関口宏

 1987年から34年続いているTBSの報道番組『サンデーモーニング(略称・サンモニ)』(日曜午前8時)が存亡の危機にある。大幅リニューアルや打ち切りが現実味を帯びている。

コメンテーターは“身内”だらけ

 番組の生命線である視聴率が低調なのだ。「『サンモニ』は高視聴率のはず」と言う人も多いだろうが、それは世帯視聴率の話。若い人やスポンサーが歓迎するF1層(女性20歳~34歳)の個人視聴率は低い。

 8月29日放送分のビデオリサーチの数値(関東地区)は世帯視聴率こそ14.6%あったものの、F1層の個人視聴率は0.8%に過ぎない。一方、中山秀征(54)がキャスターを務める日本テレビの競合番組『シューイチ』の場合、世帯視聴率は10.5%ながら、F1層の視聴率は4.6%もある。

 日テレの制作者は以前から「CM収入は『シューイチ』のほうがはるかに上」と豪語してきた。F1層の視聴率を見ると、それも合点がゆく。『サンモニ』の完敗である。F1層の視聴率はCMの売り上げに直結する。

 個人視聴率がテレビ界の物差しの主流になったのは昨年4月から。それまでは世帯視聴率が中心で、『サンモニ』はこの世の春を謳歌したものの、尺度が変更されたことで一転、必ずしも高視聴率番組とは言えなくなった。

 すると、これまでは抑えられていた『サンモニ』批判がTBSの局内外で急に噴出し始めた。世の常だ。

 批判の声の代表格は、キャスターの関口宏氏(78)が会長を務める芸能プロダクション『三桂』の所属者が、コメンテーターを始めとする出演陣に多いこと。

 三桂所属者は関口氏の発言に反論しにくいと思われるため、番組の多様性が阻害されてしまう。また、公平な競争が行われず、三桂所属者が優先的にコメンテーターに起用されると、逸材が公共の電波に登場するチャンスが減る。視聴者の利益に反する。この番組への出演を望んでいるが、「出られない」と嘆く若手の論客は少なくない。

 三桂の所属者の名前を挙げる。政治学者の姜尚中氏(71)、造園家で東京都市大特別教授の涌井雅之氏(75)大阪芸術大客員准教授の谷口真由美氏(46)、スポーツジャーナリストの中西哲生氏(51)、ゴルフ解説者のタケ小山氏(57)、アシスタントの橋谷能理子氏(59)、同じく唐橋ユミ氏(46)。確かに多い。

張本勲

 関口氏の身内が多数いるため、番組内で誰かが問題発言をしようが、関口氏が見過ごすと、そのままになってしまいがち。

 8月8日放送分の「週刊御意見番」で張本勲氏(81)がスポーツ界の男女差別を助長する発言をしてしまったケースは典型例に違いない。

 張本氏は東京五輪のボクシング女子フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈選手(20)について「女性でも殴り合いが好きな人いるんだね」などと発言。日本ボクシング連盟から抗議された。

 SNSを見ると、多くの視聴者も放送中の段階で違和感をおぼえた発言だった。出演陣も気づいたはず。ところが、関口氏が発言の問題点を認識しなかったため、誰も声を上げなかった。報道番組としては痛恨だった。

 誤解している人も多いが、『サンモニ』を制作しているのは報道局であり、『新・情報7daysニュースキャスター』などをつくっている情報制作局の管轄ではない。『サンモニ』は報道番組なのだ。『報道特集』でさまざまな不当な差別への批判を繰り返しておきながら、自分たちが差別を助長する発言を許してしまった。

 張本氏の出演に関しては江川紹子氏(63)との摩擦が表面化した2010年5月の段階で見直すべきだったという声がTBS局内には以前からある。

 週刊御意見番コーナーで張本氏と江川氏の意見が対立。楽天・岩隈久志投手(当時)が途中降板した件をめぐってのことだった。

 すると番組側は江川氏に出演見合わせを申し入れた。これに対し、江川氏は自ら降板した。これでは番組が張本氏に忖度したと受け止められても仕方がない。

関口宏・張本勲に物を言えないワケ

 なぜ番組側が張本氏に気を遣うかというと、理由は視聴率。「週刊御意見番のコーナーは番組内でダントツに視聴率がいい。降りられたら困る」(TBSスタッフ)

 関口氏にも番組側は意見しにくい。それが三桂所属者の大量出演の理由にもなっているようだ。それだけではなく、三桂所属者以外のコメンテーターの出演も関口氏がクビを縦に振らないと実現しないという。なぜ、関口氏に物を言いにくいのか。

「『サンモニ』はずっと高視聴率だった上、毎年8月15日の『終戦スペシャル』などの報道番組の司会もお願いしてきましたから」(同・TBSスタッフ)

 関口氏は大功労者なのだ。その上、78歳。どんなに力のある局員より年長でキャリアも長いから、発言力が強い。

 この番組を「老害」と指摘する声もある。高齢者を排除するのも差別であり、問題だが、出演者が高齢者に偏るのも考えものだろう。8月29日放送のコメンテーターはどうだったのか。

 元経済企画庁長官・田中秀征氏(80)、ジャーナリスト・大宅映子氏(80)、前出・谷口真由美氏、BS-TBS『報道1930』の松原耕二キャスター(61)。平均年齢は66・75歳だ。関口氏を加えると同69歳である。これでは現役世代の共感を得るのは難しいのではないか。

「『サンモニ』は左傾化した番組」という批判も古くからあるが、これは違うだろう。主張に一貫性がないからだ。

 2016年10月2日放送でコメンテーターのジャーナリスト・青木理氏(55)が、「自衛隊は一歩コントロールを政治が誤ると、非常に危険な組織」と発言した。関口氏も否定しなかった。安保法制が物議を醸した2015年以降、番組は自衛隊への冷ややかな態度を続けた。

 ところが8月29日放送分では日本近海での自衛隊とイギリス、米国、オランダの共同訓練を報じた後、コメンテーターの田中秀征氏が「いいことだと思いますよ」と解説。自衛隊の積極的な活動に理解を示した。関口氏はやはり否定しなかった。中国の脅威が現実化してきたからに違いない。

 戦前生まれの関口氏の考え1つで方向性が決まっているというのが、『サンモニ』の実情だろう。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立