日本人の死因ナンバーワン、がん。検査を病院で行えば苦痛や不快感をともなう場合もあるしコロナ感染が気になって検診控えをした結果、発見が遅れることも。自宅やクリニックで行える線虫での尿検査をはじめとした最新がんリスク検査で、自分と家族の健康を守ろう。
痛くない、自宅でもがん罹患が知れるリスク検査
ここ数年で急激に進化したがんリスク検査。少量の唾液や尿を採取するだけ、しかも自宅で手軽にできるものも登場し、話題を呼んでいる。
「がんリスク検査とは、現在のがんリスクを知るためのスクリーニング(ふるい分け)検査のこと。今現在、病気にかかっているリスクのある人を発見、精密検査に進むべきか判断をする検査です」
と、教えてくれたのは唾液によるスクリーニング検査の開発者で大泉中央クリニック院長、砂村眞琴先生。
「健康診断で行う検査もスクリーニング検査の1つではありますが、近年、その前段階のがんリスク検査が充実してきました。唾液、尿といった人間の体液を使った“リキッドバイオプシー”が進化しています」(砂村先生、以下同)
リキットバイオプシーの主なしくみは、唾液や血液に流れ出す、がん特有の代謝物質を検知し、数値化するもの。最近始まった尿による検査は、線虫という生物が“がん特有の物質のニオイをかぎ分ける”嗅覚を利用している。
痛くない、自宅やクリニックで手軽にできると評判で、検査を受ける人が増えている。
「がん検査というと、内視鏡やCTなど大がかりで痛みを伴うと敬遠する人が多いですが、こういった手軽ながんリスク検査を受けておけば、その先の検査を受けるかどうか判断をすることができる。がんリスク検査自体は、がんの診断を行うものではなく、あくまでも、がんのリスクを見つける検査です」
遺伝子検査との違いは?
「“将来”がんにかかるリスクがわかるのが遺伝子検査です。一方、がんリスク検査は、“現在”がんに罹患しているリスクがわかります。将来のリスクを知るより今を知ることが重要。米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査で乳がんリスクが見つかり、切除しましたが、それは早まった判断だったかもしれません。がんリスク検査を続けて、疑いが出てからでも遅くはなかったかもしれません」
がん死亡数の順位
がん罹患数は女性が乳がん、男性は前立腺がんが1位(2018年)であるが、死亡数は異なる。死につながるがんこそ、リスク検査で早めの発見を!
女性
1位 大腸
2位 肺
3位 膵臓
男性
1位 肺
2位 大腸
3位 胃
ステージ0やがん一歩手前も検知
日本のがん検診受診率は諸外国に比べて低い値だ。
「手軽ながんリスク検査がもっと普及し、早期発見につなげたいですね」
現在、日本人の死因の1位はがんだ。
「乳がんや子宮がん検診を受ける女性は比較的多いですが、死亡数が高いがんは、大腸がんや肺がんなのです」
早期発見なら助かるがんも、進行してからでは治療の道がなくなる。特に膵臓がんは発見しにくく、発見時には余命が短いケースが多い。
「検査の種類によりますが、ステージ0のがんはもちろん、がん細胞になる一歩手前の段階でも結果にあらわれます。当クリニックでは、私が開発した唾液によるリスク検査を行っており、がん細胞の前段階も発見されています。ある60代の女性の方はリスク検査の数値が高く、内視鏡検査を行ったところ、大腸がんになる一歩手前の細胞がポリープとして見つかりました」
この女性は、ポリープを切除しただけで事なきを得た。また、夫婦で受検した60代は、夫に大腸がんとすい臓がんのリスクが見つかった。
「その後、CTと内視鏡検査を行い、大腸がんの進行がんが見つかりましたが、切除手術により抗がん剤治療も行わず完治しました」
さらに進行していたら、命が危なかったという。
「40代からがんリスクが高まるため1年に1度の検査、遺伝的リスクが高い人は3か月~半年ごとの検査をすべき」
がんリスク検査は保険適用がないため、費用は1万円台前半~と高めだが、進行がんが見つかったときの治療費を考えると決して高くはない。
「リスク検査はがんだけでなく生活習慣病や認知症の分野でも進んでいます」
将来、リスク検査で早期発見が進めば、老衰が死因の1位になるかもしれない。運動、食事、睡眠などの生活習慣改善とともに、リスク検査を行うことが健康寿命をのばすカギになりそうだ。
尿でわかる! サステナブルな線虫をつかった最新検査N-NOSE(R)
尿1滴でがんリスクがわかるN-NOSE(エヌノーズ)(R)は、昨年1月から実用化がスタート。線虫というわずか1ミリにも満たない生物を利用した検査だ。
「線虫は犬に匹敵する嗅覚を持ち、微量なニオイ物質を検知することができます。さらに、がんによる代謝物のニオイを好む傾向があります。線虫を入れたシャーレに一定の割合で薄めた尿をたらすと、がん患者の方の尿には寄っていきますが、健康な方の尿からは遠ざかります」(広報担当者、以下同)
線虫は雌雄同体で同じ遺伝子を持つクローンのような存在が作れる。そのため、個体差がなく同じ嗅覚能力を持った線虫を使うことができる。
「研究段階ではひとつひとつ手作業で行っていましたが、現在は機械を導入。同じ検体で繰り返し検査を行い、結果は独自のアルゴリズムで導きます」
検査の方法は、WEBサイトから検査キットを申し込み、尿を採取して、専用の集配を頼むか、全国10か所にあるN-NOSE(R)ステーションに持ち込む。がん種までは特定できないが、他のがんリスク検査に比べ、高精度かつ安価なため、まず初めに受ける“がんの一次スクリーニング検査”に適している。
唾液でわかる!胃がんも発見できる!
ごく少量の唾液からがんリスクを測定。がん種ごとにリスクがわかる。年内には胃がんのリスク測定も可能になり、これにより肝がん以外、日本人の死亡数が高いがんをカバーできることに。
「サリバチェッカーのしくみは、唾液に含まれるがん細胞からしみ出す代謝物を、最新の測定装置を使って測定し、AIで解析を行います。がん細胞が増殖するときに出すポリアミンなどの代謝物が血中にまわり唾液に分泌。唾液中の代謝物質濃度を測定・解析することでがんリスクを算出します」
と、サリバチェッカー開発者(以下同)。
利用方法はサリバチェッカーのWEBサイトか医療機関で申し込み、自宅か医療機関で唾液を採取して冷凍してクール便で送る。指定の医療機関にデータが届き、医師の説明を聞く。
「医師による説明があるため、その後どうしたらいいのか迷うことがありません」
開発会社のサリバテックは山形県の企業で、ふるさと納税の返礼品のほか、健保組合や企業等を通じ、サリバチェッカーの検査キットを提供している。
お気軽&お手軽! 記者もトライしてみた!
毎号1~3本の実用企画を担当する週刊女性記者Y。多忙を理由に病院は避けて通るタイプ、本当はただの面倒くさがりで怖がりの40代だ。だって注射も麻酔も嫌いだし、怖い思いをして検査したうえ、何かが見つかったらイヤじゃないですかぁ~。だがYの父は肺がん、前立腺がんのサバイバー。最近では脳梗塞まで起こしており、長女としては健康体で父を見守らなくてはいけない。渋々、唾液でできる検査、前出のサリバチェッカーにトライした。
検査の準備は2日前から始まる。“豆類、納豆などの豆を主原料とした食材、ナッツ類、しじみ、それらを材料としたサプリ、健康食品をとらない”、そして“前日21時以降は水以外の飲食禁止”、からの“当日は朝食、ガムやあめ、うがい薬もNG。歯磨きは2時間前までに”。これらをクリアし、最寄りの実施クリニックに向かった。
クリニックでは検査着に着替えることもなく、個室に通された。看護師さんがおもむろに検査キットを運んでくる。保管温度が重要なようで、キット全体ひえひえだ。透明なストローのようなものをくわえ、渡されたのは、梅干しとレモンの写真。コレを見てふんだんに唾液を出し、容器にためろとのこと。
「これを見ていれば必要量の唾液がとれるものですか? 」
自分の唾液量など考えたことがないので聞いてみる。
「イケると思いますよ! では5分後に戻りますね~」
明るい看護師さんがカーテンの奥に消えていくと、少々不安な気分に。いやいやレモンと梅干しに全集中だ!
5分後、意外とあっさり必要量はとれており、支払いをすませ、帰宅した。アラ、本当カンタンじゃないの~。
そして待つこと2週間。検査結果が送られてきた。結果はオールA、つまりがんリスクは現状なし! もちろん、がんの家族歴があることに変わりはないので、これからも定期的なリスク検査は必要だ。だが“今現在”は健康だとわかると安心する。これだけカンタンなら、何年か後にまたやろうかなと思えた。
血液でわかる! アミノ酸バランスで7つのがんリスク評価
アミノインデックス(R)
1回の採血(5ml程度)で7つのがんリスクを評価する検査。各疾病によって、血液中のアミノ酸の濃度バランスが変化することから、それぞれのがんの可能性を評価。
人体の約20%は、20種類のアミノ酸がつながったタンパク質でできているが、血液中にはバラバラになったアミノ酸が存在する。がんにかかるとこの血中アミノ酸のバランスが崩れ、健康な人とは異なる割合になる。さらに、がんの種類によって特定の崩れ方をすることがわかっているのだ。そこで味の素(株)が約2万検体のデータを解析してスクリーニング検査として実用化。がんリスクのほか、2017年に生活習慣病のリスク、2019年には、脳卒中・心筋梗塞、昨年には認知機能低下のリスク検査もセットで提供開始した。全国約1500の医療施設で行うことができ、人間ドックのオプションのほか、単独でも検査が可能。
血液でわかる! マイクロRNAで最大13項目のがんリスク評価
がんに罹患すると、がん細胞から血液中に分泌される小さな顆粒があり、その中にマイクロRNAという遺伝物質が入っている。マイクロRNAとは、約22個の遺伝子情報からなる小さなRNA(リボ核酸)。各がんで特徴的な複数のマイクロRNAを検出し、その量の変化を測定することで、がんリスクを評価する検査だ。
血中のマイクロRNA量は、早期から変化し、非常に高感度で検出できるため、初期のがんを発見できる可能性が高い。他のリスク検査同様に、画像検査等では確認できないグレーゾーンやステージ0レベルでも疾患の可能性を発見することができる。特にその力を発揮するのが、早期で発見すれば「治るがん」ともいわれている乳がんや、見つけにくく進行が早い膵臓がん、また、他のリスク検査には含まれない甲状腺がん、脳腫瘍、胆嚢がんなどのリスクも評価できる。
乳がん、膵臓がんは単独検査が可能だが、他のがんはセットによる検査となる。単独検査にはアルツハイマー型認知症のリスク検査もある。
教えてくれたのは……砂村眞琴先生●医師、大泉中央クリニック院長、東京医科大学八王子医療センター消化器外科・移植外科兼任教授。研究者でもあり、唾液によるスクリーニング検査の開発を行い実用化
(取材・文/山崎ますみ)