不動産会社の選び方次第で3000万円も差が生まれることも

「強引に勧誘され、安価で自宅を売却する契約をしてしまった」「解約には高額な違約金が発生すると言われた」

 消費生活センターによるとこういった自宅売却にまつわる相談が近年増加傾向にあるという。2020年に寄せられた事例の52%超は70代以上の高齢者からの相談だ。

 ある80代女性は、不動産業者から「マンションを2500万円で売ってほしい」という電話営業を受けた。「3000万円以下では売るつもりはない」と断ったが、後日、自宅に押しかけてきた営業員が「住み替えの物件を紹介するから心配はいらない」などと勝手に話を進め、書面に署名押印するよう言われた。

 内容を理解できないまま応じ、その場で手付金450万円を受け取ってしまったが、翌日思い直し、契約をキャンセルしたいと電話したところ、「キャンセルするなら約900万円を支払ってほしい」と言われて愕然としたという。

 このように、迷惑な勧誘や長時間の勧誘によって消費者が望まない契約をしてしまうトラブルは多い。押し売りされた場合と異なり、消費者が売り手になる場合は宅地建物取引業法に定めるクーリングオフは基本的にできない場合が多く、契約解消に高額な違約金が発生することも。

会社次第で「3000万円」の差も

 また、売却した物件にそのまま住み続けることができるという「リースバック契約」にまつわる相談も多い。

 ある60代の男性は、不動産業者の来訪で「住んでいるマンションに建て替えの予定があり、このまま住み続けていると高額の費用がかかる」と真偽不明の説明を受けた。

「今なら500万円でマンションを売却でき、その後も同じ場所を賃借して住み続けられる。建て替えにかかる諸費用を負担せずにすむので得だ」と言われて、そのまま売却契約をしてしまった。ただ、建て替えが本当にあるのかも不明で、さらに数年たてば払った賃料の総額が売却金額を上回ってしまうことに気づき、契約したことを後悔しているという。

 特に高齢者の場合、次に住む場所が探せなかったり、解約の際に違約金を支払うことで生活資金が少なくなったりするなど、今後の生活に大きな支障が生じる可能性も。安易な契約はしないよう消費生活センターも注意喚起を進めているところだ。

 とはいえ、コロナ禍の社会不安のなか、親の住まいや自分がシニア期に暮らす場所について悩む人も多いだろう。総合不動産会社ミライアスの山本健司さんによると、同社に寄せられた不動産の相続に関する相談は、昨年比で3倍ほどにもなっているという。

相続した一軒家を安価で売却させられるケースが

「相続した物件があるものの、もっと手入れのしやすいコンパクトな家に住み替えたいという高齢の方や、今後相続が発生したときのために住宅まわりのことをきちんと整理しておきたいという方からのご相談も増えています。また、親が認知症になりはじめてしまい、慌てて今後の対策を始めた方も多いです」(山本さん、以下同)

 先述した詐欺まがいの強引な契約以外にも、売却を仲介してもらう不動産業者とのミスマッチによって「大損」をするケースも考えられる。

「不要に契約を急がせる不動産業者は残念ながら今でも存在します。不動産業者から“今なら1億円で買い取れる”と言われたという物件売却の相談を受けたことがあります。物件の弱点になっていた近隣トラブルなどをきちんと解消し、売り出し条件をしっかり整えてから改めて売却先を探したところ、1億3000万円で売却できた事例となりました」

 このように、不動産会社の選び方次第で3000万円の差が生まれることも。

 マイホーム売却で損をしないポイントと段取りを山本さんに詳しく教えてもらった。

「不動産売却で最も重要なのは、頼りになる不動産会社を選べるかどうか。名前の知られた大手なら絶対に安心というわけではなく、地元で厚い信頼を得ている中堅の業者や、高い志や発想力で勢いのある中小の業者など、不動産会社といってもいろいろなバリエーションがあります」

 不動産会社を選ぶうえで特に気をつけたいのが「両手仲介」に対する考え方だという。

自宅売却トラブルが急増。自分が売り主の場合クーリングオフができないので、安易な契約は慎重に

「ひとつの物件の売買取引で、1社の不動産会社が売り主と買い主の双方を仲介することを両手仲介といいます。これに対して、売り主と買い主のそれぞれに別の不動産会社が入って仲介を行うことは、片手仲介と呼ばれています」

 両手仲介ができれば、不動産会社は売り主と買い主の双方から仲介手数料を貰うことができる。そのため、積極的に両手仲介を狙っていく不動産会社は多い。

 なかには両手仲介に固執するあまり、ほかの不動産会社に対して売り物件の情報を故意に隠したり、他社からの購入希望を握りつぶしたりといった「囲い込み」が起きてしまうことも。どちらも広く買い手を探したい売り主にとっては背信行為だ。

いい不動産業者の見極め方

「できるだけ高く売りたい売り主と、できるだけ安く買いたい買い主という、利益が相反する二者を一度に抱えることは、初めから無理がありますよね。ときには買い主の希望を優先して、売り主に物件の値下げを“助言”するようなことも考えられます。

 片手仲介であれば売り主の利益だけのために忠実に動いてくれるので、片手仲介に応じてくれるか確認することは、信頼できる不動産会社かの判断材料になります

 多くの人は、住所や築年数などの情報で価格をざっくりと査定する「簡易査定」を頼む段階で初めて不動産会社と接触することになる。近年ではインターネット上で物件の情報を打ち込むだけで、複数の不動産会社による一括簡易査定を行えるサービスもよく利用されているが……。

「不動産会社が無料の簡易査定を行うのは、そのまま自分の会社と売却のための媒介契約をしてもらいたいため。一括査定をしたあと、複数の会社からのしつこいセールス攻勢に悩まされるというケースも後を絶ちません。よくわからない一括査定よりは、大手、中堅、中小といった毛色の違ういくつかの会社を自分で選び、それぞれで簡易査定をすることをおすすめします

 よく「この物件を買いたいお客様がいます!」といったチラシがポスティングされていることもある。こういった定型の謳い文句を使ってくる業者にも注意が必要だ。

「媒介契約をとるための“撒き餌”であることが多く、本当に買いたい人がいたとしてもその不動産会社で有利な売却ができるかは別問題です。簡易査定のあとにも“実はもう購入希望のお客さんがいますよ”とささやかれて、媒介契約を急かされることもあるかと思いますが、あまり真に受けないほうがいいでしょうね」

 簡易査定をすませたら、さらに2~3社に絞って、訪問査定を依頼することになる。実際に物件を見てより詳細な査定額を出してもらう流れだが、初めて営業担当者と対面する機会にもなる。この担当者との相性もとても重要だ。

いい不動産業者というのは、“会社と担当者の掛け算”で決まってきます。その会社が両手仲介をせず、顧客目線の対応をしてくれる会社なのかはもちろん大切ですが、対応してくれる担当者が自分と同じ方向を見てくれているかも大事です。どちらかひとつでもマイナスがあれば、結果として損をするような売却になってしまいがちです」

 信頼できそうな不動産会社でも、担当者の経験が不足していたり、有能なあまり顧客を抱えすぎて対応がおざなりになるケースもある。

売り方のプランニングで、なるほどと思えるような提案があったり、気をつけるべきところを丁寧に説明してくれたりと、親身に対応してくれるのがいい担当者。売却完了まで長く付き合うことになるので、相性が合わないと感じるならば、担当者を変えてもらうことも検討しましょう」

 訪問査定が終わると、いよいよ不動産会社と媒介契約を交わすことになる。

「大きく分けると、複数の会社に売却活動を依頼できる“一般媒介契約”と専属の1社のみに依頼する“専任媒介契約”があります。専任媒介契約は、販売活動の進み具合を定期的に売り主に報告する義務があり、細やかにコミュニケーションをとれる環境も整うため、後者の契約のほうが売り主にとってはメリットが大きいと思います

 とはいえ、1社だけの専任契約では、物件情報を拡散して買い手を探すのに限界があるのではないだろうか。

「ほぼすべての不動産会社が利用する業者専用のレインズというデータベースがあり、専任媒介契約はそのレインズに物件情報を登録する義務が生じます。登録情報をもとに別の不動産会社も広く買い手を探せるようになっているので、物件情報の囲い込みを防ぐためにも、契約後はレインズへの登録証明書を必ず確認させてもらいましょう

所有物件の相場を知る重要性

 媒介契約後は、必要に応じて測量や土地境界の確定、確定測量図をつくるなど、売り出しまでに担当者との細かい打ち合わせが生じる。

「土地境界の確定には隣接する土地所有者全員の承諾が必要で、その交渉を遅滞なく進めることが重要になってきます。また、例えば敷地内に防火水槽などがある場合、それが買い手にとっての懸念点にならないよう、まず取り出してから売り出しましょうといった物件の弱みを解消できる戦略を提案できるかどうかも、担当者の力の見せどころです。これらの内容をもとに売り出し価格を決めますが、中古物件には価格の交渉もつきもの。ある程度の値引き価格も想定したうえで、納得のいく金額を相談しましょう」

 売り出し価格が決まれば、販売活動がスタート。内覧の申し込みもあるため、物件の掃除なども欠かせない。

売却時の査定は2段階。まずは立地や築年数などの情報で大まかな簡易査定をしてから、実際に物件を見て詳細査定を行う

「内覧は、とにかく第一印象が重要。室内の照明は全部屋つけておき、明るいイメージを演出するだけで印象はガラリと変わります。特に見学者様が気にされる水回りをきれいにしておくと好印象です。引っ越しの準備も兼ねて、家財道具の整理や掃除を進めておくことは大切ですね」

 購入希望者が現れたら、契約条件を調整し契約の準備に入る。必要な書面の確認や手続きなど、煩雑な作業も多いため、ここでも担当者のサポートが不可欠だ。

「売却は、価格・期日・諸条件の3つをしっかりと納得したうえで決断する必要があります。価格はもちろん、引き渡し期日が買い手・売り手の双方で折り合うか、エアコンなどの設備を残してほしいといった細かな諸条件を受けるかどうかなども、売買成立に直接関わってきます」

 こうして流れを追ってみると、やはり最初の不動産業者選びが命運を分けるといっても過言ではない。これまで数々の売り主と対峙してきた山本さんに、最後にお得にマイホームを売り抜ける人の特徴について教えてもらった。

「自分の物件の相場を知っておくことは重要です。基本的な知識を身につけている賢い売り主さんには、ウソやごまかしは通じないので、“プロとして満足してもらえるように頑張ろう”と担当者も奮い立つものです。また、全体のスケジュールに余裕を持って売却を考えているかどうかも大切。売却を焦って足元を見られないように、計画的に進めることが重要です」

 ライフプランを考えるうえで重要なマイホーム。余裕を持った計画こそが、何より損をしないコツとなる。

流れを知っていればダマされない
マイホーム売却成功のダンドリ


1.不動産の売却を考え始める
いつごろ売りたいのか、費用や転居先はどうするかも考えておく。

2.不動産の相場を調べる
不動産売却のポータルサイトで似た物件の売り出し価格や成約価格を確認。

3.不動産会社に査定を依頼
3~5社に簡易査定を依頼して結果を比較。査定は無料が多い。そこからさらに2~3社に絞って、実際に物件を見せる訪問査定を依頼。

4.不動産会社を決定
不動産会社を決め、タイムスケジュールを含めて販売計画を立てる。測量、境界の確定等、図面や書類がない場合は作成する。売り出し価格を決め物件情報をレインズに登録し買い手を募集。

5.購入希望者と売買条件の交渉
内覧に対応。買い手が物件を気に入った場合は、後日、購入申込書が提出される。詳細な物件情報を購入希望者に開示し価格や諸条件について話し合う。契約日と物件の引き渡し予定も相談。

6.売買契約の成立
買い手が決定したら売買契約を結ぶ。売却代金のうちから手付金が支払われる。

7.決済の準備をする
決済とは売買契約を完結すること。必要書類等は早めに準備を。物件の明け渡しと引っ越し準備を並行して進める忙しい時期。

8.決済日の各種手続きを行う
鍵と所有権を買い手に引き渡し、所有権が移転。売却代金の残金を受け取り、ローンが残っていたら一括返済。不動産会社に仲介手数料を支払う。不動産売却による譲渡所得は確定申告が必要。物件取得時と譲渡時の契約書や領収書が必要となるので、きちんと保管を。

おすすめサイト

レインズ・マーケット・インフォメーション
www.contract.reins.or.jp/
国交大臣指定の不動産流通機構が運営する、一般向けの不動産情報サイト。各地のマンションや戸建て住宅の物件情報や、直近1年の成約価格が閲覧できる。まずは自宅に近い物件の成約価格を確認

土地総合情報システム
www.land.mlit.go.jp/webland/
国土交通省によるサイト。土地、土地と建物、中古マンションの取引情報が、地域や物件情報をもとに検索できる


■お話を伺ったのはーー
山本健司さん ミライアス株式会社代表取締役。業界最大手2社でNo.1の営業実績を経て、独立しミライアス(株)を創業。顧客の利益を最優先する「スマート仲介」を打ち出し、不動産業界に新風を吹き込む。

(取材・文/吉信 武)

実践的なアドバイスが満載の山本さんの著書『初めてでも損をしない不動産売却のヒケツ』(サンルクス刊)も大好評 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします