ”の人気を確立させるきっかけとなった作品ですね。そのバディも、水谷豊さん演じる頭脳派の右京と、寺脇康文さん演じる肉体派の亀山から始まり、次のシーズンだと右京と同じ頭脳派の及川光博さんの神戸が登場したり。
それぞれのシーズンで活躍する“相棒”との相性の違いも面白く、1話1話がよく練られた脚本なので見応えがあります」(田幸さん)
またその脚本が、なぜそこまで練られているかについて、田幸さんはこう続ける。
「『相棒』は基本、1話完結でいろんな脚本家の方が書かれています。ある意味、脚本家同士で競い合っているような部分があるのではないでしょうか。視聴者でマニアの方は、脚本家の誰々の回は当たり、といった見方をしている人も多いと聞きます」
『踊る大捜査線』の魅力
同じように3世代でランクインしているのが『踊る大捜査線』(フジテレビ系)。'97年1月から3月まで放送。その後シリーズ化され、映画や舞台にも展開。織田裕二が演じる主人公の青島を取り巻く、個性豊かなキャラクターにスポットを当てたスピンオフ作品も数多く制作された。
「音楽、キャスト、内容とすべてが面白かった。いかりや長介さんが演じた、和久さんがいい味を出していた」(大阪府・49歳女性)
「今までの刑事ドラマと違って銃撃シーンが少なく親近感のある内容で、登場人物も癖があって面白かった」(神奈川県・53歳女性)
「人情あふれる熱い捜査員で、周りの同僚とともに事件解決していく姿に引き込まれました」(茨城県・51歳女性)
「現場の意見が上に通らなくてヤキモキするところは、どの業界でも同じなんだな、と思った。青島の一生懸命なところが好き」(東京都・61歳女性)
田幸さんは『踊る~』について、いわゆる“ザ・刑事モノ”のドラマとは一線を画していると語る。
「『踊る~』については、刑事モノが好きではない人もけっこうハマっていたという印象があります。ドラマの中で刑事の日常業務の煩雑さや、警察組織というものを描いていました」
脱サラして刑事になった青島に対し、深津絵里が演じる同僚の恩田すみれが放ったセリフがこのドラマを象徴していると、田幸さんは言う。
「“刑事はヒーローじゃない、公務員よ”みたいなことを言うんです。そういった日常業務に追われる公務員としてのしんどさや、キャリアとノンキャリの扱いの違いという二重構造を見せたり。単なる犯人を捕まえるという部分だけではない、組織としての警察をうまく物語の中に落とし込んでいました」
そんな『踊る~』、実は企画段階ではまったく違う設定だったという。
「初めは、もっと恋愛要素が強かったそうです。ただ、同じクールで放送するフジテレビの恋愛ドラマと被るということで、大幅に企画を変更してみなさんが知っている『踊る~』になったんです。結果として、刑事ドラマの新しい形になり、この路線変更は今思えば大当たりですね」(田幸さん)
もう少し上位に入るかなと思っていた、と田幸さんが首を傾げたのが『古畑任三郎』(フジテレビ系)。第1シーズンとして、'94年4月から6月まで放送。総集編を挟み、'99年の第3シーズンまで続いた。
田村正和さんの“古畑シリーズ”
「田村正和さんの独特のセリフの間や、毎回変わる豪華俳優陣のインパクトがすごかった」(東京都・44歳女性)
「古畑任三郎の人柄と、犯人を追い詰めて、じわじわと真相に近づいていくところ」(東京都・52歳女性)
「なんといっても田村さんのキャラクター。とぼけた感じなのに心理作戦で犯人を追い詰めるときの鋭い眼光がさすがとしか言いようがない。あと、部下である西村雅彦さん、石井正則さんの個性もうまくマッチしていたと思う」(大阪府・65歳女性)
田幸さんも、脚本とキャスティングのマッチングが素晴らしいとしつつ、その魅力を語る。
「最初に犯人は誰です、と明かしてしまう“倒叙モノ”と言われる形式です。『刑事コロンボ』と同じ描き方です。最初に犯人を明かしてしまうからこそ、犯人が古畑に追い詰められていくさまに人間の悲しさなどが見えてくる。
メジャーリーガーだったイチローさんが本人役として犯人を演じたり、松嶋菜々子さんなど豪華なメンバーをそろえていました。その出演者らしさを犯罪のスタイルに取り入れ、いい感じに脚本に組み込んでいました。さすが、三谷幸喜さんというところです」
第3シーズンのあと、スペシャル、ファイナル、『古畑中学生』と単発で放送された。そして、'20年に三谷が新聞紙上の連載で新作を発表。「条件がそろえば、映像版の古畑の新作を書く準備はできている」と田村さんにメッセージを送ったのだが、'21年4月に田村さんは帰らぬ人に──。
彼の死を受け三谷は、「古畑任三郎が事件現場に帰ってくることはもうない」というコメントを発表した。
「寂しいですよね。私の中で刑事ドラマの役者さん、といえば田村正和さんで、古畑任三郎なんです。あのキャラクターに至るまで、田村さんは2枚目で女たらしという路線からコメディーをやったりして、最後に古畑という唯一無二のキャラクターを作り上げたのだと思います。
田村さんのそれまでの歴史が詰め込まれたのが古畑であって、まさに集大成。田村さん以外に古畑を演じる人は存在しませんから、新作ができないというのは残念ですが仕方のないこと」(田幸さん)
『MIU404』がランクイン!
ランキングの中で、田幸さんがいちばん意外だったことが、60代に『MIU404』(TBS系)が支持されたことだという。
「若い刑事のバディの掛け合いや、そのふたりの友情が描かれていてよかった」(東京都・63歳女性)
「出演者それぞれの個性が、演じている役柄とマッチしていたと思う」(高知県・65歳女性)
「星野源と綾野剛という実力派のダブル主演で、安心できた。あと、メロンパン号がかわいくて印象に残っています」(秋田県・60歳女性)
「30代から40代の女性がメインの視聴者層だと思っていたので、60代に人気があるとは……。脚本家の野木亜紀子さんをはじめ、『アンナチュラル』チームが再結集。主演のふたり、伊吹藍を演じた綾野剛さんと、志摩一未を演じた星野源さんの演じる力というのもあると思います。
まさに現実で起こっている社会問題や、後に起こる出来事をまるで“予言”のように取り上げたことも話題になりました。違法ドラッグや外国人の労働問題──。タイムリーな時代性と重なってくる部分も注目されていました」
刑事と言ったら誰!?
作品のランキングとは別に、『刑事ドラマで思い浮かべる俳優は?』のアンケート結果も興味深い結果となった。
「1位の水谷さんはうなずけますね。でも意外なのが、2位の内藤剛志さん。田村正和さんや、織田裕二さんで上位を占めるかと思っていましたが、内藤さんが多くの票を集めましたね」(田幸さん)
内藤が主演している『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)は、作品ランキングでは40代で12位、50代でランク外、60代で10位だった。
「いろいろな刑事ドラマに出ているという印象なのかも。この結果は役者としてうれしいと思いますよ。作品のキャラクターとしてではなく、“刑事”という存在として思い浮かべているというのはすごいことだと思います」(田幸さん)
4位、5位には渡哲也さん、松田優作さんの名前が。
「このおふたりの役者としての実力は、誰もが認めるレベルで、まとっているオーラが半端ないです。見ているだけでワクワクして、引き込まれます」(田幸さん)
どの時代でも視聴者を夢中にさせてきた刑事ドラマ。最後にその魅力を田幸さんはこう語る。
「かつては勧善懲悪のスッキリ感にその魅力があったと思います。悪い人が捕まり、裁かれるという流れ。でも近年だと『MIU404』や『相棒』のように、勧善懲悪だけではない、個人や社会の問題が背景にある、複雑な事情があることを考えさせられる人間ドラマが増えてきました。
刑事ドラマは、いろいろな罪が描かれるからこそ、犯人の背景や人生が描かれた深い人間ドラマの部分が今はいちばんの魅力になっていると思います。これからも、上質な人間ドラマが刑事ものの中に増えてくると思います」
(取材・文/蒔田稔)