氷川きよし 撮影/廣瀬靖士 

 1年2か月ぶりとなる、ポップスアルバム第2弾『You are you』が発売に。
命の尊さ、苦難を乗り越える力、周りにどう思われるかではなく自分がどう生きるか……。楽曲たちに込めた熱い思いと願いとは?

苦悩多きこの時代にどう生きるべきか

「ずっと何十年も演歌を歌ってきた中で、“男の生きざま”をテーマにしたオリジナル曲も多く、自分が歌の主人公の代理となって歌わせてもらってきました。40歳を過ぎたことで、やっぱりキャリア的にも、“本当はこうだよね!”と思うことを、自分のためにもしっかり叫んでいきたい。そんな思いで作ったのが前作『Papillon-ボヘミアン・ラプソディ-』でした」

 昨年6月。氷川きよしが初めてリリースしたポップスアルバム『Papillon-ボヘミアン・ラプソディ-』。ロック、バラード、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)など、多岐にわたる音楽を自由に詰め込んだ1枚は、ビルボードの週間アルバム・セールス・チャートで1位を獲得。

 あれから1年2か月。ポップスアルバム第2弾『You are you』が発売に。

「前作からのストーリー仕立てになっていまして。前作は、さなぎから蝶に変わるというテーマがありました。でも、今回の『You are you』は、すでに蝶となって羽ばたいた自分自身。人生賛歌というか」

 蝶は大空を自由に飛び回り、その命をきらめかせる。

「“私の命の尊さ”と“あなたの命の尊さ”を音楽で表現しています。自分を含め、誰もが充実した人生ドラマを繰り広げてほしい。

 前作は『限界突破×サバイバー』も収録していて、全体としてはパンチが強すぎた感じもありました(笑)。『限界突破×サバイバー』は、もちろん今も愛してもらっていて、それは『ドラゴンボール超』のおかげだと思うんですけど、そこではない世界観で構成しています」

 今作のテーマは「レジリエンス」だという。

「“復活力”という意味なんですが、収録の12曲はどの曲も苦難を乗り越える主人公を描いたもの。苦悩多きこの時代にどう生きるべきか、という答えがこの中にあると思います。

 あまり自画自賛するのもアレなんですけど(笑)、思いきりやらせてもらいました。
何事も、中途半端にやるのは嫌だから。演歌を歌うときには、思いっきり演歌をやって。そして、こっちはこっちで思いっきり!」

2曲を作詞、ハッピーでポジティブに

 表題曲『You are you』は、氷川自身が“kii”の名義で作詞を手がけている。

「詞を書こうと思ったときに、パッとひらめいたのが“あなたはあなた”。『You are you』という曲を出している人はいなかったから。とにかくもう、思ったまま詞を書きつづって。(本名から取った)“清らかな志”なんて遊び心あるフレーズも入れて。最後は清らかに、ナチュラルに生きよう、と結びました。

 “あなたはあなただよ”“あなたの命がいちばん尊いんだからね”と。とにかくハッピーでポジティブな思いをこの曲で届けたくて」

 自らが紡いだ言葉による、新たなるアプローチ。

「やっぱり人に感謝して、人を幸せにしていこうという思いでしか、道は拓けないから。自分自身のことも重ね合わせながら、悩み苦しんでいる人たちに対してのメッセージを書きつづりました」

氷川きよし 撮影/廣瀬靖士 

 多忙な日々の中で、どんなときに、どうやって作詞をしているのかと尋ねると、

「思いついたときに、ケータイで。この間も(愛犬の)ミルクちゃん&ラテちゃんの散歩を夜10時くらいにしていたんですが、五輪期間だったからどの家も灯りがついて、ワーッと盛り上がっていて。“なんで自分はひとりなのかな?”という気持ちになり、それを詞にしました」

 なんだか、少し切ない……。

家族団らんへの憧れは強くて。小さいときは、いつもひとりでご飯を食べていたから。父はタクシー運転手でしたし、母も働いていたときがあったので。ひとりは慣れているんですけど、やっぱり40歳を過ぎると寂しくなりますね。

 だから、ミルクちゃん&ラテちゃんがいることだけでも、ありがたいなと思っていて。もう、可愛くて仕方ない(笑)。

 そしてやっぱりステージに立ち、人前に出て歌って喜ばれたときはすごくうれしい。やっぱりここが居場所なんだな、と思います」

ヤマザキマリなど華麗なる提供者たち

氷川きよし 撮影/廣瀬靖士 

 以前から親交のある木根尚登による作曲は2曲。さらには木根のソロ曲『RESET』とTM NETWORKの名曲をカバーしている。

「『SEVEN DAYS WAR』、これを今、どうしても歌いたかったんです。“誰かと争うのではなく自分を見つけたいだけ”“誰かを憎むのではなく想いを伝えたいだけ”。まさに自分が今、言いたいことだったので」

 さらには、木根とのつながりから、ギタリスト・野村義男も演奏者として名を連ねる。昨秋、布袋寅泰のコラボレーションアルバムに参加した際の『I Don't Wanna Lie』も収録。演歌とはまた違った世界で、アーティストたちとの輪が広がっている。

「『Jeanne d'Arc~聖女の微笑み~』も、ぜひ聴いていただきたい曲です。ジャンヌ・ダルクは若くして命を落とした、フランスの百年戦争の英雄。何より、女性なのに男性として生きざるをえなかった。そんなジャンヌ・ダルクをどうしても歌いたくて」

 そして、『テルマエ・ロマエ』で知られる漫画家・ヤマザキマリも詞を提供。

「ヤマザキマリさんとも仲よくさせてもらっていて。イタリアで生活し、家族を持ち、でも仕事はバリバリしていて、ヒット作もあって。すごい魅力と憧れを感じます。何より、マリさんの考え方や内面がすごく好きで。マリさんに愛の世界を書いてもらいたいな、と思ってお願いしたら、快諾してくれて。『生まれてきたら愛すればいい』、本当に好きな曲です」

 そして、やはり仲よしだという大黒摩季は『Glamorous Butterfly』を提供している。

「普段は“摩季姉”って呼んでいるんですが、摩季さんはすごく男っぽくてカッコいい。
作詞のお願いをしたら“じゃあ、一緒に書こうよ”と言ってくれて。電話で自分の考えや思いなんかを伝えて。それを摩季さんが受け止め、詞にしてくれました。今回のアルバムの中でいちばんカッコいいロックナンバーだと思います。きっと“強く生きよう!”って思ってもらえるはず。

 あまりにも1曲1曲、愛が深すぎて、語り尽くせないですね。本当にいいアルバムになりました」

迎える44歳、若い子たちに伝えたい

 9月6日。もうすぐ誕生日を迎える。

「ねーーー! もう44歳ですよ(笑)」

 10代のころは、自分が40代になるなんて想像がつかなかったと思い返す。

「それこそ、生きているのかすら不透明じゃないですか。未来のことですから。でも、こうやって生きさせてもらっている。やっぱり使命があるんだな、と思っています」

 10代を振り返り、特に中学入学の際に、髪の毛を丸刈りにしなくてはいけなかったことが、とても嫌だったと顔をしかめる。

氷川きよし 撮影/廣瀬靖士 

「そういう校則だったんですよ。本当につらかった。そのとき、自分自身が影響力を持つようにならなきゃダメだと思いました。大人が必ずしも正しいとは限らないし、変えたほうがいいルールもある。

 10代のころは友達も少なかったけど、でもその中で手を差し伸べてくれたり、歌をすすめてくれた人がいて。道が拓かれ、今に至っていると思います。

 髪を伸ばすこともそうですけど、心と身体のバランスを合わせて生きられていることは、とても心地がいい。周りにどう思われるかじゃなくて、自分がどう生きるか。そうじゃないと人生がもったいないから

 今がとても楽しい。そう語る氷川は、とてもいい顔をしている。

「もちろん、悩みはありますよ。30代のころは、家庭も子どもも仕事も手に入れた友人に憧れたりもしました。手に入れられないものはあるけど、手に入れるという目標は持てる。

 やっぱり子どもは好きだし、自分が10代のころに抱えていたような孤独感や悩みを、後世を生きる子たちに抱えてほしくない。命の尊さをしっかり教えていきたい。それを音楽で伝えていくのが、自分の使命だと確信しています。

 それに関しては、もう自信と勇気しかない。迷いがまったくないから、もう怖いものはないのかもしれないですね(笑)」

1年越しのポップスコンサート

 昨夏、『Papillon-ボヘミアン・ラプソディ-』リリース直後に予定していたポップスコンサートは、コロナ禍で中止に。今回、『You are you』の楽曲を加え、満を持してのポップスコンサート『氷川きよし「You are you」Release Tour 2021』の開催が決定。

「去年開催できなかったフラストレーションがたまりにたまってるので、爆発しちゃうかも(笑)。曲に合わせた世界観をお届けしたいです。“もう、そこまではいいですから!”と言われるくらい、とことんやりきりたい。衣装も、すごいの着ちゃおうかなと思ってて(笑)。身体も、もう少し絞るつもりです。楽しみにしていてください!」

氷川きよし「You are you」Release Tour 2021

【東京】9月10日、11日=LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
【大阪】10月5日=フェスティバルホール
【名古屋】10月14日=日本特殊陶業市民会館 フォレストホール

スタイリング/伊藤典子(hoop) 
ヘアメイク/遠山雄也(RELAXX) 衣装協力/ガラアーベント