「障がい者を笑いものにするな」という視聴者からの声をきっかけに、徐々に衰退していってしまった「こびとプロレス」をご存知だろうか。小人症という名の障害を持つ、“こびとレスラー”は、日本に2人しかいない。そのうちのひとり、プリティ太田(43)にこびとプロレス存続の危機と未来を聞いたー。
「むしろ笑ってくれ」
そう笑顔で語ったのは身長141cmの“こびとレスラー”ことプリティ太田(43)だ。
こびとプロレスはミゼットプロレスとも呼ばれ、成長障害を持った小人症という低身長のレスラーがリングに上がり、熱戦を繰り広げるプロレスだ。小人症のレスラーだけが所属するこびとプロレスは『全日本女子プロレス』に所属し、その前座として活躍してきた。
1980年代には『8時だョ!全員集合』(TBS系)や『ドリフ大爆笑』(フジテレビ系)に出演し、お茶の間を楽しませ大きな話題になったが、「障がい者を笑いものにするな」という視聴者からの声がきっかけとなり、徐々に活躍の場は狭まったという。
「こびとプロレス」存続の危機、レスラーは2人だけ
「女子プロ全盛期の時は、こびとプロレスは前座だったけど、お笑い要素が強い試合は人気だったそうです。プロレスの試合を見に行ったときにプロレス関係者から名刺を渡されて、それをきっかけに入団しました。僕自身プロレスが好きだったので、スカウトされてうれしかった」
と、現役のこびとレスラー・プリティ太田は語る。
テレビのゴールデン帯から姿を消したプロレスと一緒に、こびとプロレスの知名度も衰退。プリティ太田は入団したが活躍の場が少ないことにもどかしさを感じているという。それでも彼がプロレスを続ける理由には切実な問題があった。
「今、こびとレスラーはミスター・ブッタマンさんと僕だけなんです。過去に所属していた選手たちは体力的な問題や年齢などもあって引退してしまいました。なので、僕かブッタマンさんのどちらかが引退してしまうとレスラーが1人になってしまう。そうなると戦う相手がいなくなってしまうんですよ。でも伝統ある“こびとプロレス”を僕の世代で終わらせたくないと思っています」
現在レスラーは2人しかおらず、危機的な状況に陥っている。衰退した背景には、戦いたいというレスラーの意思に反し、「障害=かわいそう」と勝手に決めつけた、視聴者やテレビの自粛も起因している。しかし、プリティ太田は、存続の危機を嘆いてばかりいられないと前を向く。
「そもそも、こびとプロレスというものがあるってことが世間には広まっていないと思うんです。今は少しでも多くの人に存在を知ってもらって、興味をもってもらいたい。レスラーになりたいと思う小人症の人が少ないのは百も承知ですが、一緒にこびとプロレスの楽しさや、やりがいを感じてもらいたいんですよね! そうなれば、ずっと同じだった対戦カードにバリエーションが出て、もっと観客を楽しませることができると思うんです」
と、目を輝かせる。
存続させるためには、メディア出演も意欲的にこなしている。なかでも全国地上波の番組には、知名度を上げるにはうってつけだといい、オファーがあれば積極的に受けているようだ。
「『水曜日のダウンタウン』(TBS系)に出演したときはかなり反響がありましたね! 依頼が来たときはすごいうれしかった。何で出るかわからなかったのですが、ふたつ返事でOKしましたよ(笑)」
誰かを笑顔にしたい気持ち
そんなプリティ太田は、2、3か月に1回できればいい方というこびとプロレスのために、定職にはつかずアルバイトで生計を立てている。
「いつプロレスの試合ができるかわからない。その機会を逃したくないんです! もしかしたらそのプロレスを見てファンが増えるかもしれない。やりたいと思う若い世代が入ってきてくれるかもしれない。40代なので将来に不安もありますが、それでも会場での観客の笑顔や声援を見たらまだ頑張りたい! って思ってしまうんですよね(笑)」
本当はプロレス一本で生計を立てていきたいのが本音。しかし、突然飛び込んでくる女子プロレスの前座、地域のイベントやメディア出演を最優先にしたいと思い、融通のきくアルバイトを選んだ。
試合の予定が入れば、対戦相手となるブッタマンと入念な打ち合わせしたいところだが、専用の練習用のリングがないため、身体作りしかできないという。
「こびとプロレスは“お笑い要素”がかなり強いので、対戦前に構成を組んで、どうやったら面白く見えるか、本当はもっとしっかり考えたいんです。でも現状はリングがないので細かい構成が組めず観客に見えにくくなってしまうことも……。
それでも、“障がい者を笑いものにするな”という概念を取っ払って僕たちのエンターテイメントを楽しんでもらうためには、どうしたらいいのか日々考えています。
笑っていいのかわからないみたいな空気になるよりも、むしろ笑ってくれって思ってるんですよ」
そんな彼らの背中を押すようにプロレスラーの蝶野正洋やダンプ松本など名だたるレスラーが活動を支援している。
「蝶野さんはまだ一度も面識はないんですが、2017年に『探偵ナイトスクープ』(朝日放送テレビ)に僕が出演した際、スタジオゲストとしてご覧になっていたようで、最近の僕の発信などにもSNSで反応してくれました。ダンプさんとは現在やっている『MAZEKOZEアイランドツアー』の繋がりもあって同じリングの上で会場を一緒に盛り上げてくれます」
『MAZEKOZEアイランドツアー』とは、多様な人々の存在を知り、そして理解してお互いを認め合う共生社会の現実をテーマにしたイベント。女優の東ちづるが総指揮を取り、東京パラリンピックの公式文化プログラムとしても注目されている。
こびとプロレスが存続の危機にありながらも、プリティ太田は明るく前向きでいたいと語る。意欲的になるのは自身の障がいを個性と捉え、そして純粋にプロレスが好きだという気持ち、さらには人を喜ばせたいというサービス精神からなるもの。
「こびとプロレスはエンターテイメントなので、野次も声援も僕たちの糧。最後の一人になってしまうかもしれないと思うことよりも次はどんなお笑いを届けようか、こんな構成は面白いかなって考えるようにしてます。根っからのプロレス好きなだけかもしれないですけどね(笑)。誰かを笑顔にしたいって気持ちは小人症の僕でも一緒なんですよ」
リングの上で戦うプリティ太田の目は、熱い気持ちに満ち溢れていた。