多くの中高年を悩ませる“ひざの痛み”。加齢により関節の軟骨がすり減り、変形を起こすことで発症する変形性関節症が主な原因。自覚症状のある患者数は約1000万人、X線検査の診断による潜在患者数は3000万人にも上り、骨折を含む要介護・要支援となる原因の第1位といわれる。それに“効く”とされる『サプリ』が今、増えている。その広告には気になる文言が……。効果はあるのか? 医師が解説する。
テレビ通販が売り上げを伸ばしているという。
「コロナ禍で、テレビ視聴時間の増加が理由の1つでしょう。通販やEC市場の規模はこの10年で倍増しており、それもあって通販番組を目にする機会も増えたように思います」(広告代理店関係者)
今年の4月から、通販業者向けだが、全国の通販番組で“何がいくらで売れたか”などを検索できる“通販番組のデータベース”のサービスも始まっている。
「通販番組の人気商品の1つが健康食品。特に多いのは、“ひざの痛み”に効くというサプリメントでしょう」(前出・広告代理店関係者)
通販番組でも紹介されている“ひざサプリ”を見てみよう。商品紹介ページには、《ひざ関節の曲げ伸ばしを助けます! 》《臨床試験で効果を実証! 》としている。これらのサプリは、『機能性表示食品』もしくは『特定保健用食品』(トクホ)だ。
消費者庁の定めるところによると、機能性表示食品とは、《事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品》。一方、トクホは、《健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品です。表示されている効果や安全性については国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官が許可》したもの。差は国が審査し許可したか否かだ。
しかし、これらの商品には、通販番組内でも商品HPでも気になる文言がある。
《医薬品ではなく、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません》
“科学的根拠がある機能性や効果”があるというのに、いったいこれはどういうことか。このような文言が、番組で表示されるのはかなり短い時間だ。これらの“ひざサプリ”は効果があるのか。新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生に話を聞いた。
実験は“身内”で行われたもの
「結論から言いますと、効果は証明されていませんね」
これらは試験で効果を立証したと謳っているが……。
「メーカー側は国の認可を取るにあたってエビデンスがあると言います。ひと通り読んでみました。論文の数自体は多くて、一様に“有効だった”と書いてあります。それらに共通したことがあって、基本的にはメーカーの研究員が試験を行い、論文を書いている。もしくはメーカーから研究費をもらった大学の先生がやった実験のレポートですね」(岡田先生、以下同)
“効果”の証明は身内。また出どころ以外にも……。
「試験の例数が非常に少ない。多くても数十例。医薬品の場合は数千例です。観察期間も非常に短いですね」
トクホの申請について、有効性は、《原則として12週間以上の摂取期間とする》と定められている。つまり、12週という短い期間の調査で申請できることになる。
「ほとんどのメーカーは12週で論文を書いています。きちんと長い期間、多くの例数を追っていない。法律を逆手にとって12週でやめている。健康のためですから、今日明日の話ではなく、半年後・1年後と元気でいたいですよね。それに応えるような試験・データになっていませんね」
サプリに配合され、“これが効く”としている成分についてはどうだろう。
「ひざに関するサプリメントの代表はヒアルロン酸やコンドロイチン、グルコサミンですが、これらは『糖鎖』と呼ばれるものです。これについていろいろ研究してきましたが、ひざも含めた関節に関して言えば、骨の表面にあり、潤滑油の役割です。これらをサプリとして飲んだときに、消化酵素で分解されてしまい、身体の中には入っていかないと考えます」
これら“効く”とされる糖鎖は、食べ物でとるというよりは、身体の中にある遺伝子が必要に応じて細胞内で組み立てているものだという。
「身体の中にある材料で組み立てているものであって、食べ物から直接とっているものではない。このような生物学の基本もあわせて考えると、サプリとして錠剤のような形で飲んで、ひざの関節にそれら糖鎖がたくさん届いて、痛かったひざが、これによって治るということはちょっと考えられない。エビデンスも存在しないし、人間の身体の仕組みを考えてもありえないかなと思います」
サプリに含まれる“成分”は効くのか
最近では、“グルコサミンだけでは足りない”とし、コラーゲンが効くと打ち出すひざサプリも多い。こちらは前述の糖鎖ではないという。
「コラーゲンもいろいろな効果があり、ひざの関節の痛みに効くとされ、機能性表示食品の代表のようになっている。しかし、食物や錠剤として飲んだときに、身体の中に一部入っていくというデータはありますが、ひざまで届いて、症状を和らげることを証明したデータはないです」
コラーゲン以前は、ひざサプリは“グルコサミン”が多かった。
「コロナ前くらいの時期にグルコサミン関連のサプリが多く発売された時期がありました。ところが、それらのメーカーが相次いて、機能性表示食品を辞退することに。そのきっかけは、グルコサミン関連のサプリメントをいくら飲んでも症状が改善することは認められなかったという否定するエビデンスが初めて正式な論文として出されたこと。それを受けて各メーカーも反論できなかったので取り下げたということがありました」
ひざ痛の原因の多くは、変形性関節症。軟骨がすり減り、炎症を起こした状態だ。
「論文は、変形性関節症と診断された人に2年間にわたってグルコサミンを飲んでもらって症状が改善されたか調べたもの。結果、効果がなかった、示せなかったという論文です。信頼度の高い論文で、だからこそメーカーも諦めたのではないでしょうか」
通販番組などでは前述のような“文言”が必ず入る。
「“個人の感想です”などもそうですね。エビデンスがあれば、そんなことは言わないはずです。きちんとした論文で効果が証明されましたと言えばいいわけで、むしろ“効果がない”ことの証明となっていますね」
岡田先生は、「信じて飲むことでプラシーボ効果でよくなることもあるとは思う」とする。しかし、“気の持ちようで多少効果があるかも?”な商品、あなたはお金を使って買いますか?