「僕が演じる土門は、わりとシンプルなキャラクター。役柄によっては、正義感の塊だけれども何かあるという二重構造にする方法もありますが、彼に関しては言っていることがすべて本当でウソはない。強くて、みんなと協力して仕事ができる。一筆書きできるような、理想の男として演じています」
'99年の放送から20年以上にわたり愛され続けているドラマ『科捜研の女』。科学を駆使して難事件を解決する警察組織のスペシャリスト集団である科捜研(科学捜査研究所)の法医研究員・榊マリコ(沢口靖子)とバディを組む捜査一課の刑事・土門薫を演じているのが内藤剛志。
シーズン5となる『新・科捜研の女』から土門として出演を続けている。
「モデルになる存在はいません。15年かけてスタッフや僕たち俳優で作り上げてきたものです。例えば、ドラマを愛してくださる方にとって、土門といえばこの臙脂色の無地のネクタイのイメージが強いと思いますが、ブルーを締めてみたりと試行錯誤していくなかでたどりつきました」
ディテールひとつからも、長く愛されている作品であることを実感させられる。共演者であり、主人公のマリコを演じる沢口について聞くと、
「やっちゃん(沢口靖子)は、マリコみたいな人。僕もそうですけど、自分の中にあるものを拡大解釈して演じているところがあると思う。そうじゃないと、長く続く作品を演じ続けるのは難しいです。
マリコの魅力といえば、矛盾じゃないでしょうか。科捜研の法医担当である彼女は、クールに科学による結論を出せばいいだけなのに、誰よりも容疑者や被害者、その家族たちに心を遣う。そういった、一見、矛盾している主人公というのを、誰もやっていなかった。そこじゃないですかね」
経験がないことで純粋にワクワクした
現行の連続ドラマとしては最長作品となる累計254話という実績を持つ『科捜研の女』。これまでなかったことが驚きの“劇場版”がついに公開される。内藤自身、映画化と聞いたときにどんな印象を持ったか聞くと、
「誰からどう聞いたか記憶が定かではないですが、すごくうれしかった。長く作品を続けていると、変化というものがうれしいし、“面白そうじゃん”と思うわけです。純粋に、経験したことがないことなのでワクワクしました」
シリーズ史上、最難関の“世界同時多発不審死事件”が起こる今作。映像、音楽とすべてがスケールアップしている。
「お金を払って劇場に来ていただくのだから、テレビとは違うものじゃないと失礼だよねというのは、やっちゃん(沢口)とも話しました。スタッフを含め、みんな同じように覚悟をしていたと思います。
土門も、テレビよりワイルドになっています。テレビではこれ以上表現してしまうと心がザワザワしすぎてしまう、と控える部分がどうしてもある。しかし、大きなスクリーンで映し出される映画なら許してもらえるかもしれないと思いまして。今回の作品は理屈と理論の戦いですが、土門は感情で激しく戦います」
ファンが期待するあのシーンが!!
共演者たちと試写室でできあがった作品を見たときに「面白い!!」という声が次々に上がった。
「自画自賛で気持ち悪いかもしれないですね(笑)。でも、すごく面白かった。撮影から時間がたっていたので客観的に見ている部分もありましたが、よかった。毎年、1回くらい映画を撮ってもいいんじゃないかと思うくらい撮影も楽しかったんです」
作品のファンの中には土門とマリコの“相棒以上、恋人未満”の関係にドキドキしている人が多いはず。今作にも、そんなことを感じてしまうシーンが。
「そうですよね(笑)。マリコの元夫にはじめて会う場面もあります。ただ、やっちゃん(沢口)と決めていることが2つあるんです。土門がマリコを“おまえ”と呼びますよね。その“おまえ”という言葉から、なにか男女の特別な関係性を感じてしまうようになったら、呼び方を変えようと思っています。それは、見ているみなさんというより、演じている僕らが感じたらということですが」
三角関係以上の四角関係になる!?
マリコのことを唯一、“おまえ”と呼ぶ土門。ということは、特別な関係になることが?
「もうひとつ決めたことがある。ドラマで土門が、かつて関係のあった女性が残したものを見て涙を流す回がある。
その土門を見ているマリコがどんな感情なのかやっちゃん(沢口)に聞いたら、“えっ!? 兄妹でしょ”とポンと言われました。“私はそのつもりで演じているわよ”と。そうかと思いました。
みなさんが、いろいろと想像して楽しんでくださるのは、作品の醍醐味でもある。土門とマリコを“ドモマリ”と呼んでくださっているようですが、いつか、ふたりのような関係を指す言葉として“ドモマリ”が使われるようになるといいなと思います」
実は、若村麻由美が演じる解剖医の風丘先生と土門とマリコの三角関係はどうかと、プロデューサーから尋ねられたことがあると告白してくれた内藤。
「結局、三角関係はなかった。今度は、そこに(科捜研の宇佐見を演じる)風間トオルさんが入って四角関係もいいかもしれないですね(笑)。そんなふうに想像していただけることがエンターテインメントだと思うんです。現実の男女の最終地点が恋愛であるとしたら、現実にはないことをやるのがエンタメ。だからこそ、理想や夢を語りたいじゃないですか」
撮影中に起こった事件はある?
事件ではないのですが、劇中で微生物学の教授・加賀野(佐々木蔵之介)がいる研究室が出てくるんです。そこが、舞台みたいに少し高さがあるセットで。芝居でその階段を何度も上り下りしないといけなかったのが年齢もあってしんどかった(笑)。今度、階段の上り下りがあるときは、「別ギャラで」って監督に言っておきます!!(笑)。
50年以上俳優を続けて思うこと
若い俳優さんから「刑事らしく演じるコツはありますか?」と聞かれたときに、「コツはない。演じる人間が魅力的に見えるべきで、それがたまたま刑事だった、でいいんじゃない」と答えるんです。66歳のいまになっても“演技とは何だろう?”“俳優とはなんぞや”と思うわけです。
土門という男を魅力的に見せること、あるいはストーリーを運ぶことが仕事ですよね。そのために刑事らしくするとか、役の履歴書を書いてみるとか、実際の刑事さんに会って勉強するとか、いろいろ方法がある。否定するわけではないのですが、そういうことが本当に俳優の仕事なのだろうかと考える。そして、よくわからないというのが結論です(笑)。
映画『科捜研の女 -劇場版-』
9月3日公開
配給:東映 (C) 2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会