腸内環境研究の専門家が5000人以上の腸を調べてわかった真実。それは、腸活で本当に大事なのは「善玉菌」ではなく「善玉酵素」だということ!善玉酵素の働きをよくする「食べ合わせの工夫」を実践すればダイエットや腸活、免疫力アップなど、健康維持に高い効果が。
食の健康効果は「酵素」の働き次第
食事などによって腸内環境を整えて健康を保とうとする「腸活」。手軽に実践できることから、腸にいいとされる発酵食品などをとりあえず食べている、という人も多いのではないだろうか。
ところが、これまでに5000人以上の腸内環境を調べてきた国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所のワクチン・アジュバント研究センターの國澤純さんは「食の健康効果は、食材の種類や量だけで決まるわけではありません。何を食べるかということは『健康への入り口』にすぎないのです」という。
食事の効果は食べたあとに体内で分解・吸収され、その後、どう使われるかという一連のプロセスが大事だ。そして、國澤さんは長年の研究により、そのプロセスでは必ず酵素が重要な働きをしていることに気がついたという。
「食べたものが健康にいいかどうかは、腸内などの酵素の働きによって決まります。酵素の働きがよくなると、腸内環境の改善をはじめ、免疫力アップ、高血圧や高血糖対策、ストレス対策、肥満対策、アレルギー対策など、さまざまな健康効果が期待できます」(國澤さん、以下同)
そこでキーとなるのが「善玉酵素」。腸内細菌に善玉菌と悪玉菌があるように、酵素にも、自分の健康にとって都合のいい働きをする善玉酵素と、都合の悪い働きをする悪玉酵素があるとのこと。
「これまでの腸活では善玉菌が大事だと言われていましたが、それは“健康にいい物質”を作ってくれるからです。そして、“健康にいい物質”を実際に生み出しているのは私たち自身や善玉菌が持っている『善玉酵素』。健康にとって本当に大事なのは善玉酵素なのです」
では、そもそも酵素とはいったい何なのか。
私たちの身体は、食べたものをそのまま生命活動に利用することはできない。体内に吸収できるようバラバラに分解したり、分解したものを組み立てたりする必要がある。そのときに働くのが酵素。酵素には食べたものを分解する「消化酵素」と、身体に必要なものに組み立て直す「代謝酵素」の2種類がある。
例えば、私たちが肉を食べると胃や腸で、複数の消化酵素によって肉に含まれるタンパク質がアミノ酸まで細かく分解され、体内に吸収される。そして、吸収されたアミノ酸はさまざまな種類の代謝酵素の働きによってタンパク質に組み立てられ、それが最終的に私たちの筋肉や髪の毛などの身体の一部になる。
「栄養のあるものをどれだけ食べても、酵素が働かなければ全く意味がありません。酵素が働くことで初めて食べたものが役立つのです」
では、酵素の働きをよくして健康効果を得るためには、どうすればいいのだろうか。
私たちの健康にとって大事なのは、善玉酵素が作ってくれる“健康にいい物質”。ある食材から免疫力をアップさせる物質を作る善玉酵素もあれば、別の食材から太りにくくなる物質を作る善玉酵素もあるのだ。そしてここが重要だが、酵素は何千種類もあり、基本的にそれぞれ別々の物質を作っている。
つまり、こういう健康効果が欲しいからこの物質を作る善玉酵素に働いてもらいたい、だからこの食材を意識して食べるというように、酵素の働きを逆算した食べ方をすることで、健康効果がより得られるのだという。
「酵素が働くにはビタミンやミネラルも必要なので、働いてほしい酵素が必要としているビタミンやミネラルも一緒に食べるのがポイントです」
これまでの腸活は「善玉菌を増やそう」という考え方だった。それも大事だが、健康にとって本当に重要なのは、善玉菌が作る“健康にいい物質”。そして、その物質を実際に生み出しているのは、私たちが持っている「酵素」。この酵素の働きをよくすることこそが、健康のカギといえる。
食べ合わせの工夫で免疫力アップ!
新型コロナウイルスの感染拡大が続く今、酵素を意識した食べ合わせは、免疫力アップにも役立つ。
「体内に侵入しようとするウイルスと最初に戦うのは免疫細胞ですが、その細胞を元気にする酵素の働きをよくするには、アミノ酸の一種であるアルギニンを多く含む鶏肉がおすすめです。その免疫細胞の機能を高めるビタミンDと一緒に食べるとより高い効果が期待できます」
また、ビタミンAも免疫力に重要だという。
「樹状細胞という免疫細胞が腸で働くときに大事なのがビタミンA。その細胞に腸でしっかり働いてもらうためにはビタミンAを豊富に含む食材と、ビタミンAの吸収率を高める食材を一緒に食べるのが有効です」
具体的な食材例は次の【免疫力アップの食べ合わせ】を参照してほしい。さらに、今の時期に気をつけたい残暑バテ対策と、ダイエット対策の食べ合わせとレシピを紹介。食材を選んで食べ方を少し工夫するだけで、より高い効果が期待できる。善玉酵素を意識した食べ合わせで、健康な生活を!
免疫力アップの食べ合わせ
その1. 免疫細胞の働きをよくする!
(アルギニンを含む食材例)鶏肉、豚肉、うなぎ、えび、大豆、にんにく×(ビタミンDを含む食材例)しいたけ、舞茸、きくらげ、鮭、いわし、しらす
その2. 大事な免疫細胞に腸で働いてもらう!
(ビタミンAを含む食材例)にんじん、モロヘイヤ、かぼちゃ、レバー、うなぎ、卵×(ビタミンAの吸収率を高める食材例)食用油、マヨネーズ、ドレッシング
善玉酵素の働きを最大化1
「鮭」×「ブロッコリー」でダイエット!
たまった脂肪を燃焼!
脂肪を減らすためには脂肪を燃焼させる必要があるが、燃焼させるときに重要なのが私たちの身体の細胞内にあるミトコンドリア。ミトコンドリアは、脂肪を酵素の働きによって燃やしてエネルギーを作り出す、いわば火力発電所だ。
「この発電所の数が増えれば、より脂肪を燃焼しやすい身体になります。MCTオイルやココナッツオイルに含まれる中鎖脂肪酸、またオメガ3脂肪酸などに増やす働きがあります。さらに、ブロッコリーなどに含まれるスルフォラファンという成分も、ミトコンドリアを増やすことが知られています」
また、脂肪を燃やすための“燃焼スイッチ”をオンにするのも酵素の仕事だ。
「AMPKという酵素が活性化されると、ミトコンドリアで糖と脂肪が作られるのがストップし、逆に燃焼へ転じます。この酵素の働きをよくするものとしては、えびやかになどの甲殻類や鮭などに多く含まれるアスタキサンチン、また、お茶に含まれるカテキンやショウガエキスに含まれる成分などがあります」
酵素の働きをよくする食べ合わせなら、食べて太りにくい身体につながる。やせたいけれど食事制限はしたくないという人は、ぜひ実践してみては。
肥満対策の食べ合わせ
脂肪を燃やすミトコンドリアを増やす!
(スルフォラファンを含む食材例)ブロッコリー、ブロッコリースプラウト×(アスタキサンチンを含む食材例)鮭、かに、えび、いくら、鯛
おすすめレシピ:バター香る満足おかず!鮭とブロッコリーのホイル焼き
※材料/2人分
●生鮭…2切れ
(鮭の身の赤い色のもとでもあるアスタキサンチンによって善玉酵素の働きが活性化。すると“燃焼スイッチ”が押されて、脂肪や糖が燃やされる)
●玉ねぎ…1/2個
●ブロッコリー…1/3個
(ブロッコリーに含まれるスルフォラファンは脂肪を燃やすミトコンドリアを増やす)
●バター…大さじ1
●白ワイン…大さじ1
●塩、こしょう…各少々
※作り方
1 鮭はキッチンペーパーに挟んで水けをふきとり、塩、こしょうをまぶす。玉ねぎは薄切りに、ブロッコリーは小房に分けてさっとゆでる。
2 アルミ箔を2枚広げ、それぞれに玉ねぎ、鮭、ブロッコリーの順にのせ、白ワインをかけ、バターをのせてアルミ箔を閉じる。
3 フライパンに並べ入れ、水を1カップほど注ぎ、ふたをして中火で10~15分加熱する。
〜Point〜
フライパンの代わりに、オーブントースター(約900~1000W)で約15分焼いてもOK。火を使わず簡単調理!
善玉酵素の働きを最大化2
「豚肉」×「わかめ」で残暑バテ解消!
エネルギーを作るビタミンB1
まだ暑い日が続くが、夏バテ対策にも酵素が役立つという。夏バテの原因のひとつは、屋外と屋内の温度差による自律神経の乱れ。交感神経が活発になりすぎてエネルギー消費が増し、だるさや疲れを感じてしまうのだ。
私たちは、糖やタンパク質、脂質をエネルギーに変えているので、夏バテ対策には栄養バランスのいい食事をとることが大切だが、特に意識してとりたいのはビタミンB1だ。
「食事から摂取した栄養をエネルギーに変えるのに、さまざまな酵素が働いていますが、なかでも重要なのは、ピルビン酸脱水素酵素などです。この酵素はビタミンB1を必要としているのでビタミンB1を意識して食べるのがおすすめ。豚肉やうなぎ、レバー、大豆製品などに多く含まれています」
また、玉ねぎやニラに含まれるアリシンは、ビタミンB1の吸収を約10倍に上げてくれるので、ビタミンB1を含む食材と組み合わせて食べたい。
「さらに、汗をかくとミネラルが不足しがちになりますので、夏バテ対策には海藻などのミネラルが豊富な食材も大切です」
食欲が出なくなりがちなときこそ効率よく食べ合わせて、残暑を乗り切りたい。
残暑バテ対策の食べ合わせ
酵素の働きをよくしてエネルギー増!
(ビタミンB1を含む食材例)豚肉、うなぎ、レバー、玄米、大豆、落花生×(ミネラルを含む食材例)海藻、乳製品、バナナ、いも類
おすすめレシピ:さっぱり味で暑い日でも箸が進む!豚しゃぶわかめサラダ
※材料/2人分
●豚ロース肉しゃぶしゃぶ用…140g
(豚肉に多く含まれているビタミンB1の助けを借りて善玉酵素がエネルギーを作り出す)
●玉ねぎ…1/2個
(玉ねぎの香りのもとであるアリシンでビタミンB1の吸収を約10倍にアップ)
●わかめ(塩蔵)…40g
(わかめは発汗によって失われがちなミネラルが豊富)
●トマト…1個
●レタス…3枚
●A[ポン酢しょうゆ…大さじ4、ごま油…小さじ1]
※作り方
1 玉ねぎは薄切りにして水にさらす。レタスは細切りにする。わかめは水洗いしたあと、3~5分ほど水に浸し、水けをきって食べやすい大きさに切る。トマトはくし形に切る。
2 豚肉はたっぷりの湯に1枚ずつ広げ入れ、火が通ったらザルにあげて水けをきる。
3 ボウルにAを入れて混ぜ、水けをきった玉ねぎとわかめを加えて混ぜ、なじんだらレタスも加えてさっと混ぜて器に盛る。トマトと2の豚肉をのせる。
〜Point〜
豚肉は約80度の湯でゆでると、肉汁が出すぎず、しっとりやわらかな仕上がりに。
教えてくれたのは……國澤純さん ●国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センター センター長。國澤さんの著書『善玉酵素で腸内革命』(主婦と生活社刊)では、酵素の働きを最大化して健康効果を高める新しい食べ方を詳しく紹介している。
〈取材・文/保田真代 レシピ/金丸絵里加〉