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 メダルラッシュで幕を閉じた『オリンピック』。同大会は基本的に無観客で行われた。現在開催中の『パラリンピック』も学童の特別観戦はあるが基本的に無観客だ。一方、ヨーロッパでは“大規模開催”としてサッカーのヨーロッパ選手権『EURO(ユーロ)』が、7月に行われた。ユーロも含めた大規模開催のイベントにまつわる驚きの調査結果が、イギリス政府より今月発表された。発表の内容は以下(編集部要約)。

大規模イベント開催、英国では「問題ナシ」

「ユーロは、6万人を集めた決勝戦を中心に6400人が感染した

感染者数の多さは、バー、パブ、他の世帯を訪問したり、試合日に外食したりするなど、さまざまな活動に参加していると報告された個人が陽性を示したことを示している

この程度なら大規模イベントは今後も続行可能

「大規模開催のイベントに関連した人の有病率は、その地域の有病率と一致しているか、それ以下」

7月に2週間で約30万人を集めたテニスのウィンブルドン選手権では881人(すでに感染していた可能性があるのが、うち299人)」

7月に開催されたF1・イギリスグランプリは3日間で35万人以上の観客を集めたが、感染者は585人(すでに感染していた可能性があるのが、うち343人)」

イギリス政府が発表した大規模イベント開催に関する声明。タイトルは「政府のデータによると、大規模イベントは安全に開催できるが、ファンは人混みに注意し、予防接種を受けることが求められる(編集部訳)」となっている。

 発表では、“これくらいなら大丈夫! ワクチン等の対策はいるけど、大規模イベントも大丈夫!”とまとめられている。

 イギリス政府による発表は信頼できるのか。また、それは日本にも置き換えていいものなのか……。

「ひと言で言って信じられないような発表で、本当に政府がこんなこと言うのかという印象です」

 そう話すのは、新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。ユーロの決勝が行われた英・イングランドでは7月にコロナに関する規制がほぼ全廃となっている。

「観戦にかかわった人たちの有病率とその地域の有病率が同じくらいだからいいんだと言っていてはいつまで経っても感染がゼロになることはない。1人ひとりが気をつけて、ゼロになるように努力しましょうと言うべきところを“これくらいいいんだ”と政府が言うことがとてもおかしいと思いました。ロックダウンを解除している状況ですから、その判断は“正しかった”と言いたいのでしょう。日本がこんなことを参考にしてはいけないなというのが私の印象です。

 ユーロのニュースをテレビで見ましたが、密集してマスクを着けず、大声を出す。試合後には、会場の外で大騒ぎしていました。そういった行為をしていて結果6000人が感染した。観戦に関わった人と関わっていない人の感染率が大して変わらないならば、それはサッカー観戦に関係なく、イギリス国民みんなが“密”になるようなことをやっているということだと思います」(岡田先生、以下同)

 日本ではオリンピックは無観客となったが、サッカー・Jリーグやプロ野球などは、制限を設けて有観客を続けている。

「ヨーロッパのサッカーなどと違い、淡々と開催されていますね。観客が勝った負けたで大騒ぎするようなこともなく。狂ったように騒いだりしていない。今は帰りに騒いだりする人もいない。注意喚起されていることをしっかり理解して守っているように見えます。欧米のスポーツ観戦の応援、ライブなどとはまるで次元が違うように思います。データがないので断言はできませんが、これまで日本のスポーツ観戦で感染者が激増したという話も聞きません。ゼロではないでしょうけど。日本と欧米ではスポーツ観戦に関しては背景が違うと考えます

 イギリス政府は、観戦に関わらず「すでに感染していた人が少なからずいた」と発表。すなわち「観戦で感染した人は、そこまで多くない」と主張している。

“事前に感染していた可能性があり、それは別で考えなくてはならない”と言っていますが、区別しようがしまいが、感染したことには変わりない。だからこの発表を受けて、“何しても大丈夫”のように受け取るのは絶対いけないことです。ただ、今の日本のスポーツ観戦のようにきちんと対策がとられ、それを観客が守っているのであれば許容範囲だと思います」

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 サッカーファンで、昨年今年と引き続きJをリーグの観戦に足を運ぶ男性は、スタジアムの様子を次のように話す。

「ユーロなどの欧米のサッカー観戦の日本のJリーグの違いは“マスク・消毒の義務”、“席の前後左右に間隔”、“声援の禁止”、またスタジアムのある都道府県によって制限は異なりますが“人数制限”と“酒販売停止”などになります。スタジアムやチームによって多少変わるかもしれませんが、これらの対策に加え、試合中もスタッフが観客席を確認し続け、“顎・鼻マスク”を発見したら、逐一注意しています。Jリーグは、基本的に開幕した春から五輪による中断期間などを除き、ずっと開催され続けていますが、クラスタ化などは一切起きていないはずです

 現在、開催中のパラリンピックは“学童観戦”があり、有観客となっている。これについて前出の岡田先生は、

「有観客の是非が問われていますよね。会場のシーンを見て、きちんと距離をとって、声も出さずに観戦しているから、“これなら大丈夫”なんてテレビでコメンテーターが言っているのを見ました。それは良いのですが、子どもたちの場合は学校単位で動くと思われ、同じバスで、ある程度の人数が一緒に移動するので、そこで密にならないかが気になります

コロナ禍に挑んだ“夏フェス”

 そんななか音楽好きにとって、“年に1度”の最大のイベントが8月20日から23日にわたって開催された。日本最大の音楽フェスティバル『フジロックフェスティバル』だ。昨年はコロナのため中止になったので、開催は2年ぶり。開催地の新潟県苗場スキー場には、延べ人数3万5000人が集まった。多くのメディアはフジロック開催について《「反知性」》《“密”に踊る若者》《“帰宅後に感染”参加者》などと否定的に報じた。今回のフジロックの参加者の目には“コロナ禍のロックフェス”はどのように写ったのか。

フジロック主催者は事前からSNSやWebサイト上で完成防止対策の徹底を呼びかけていた

「フジロックに行っている際は、あまりネットニュースを見ていませんでしたが、帰ってからいろいろとチェックしました。かなり客席がギュウギュウになっている写真が上がっていました。でも客席の足元には、両隣の人そして前後の人と間隔を空けることを示したポイントがありました。ポイント1個の上に1人ということが何度も何度もアナウンスされ、厳守させられていました。僕が見た範囲では基本的に最初から最後までみんな守っていたと思います。都内の混んでいる電車より間隔は空いていました。前列に行きたい人が、ライブが始まってから来ることもありましたが、前列のポイントに入ることができず、泣く泣く後ろにまわったり諦めたりするような感じでしたね」(フジロック参加者、以下同)

 しかし、ネットには客席が“密”となっている写真がいくつか投稿されている。

「正直、ネットで上がっている“密”な写真は後方から撮ったもので、観客同士の間隔が空いていても、同じ環境にいた人が同じくらいの高さから撮れば遠近感がなくなり、密に見えているだけだと思います……」

 歓声はルールとして禁止されていたが、それは守られていたのか。

かなりみんな我慢していました。僕はライブに行ったのがこのコロナ禍で初めてでした。昨今のライブやフェスは“歓声禁止”とありますが、とはいえ少し声出す人はいるんだろうな……とも思っていたのですが、僕が見た限りいませんでした。もちろんまったくなかったわけではないとは思いますが」

 このご時世、どれだけ対策し、ルールを守ろうが、どうしても批判は起き、そしてそれは仕方のないことにも思える。

「若い人に限らずですが、こういったところに来る“イベントが好きな人たち”は、このコロナ禍にあって、どう対策をしようが批判されてしまうことをわかっているので、決められた立ち位置や声援、もちろんマスクなどついて、ただ言われ、決められたルールを守るというよりも、“自分たちでちゃんとやろうよ”という意識が高かったと思います。スタッフの見回りも多いのですが、自分たちで、近くにいる人がちょっと立つ位置が変だったら注意したりとか。どうしても見ている中でマスクがズレて“鼻マスク”になったりしていたら、それを注意したり。そういったお客同士の注意のし合いが結構ありました」

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マスクを必ず外す「飲食」の様子は

 フェスとなれば、やはりお酒を飲みたくなるものだが、今回はそれも禁止されている。

「泥酔しているような人は、僕は見ていません。売っていないので、勝手に持ち込むしかなかったのですが、鞄チェックもありました。とはいえ抜け道もないことはなく、普通の飲み物のボトルにお酒を入れたり、中で売っている飲み物に混ぜたりとか……。やろうと思えばやることはできると思いますし、飲んでいた人もいたとは思いますが、表立って飲んでいたり、酔っている人を見ることもありませんでした。フジロック参加者が泊まるキャンプ場もお酒の持ち込みがNG。夜中まで宴会していた人などは見かけませんでした

 コロナの多くは、飲食時に感染すると言われる。フジロック参加者はみな会場内で食事をとることになるが、その環境はどうだったのだろう。

「食事を提供する屋台はいっぱいありますが、人数が少なかったためか長い行列ができることもなく、スペースも広いので、みんなゆったり食べていましたよ。隣が近いなんてこともなく、都内のファミレスなどよりも何倍も離れていました。屋根付きテーブルの食事スペースもありますが、間隔を空けて向かい合わずに全員が同じ方向を向いて食べるような感じでしたよ。“黙食”という注意があり、皆さんしゃべってなかったと思います

 できる限りのことはかなり高い水準で運営スタッフさんがやられていました。フェス中はスタッフさんが巡回していて、かなり厳しかったです。マスクをきちんとできていない人は即注意されていました。食事直後はついさっきまでご飯を食べているので、マスクを下ろしていたことを忘れて、そのままゴミ捨て場に行った時に注意されたりとか」

 会場でどれだけ対策がとられていても、今現在“フジロック開催”については批判の声が多い。

フジロックのあと、参加者と食事をしたことを報告するツイート。投稿後批判が相次ぎ、アカウントは非公開に

「さまざまな声があることはわかります。それでも今回錚々(そうそう)たるアーティストが出てくれて、合間のMCで運営側に向けて“開催してくれてありがとう”とか“この期に及んで大儲けしようなんて思っている人はいない。ギリギリ生活かかっている人もたくさんいる”とか話していて……。

 今回はいつもなんかと比べものにならないくらいの数のスタッフを動員して、管理体制もすさまじくちゃんとしているのを見ると、こんなのは儲けなんかまったくないと見ていて思いました。どうしたって、どう開催したって批判の声があるのは当然と思います。それでも最善を尽くして、そしてその頑張りは相当だったと思います

ネット上では打ち上げで居酒屋に行ったという話もあるが……。

「確かにやった人はいたのかもしれません。しかし、会場付近に例年は店先にフジロック客を目当てにしてビールや食べ物を売る店が立ち並ぶのですが、全然やっていませんでした。厳密に言うと初日にやっていた店もあるのですが、運営スタッフから注意が入り、その後は営業していませんでした。近くの駐車場の係員さんに聞いたら、“あそこの店、昨日すごい注意されてたよ”って言っていました。会場外ですら見回っていたんです。かなり注意を払っていたんだと思います。まぁ離れた店などはやっていたとも聞きますが……」

 今年、フジロックが開催されたことについて、参加者としてどのように見たのだろうか。

「開催自体を“どうなの?”という人は、参加していない人は当然として、参加している人も多少なりとも思っていたはず。いろいろなフェスが中止になっていますから。ただいつまで中止を続けなければならないのか……。だから、“やるなら野外の広いところでやるフジだろ”という思いの人も多かった。密室のライブハウスなどではありませんから。このコロナ禍における実験的な意味合いもあったのでは。これでコロナの陽性者がフジロック関連で増えることがなければ、1つの成功例として“光”になってくれたらと思います。これくらいちゃんとして、客側もちゃんとしていれば……と。もちろんそれでも批判がくるのもわかりますが」

終了後も速やかな帰宅を促すなど、感染防止のアナウンスは徹底していた

開催翌日に陽性なしと発表しても意味がない

 フジロックを伝えた記事の多くは、“このご時世に何を……”という否定的なものが主だった。しかし実際の参加者が見た風景は上に書いた通りであった。もちろんすべてではないだろう。ステージも複数あり、そのすべてを来場者が把握することなど不可能だ。しかし、それは逆もしかり。《「反知性」》的で、《“密”に踊る若者》はそこかしこで見られたのか。そうではないはずだ。むしろ知性を振り絞り対策を行っていた運営スタッフが、そのような瞬間を、見逃し“続ける”ことなどありえるのだろうか。批判記事の筆者たちは、大多数がルールに従い、注意し合っていた風景は見てはいないのだろうか。

 フジロックの環境を踏まえ、前出の岡田先生にフジロックについても話を聞いた。フジロックを主催する株式会社スマッシュは、フジロック最終日の翌日に「陽性者なし」を発表したが……。

「皆さんもご存知かと思いますが、コロナの潜伏期間はこの1年の研究でハッキリしてきていて、“感染者と接触してから5日プラスマイナス2日”つまり、3日から7日。この間、感染していても症状は出ないので、少なくとも7日間チェックしないと、そこで感染したかどうかはわからない。その後、熱が出た人もいるかもしれません。そのため音楽フェスが終了した翌日に“感染者はいなかった”という発表は何の意味もないですね。フェスでの感染がどうだったきちんと発表したいのであれば、7日間調べるべきだと思います。そもそも“ゼロ”かどうかをどうやって調べたのか……。何万人もいたなかで。本当にゼロだと言い切るためにはPCR検査をしなくてはならないのに」(岡田先生、以下同)

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 プロ野球やJリーグは、昨年から制限を設けつつも基本的には“通常通り”開催されている。

「普段と違うこと、“日常”ではない場面で人間の心に“隙間”が生じてしまうと思います。どれだけ対策をとっても主催者側の思いと参加者の熱気に差はあるでしょう。その意味で通常通り開催されてきているプロ野球とJリーグは、悪く言えばそこまでの熱気がなく、そのためきちんと対策に従っている。この時期に音楽フェスをやったことは、どれだけ“陽性者がゼロ”だとか言い訳をしても、まずかったのではないかと思いますね

 フジロックを主催する株式会社スマッシュに、潜伏期間を踏まえ、参加者やスタッフ関係者などへの“追跡調査”は行うのか問い合わせると、

「今後も時間経過とともに情報収集に努めて、その結果改めて皆様にご報告し、未来のフェスティバルにおける感染防止対策の改善につなげてまいります」(株式会社スマッシュ担当者)

 コロナウイルスによって奪われた“日常”そして“非日常”。コロナとともに生きることがもはや日常となっているが、非日常が帰ってくる日は訪れるのか……。