猛暑日の公園のベンチ。制服姿の女子高生2人組がマスクをあごまでずらし、紙コップに盛られたかき氷をサジ付きストローですくっていた。
感染リスクはゼロ
首都圏の公立高校に通う2年生のA子さん(17)は、この夏いちばんの思い出についてこう話す。
「正直、いちばん心に残っているのは家でやったゲームですね。3Dブロックの仮想世界でいろんなことができる『マイクラ』ってゲームの中で、友だちと海に行ったり、山に行ったりサバイバルをして楽しみました。コロナで実際にできないことはそっちでやるんですよ」
そんなゲームがあるのか。調べてみると、“マイクラ”とは『Minecraft(マインクラフト)』というゲームで、得点を競うわけでもなく、ただ自由に冒険したり、仲間と家を建てるなど共同作業を体験できるらしい。ゲームの中で遊べば、大人数でも密接でも感染リスクはゼロ。遠慮なく友だちを誘える。
一方、同級生のB子さん(17)は、夏休みのメーンイベントとして友人と東京ディズニー・ランドに行く計画を立てていた。
「ところがチケットが取れなくて行けなくなってしまって。本当はディズニーで友だちと同じポーズで“映える”写真を撮りたかったんです。仕方ないので、おそろいの洋服を買って一緒に写真を撮りました」(B子さん)
来年の夏にやりたいこと
それはそれで楽しそうだが、2人の話にはどこかせつなさが漂う。もっと10代特有のドキドキ体験はなかったのだろうか。
B子さんが「この子はありましたよ」といたずらっぽく笑う。水を向けられたA子さんはこともなげに言う。
「ドキドキとは違うかもしれませんが、彼氏を振りました。束縛がひどくて鬱陶しくなっちゃって」
ふたりとも今夏はマスク、手洗い、ソーシャルディスタンスを徹底したという。もしコロナが収束したら、来年の夏はやりたいことがある。
「本物の海に行きたい。友だちと泳いだりビーチバレーしたり、それとおいしいものも食べたい」(A子さん)
「夏祭りに行きたい。彼氏ができて一緒に行けたらいい。花火も一緒に見たい」(B子さん)
別の場所へ。
一番人気はバーベキュー
地方から上京した都内の大学1年Cくん(19)は夏休み中、実家に帰ることをあきらめた。両親から「帰ってきちゃダメ」と言われたという。故郷の友人が東京に遊びにくる予定もあったが、コロナの感染拡大で取りやめになった。渋谷のクラブにも行かず、原宿・表参道に洋服を買いに行くのもやめた。
「自分自身はコロナをそんなに怖いと思っていないけど、万が一、感染してだれかにうつしてしまうのは避けたいから」(Cくん)
繁華街に行けば、コロナどこ吹く風で遊んでいる若者がいるが、その陰で我慢している若者もいる。
この夏、楽しかったのは友人とバーベキューに行った日のこと。
「少人数で密にならないように気をつけました。反省点は肉が足りなかったことです。もうちょっと買っておけばよかった」
とCくん。
実はこのバーベキュー、さまざまな10代に話を聞く中で「いちばんの思い出」として挙げる例が最も多かった。屋外かつ実施できる場所がふんだんにあり、都県境をまたがずに済むからだろうか。
都内の高校3年Dくん(18)も家族とバーベキューに行った。
「お肉はフツーにおいしかった。海鮮もエビとかサザエとかおいしかった。でも、もうちょいはしゃぎたかった。ほかの客もいたので声のボリュームをおさえなければならず、開放感があまりなかった」(Dくん)
インスタで引退報告する友人に
高校生最後の夏休みにやり残したことはなかったか。
「残念だったのは、部活動をやっている友だちの最後の試合の応援に行けなかったこと。無観客試合になってしまったから。ふだん部活動を頑張っている姿を見ていたので応援したかった。引退報告するインスタグラムを見て“おつかれさま”と書くしかありませんでした。どんな試合でどう活躍したかはわからない」(Dくん)
素顔をよく知る同級生が、ふだん見せない表情で懸命にプレーしたであろう様子は、もはや想像に頼るほかない。東京五輪とは異なり中継されないから、テレビ観戦するわけにもいかなかったという。
さて、もう少し若い世代ではどうか。
首都圏の公立中学2年の男子生徒4人に夏休み中のいちばんの思い出を聞いた。
美人当てゲーム
「友だちと大型商業施設に行ったこと。サーティワンアイスクリームで『ポッピングシャワー』を初めて食べてメチャメチャおいしかった。口の中でパチパチ弾けるんですよ」
とEくん。
「友だちと9人で公園で花火をしました。打ち上げじゃなく手で持つやつで、わいわいやって盛り上がりました」
とFくん。
Gくんは友だちとふたりで海に行って怖い思いをしたという。
「僕は泳げないので浮き輪をしていたんですが、ブイの浮かんでいる遊泳エリアの端まで行ったらかなり深くてびっくりしました」
事故につながらなくて幸いだった。
4人の中では“おもしろキャラ”的なポジションらしきHくんは予約制のプールに行ったのが最高の思い出という。
「彼女は募集中なので、やむなく友だちと行ったんです。楽しかったのはプールにもぐってやる美人当てゲーム。ゴーグルをつけてもぐって足とかを見て、どんな顔か当てるんですよ。触ったりはしていません。僕は曲がったことは嫌いなんで」
あと数日で夏休みは終わりというので、宿題の進み具合を聞いたところ、すべての教科を終えていたのはひとりだけ。
「まだ日にちはあるので最後の1日でやります」
などとコロナ禍で時間はあったはずなのに呑気(のんき)だった。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する