新型コロナ感染が拡大する中、東京都に緊急事態宣言が発令されている。しかし、新宿・歌舞伎町の映画館「TOHOシネマズ」の横の通り、通称、トー横には、夏休みということもあり、若者たちが集まる。SNSでは「#トー横」などでつながった若者同士の関係ができる。
しかし、自殺や事件が報道されたことで、イメージが悪化、「トー横界隈と思われたくない」との呟きもある。
ホームレス男性への暴行容疑で少年を逮捕
最近では、警視庁が8月23日、傷害容疑で広島市の少年(15)を書類送検した。調べでは、6月、少年らはトー横で路上飲みをし、ホームレスの60代男性に暴行し、ケガをさせた疑い。近くの防犯カメラに犯行が映っていた。少年は「酔っ払って覚えていないが、僕がやった」と供述している。
ツイッターで拡散された動画では、赤く髪を染めた少年が男性の頭を何度も足蹴りしている様子が映し出されていた。動画には「なに10代とケンカしちゃってるの?」という男性の声や、「○◯(名前を呼ぶ声)、やりすぎ。防犯カメラあるからね」と止める女性の声が入っていた。
その動画に対して、「ホームレスになら何をしてもいいと思っているの?」などの反応があった。
「彼はトー横界隈では“R”と名乗っていてRくんと呼ばれ人気がありました。暴行のあった6月から逮捕まで2か月間ありましたが“捕まらないよ”などとイキっていました」(関係者)
夏休み前からは犯罪抑止のため、警察官や青少年センターの職員が平日を含めて、“トー横”の若者たちに声をかけ、帰宅を促している。筆者も取材をすると、「私服警察官ですか?」と聞かれるほどだ。
一方、「トー横に行きたい」との呟きもあり、今なお、悩みがある若者の居場所でもある。
大学生のコトリ(仮名・18)はここに来るのは2度目だ。
「きっかけは、友達に、“退屈だからトー横に行こう”と誘われたんです。当時、高校3年生だったんですが、受験や進路のことで悩んでいたんです。『もう、どうなってもいいかな?』と自暴自棄だったんです」
しかし、しばらくトー横に来ていない。それは、彼氏に『行くな』と言われているからだ。この夜、来たのは偶然で、その彼氏と待ち合わせだったためだ。
「なんでも許してくれる。だから来てしまう」
待ち合わせに現れた彼氏はミヤ(仮名・23)。ツイッターで知り合った女性に誘われたことがきっかけでトー横に来るようになったが、最近は3か月に1度のペースだという。
「もうその女性もここには来ていないですね。ここは人がどんどん入れ替わります。僕は、ここでの知り合いを“友達”だとは思ってないです。ここでしか会わないし。何しに来るのか?って。それはお酒や会話を楽しむため。あとは(女性の)身体目的。やっているときは楽しい」
だが、ほかの人にはトー横に来るのをすすめないという。
「楽しいけれど、闇に飲まれるのは気をつけています。働いていない人もいて、“別に働かなくてもいいんじゃない?”と思ってしまい、仕事を疎かにしそうになります。ここはやばい。常識がないんです。その反面、なんでも許してくれる。だから来てしまう」
ミヤは、逮捕されたことがあると話してくれた。
「知り合った子と付き合って、性行為していたんですが、その子が17歳だったんです。年齢は知っていましたよ。普通、付き合っていれば、(都青少年健全育成条例違反の)淫行ではないと思うでしょ。警察に、出会って、どのくらいで性行為したのか聞かれました。罰金も取られました。ほんと、身体目的の男もいるんで、彼女には『トー横には行くな』と言っています」
パパ活の斡旋、病んでいくキッズ
5月に、未成年者誘拐の疑いで逮捕された男(20)は、中学2年の女子(13)と性行為もしていた。出会いの場であれば、性行為の機会も多い。この男は再逮捕され、勾留中だ。
「証拠があって立件できる分しか逮捕できていないが、実際はもっとたくさんの子どもを手籠めにしているはずで、余罪を調べています」(警察関係者)
児童買春に絡んだ話もある。近くのホテルに宿泊することも珍しくはない。どうやってホテル代を捻出しているのか。
「家にいることが精神的に苦しくて来ている」と話す女子高生のヨシ(仮名・15)は、「バイトで貯めた費用で泊まっている人もいるとは思うけど。ほとんどの子は、パパ活じゃないかな?」と話す。行き場がなくなった中高生が成人相手に援助交際をしている、ということだ。
「相手はツイッターで見つけているんです。ただ、探すのは女の子ではなく、男子です」
援助交際デリバリー、いわゆる援デリと同じ方法だ。つまり、“客”を探すのは男子で、その“客”と売買春をするのは女の子。男子は、女の子の報酬の中から一部を得る。同じ話は、家出中の、女子高生、ミカ(仮名・15)からも聞いた。
「トー横で知り合った子が、パパ活をさせられていました。誰にさせられているのかは具体的には聞いていないんですが、トー横にいつもいる男です」
NPO法人若者メタルサポート協会の相談員、竹田淳子さんは「誰とつながったのかが大事。基本的につながるのは、心の傷を持った子同士。ただ、そこに声をかけてきた大人たちに搾取されたりします。ちゃんとした大人につながればいいのですが」と話す。
'20年の小中高生の自殺者は過去最多
ただ、トー横は、家庭内で虐待されたり、学校でいじめを受けている若者たちの居場所のひとつだ。子どもたちにも、苦しいときはSOSを出すようなことが言われているが、そう簡単な話ではない。
「学校にも児童相談所にも警察にも相談したことがありますが、話を聞くだけで、何もしてくれませんでした」(前出のヨシ)
そうした事情を警察に相談をした中高生がおり、児童相談所に保護された子もいる。
SNSで「#トー横」で検索すると、精神的に不安定なユーザーがつながりたいため、「#病み垢」「#裏垢」などと一緒に呟かれている。「死にたい」や「消えたい」と呟いたり、リストカットや過量服薬(オーバードーズ、OD)する若者たちとつながる。アップされた画像にはリストカットし、血を流しているものもある。
パパ活をさせられていた女の子の中で、自殺した可能性が高い女子高生がいる。その友人、アキ(仮名・15)は「助けられなかったことが後悔。仲がよかった子たちと何人かで後追いも考えました」と振り返る。
10代の自殺は、夏休み明けが多い。'15年版「自殺対策白書」では、'13年までの42年間の、18歳以下の自殺者を日付別にまとめた。最多は131人で、9月1日だ。しかし、トー横に集まる若者たちは、夏休み中も常にリスクがある。日常を生きることも困難なのだ。
警察庁によると、'21年7月までの全年齢の自殺者数は前年比で257人、14・7ポイント減少し、1万2452人となった。ただし、若年層の自殺は増えた。'20年に小中高生の自殺者は479人。職業別統計を取り始めて以降、過去最多だった。7月までで比較すると、中学生の場合、'20年は65人だが今年は75人で1割増。高校生の場合、'20年は131人。今年は188人、4割弱増で、右肩上がりだ。
'17年10月に発覚した男女9人が殺害された座間事件は、ツイッターに「死にたい」「自殺募集」などとつぶやいた女性が狙われた。事態を重く見た厚生労働省はLINE相談を開始するなど対策を練るものの、若年層の自殺者は増える一方だ。
トー横にいる若者たちは、それだけでSOSのメッセージを体現している。