お笑いコンビ・オアシズの光浦靖子さんが語学留学のためカナダに渡航しました。もともとは昨年4月から留学を予定していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大によって、渡航を延期。カナダが学生ビザ保持者の受け入れを再開したことから、50歳でようやく念願かなっての渡航です。
光浦さんの留学に対する芸能界や世間の反応は、彼女の留学への挑戦を応援するものが多いように思いますが、皆さんは、社会人(大人)の留学についてどのように思われるでしょうか。
「留学に行ってみたい気持ちはあるけど、現実的に仕事を休んでは行けない」
そんなふうに感じる人が多いかもしれません。第一線で仕事をしている大人が一定期間、海外に留学に行くのは一般の社会人にとってどんな意味があるのか。今回は光浦さんの留学を通して、これからの時代の社会人留学の可能性について考察したいと思います。
カナダ留学に至るまでの葛藤
光浦さんは、東京外国語大学インドネシア語科の出身ですが、過去のインタビューによると当時はあまり大学に行かず、外国語を話せないことがコンプレックスだったようです。卒業後、小中高の幼なじみである大久保佳代子さんとお笑いコンビ「オアシズ」を結成、1992年メジャーデビューを果たします。
その後28年間、お笑い芸人として活躍し続けた光浦さんですが、彼女のエッセイ『50歳になりまして』(文藝春秋)の中では、さまざまな葛藤があったことを吐露しています。
私は独身です。旦那も、子供も、彼氏もいません。わかりやすく私を必要としてくれる人が側(そば)にいません。年齢に比例して増えていく休み、そりゃ不安になりますよ。長い夜、思っちゃいますよ。「私は誰にも必要とされていない」と。ネットには「面白くない」「消えろ」「消えた」無責任な言葉があふれています。私は、顔も名前も出さない奴らの憂さ晴らしのためだけに生きているんだ……。28年やってても頑張り方すらわからない世界です。でも私は、この世界の物差ししか持ってなくて、仕事がない=価値がない、としか思えなくなってしまいました。自分に満足するもしないも、他人からの評価でしか決められない。このままいくと、私はいつか、壊れるな。どうにかしなきゃ。(『50歳になりまして』より)
同書によると、コロナ下でお笑い第7世代と呼ばれる若手芸人が台頭し、40台に入った頃からテレビでの露出の機会が減ってきたうえに、ネットでエゴサーチをしてしまい、自信がなくなってきたという状態でした。そんな中、光浦さんはカナダ留学を決めたことでモチベーションが上がったのを実感したそうです。
仕事を続けていく中で、光浦さんに限らず、そろそろリセットしたいと思うタイミングは誰しもあるのではないでしょうか。ただ会社や家庭などの要因により、留学を検討すらできる状況にないと思っている人がほとんどのような気がします。
一方で今回光浦さんの留学がこれだけ話題になったのは、共感できると感じている人が多いことの裏返しでもあるでしょう。
留学に必要不可欠な要素として、「タイミング」があるのですが、まさしく彼女の場合は、オトナ留学に行く絶好のタイミングだったのかもしれません。
光浦さんのカナダでの生活は?
バンクーバーに渡航してからの生活を、光浦さんは出演したラジオ番組で次のように言っています。
「つねに人の目を気にして長いこと生きてきて。人の目を気にせず歩くとか勉強したくてするとか、こんなにストレス感じずに人って生きていいんだって。バンクーバーの街を歩きながら涙出たもん。こんなにリラックスできるんだ人って、って思って」(「大竹まこと ゴールデンラジオ!」文化放送より)
ようやく手にした留学の機会で、異国の地でのリラックスした毎日を満喫されているようです。
バンクーバーでホームステイをしながら、語学学校に通っているということですが、学生にとっては当たり前の留学も、日本での過酷な社会人経験がある大人には新鮮に映ります。
例えば、国籍・年齢・性別が違っても同じ目線で話すことができる学校のクラスメイトは、かけがえのない存在です。みんな各々の目的を持って海外に来ているので、同志みたいな意識も芽生えます。
またホストファミリーとの何気ない朝の会話や日々の生活から、大人だから気づくことのできるプライベートを大切にするライフスタイルも魅力的に映るでしょう。
そして何より移民を積極的に受け入れているカナダのおおらかな雰囲気やフレンドリーさは、長く東京で暮らしてきた光浦さんがリセットする場所としては、この上なく最適な環境と言えると思います。
メディアを通して見る光浦さんの留学は、ごく普通の芸能人留学として映るかもしれません。しかし、このような社会人の留学は芸能人だけのものではありません。一般のビジネスパーソンにもすぐに応用できるヒントが多く隠されているのです。
拙著『オトナ留学のススメ 成功する人はなぜ海外で学び直すのか』(辰巳出版)では、芸能人留学の事例を一般の社会人が取り入れられるようにタイプ別に分類しています。今回の光浦さんのカナダ留学は、人生を学び直すための「リフレッシュ飛躍型」の留学に当てはまります。同じタイプの芸能人の事例としては、歌手の平井堅さんがいるのですが、本書の中では平井さんの事例を紹介しています。
平井さんの場合も「周りだけがどんどん変わる。学生時代はみんな一緒だった。社会人になり、出世して、結婚して、子どもができて。周りを見るとどんどん変わっていっているのに、自分だけ学生時代と変わらない、取り残されている」と、昔コンサートの中で話していたのを聞いた記憶があります。しかしニューヨークでの語学留学をきっかけに自分を見つめ直し、帰国後に完全復活されたのです。
社会人生活でどうしても煮詰まってしまった際には、思い切って「環境を変えてみる」ことをお勧めします。海外留学は、そういう意味では環境が変わるだけでなく、周囲の人間関係や文化までもガラッと変わるので、効果が得やすいのです。
光浦さんのような留学が向いているのは?
では、どんな人が光浦さんのような「リフレッシュ飛躍型」の留学に向いているのでしょうか。次のような項目に当てはまる人は、このタイプの留学と相性が良いと言えます。
・気がつけば、ため息ばかり出る人
・最近仕事のモチベーションがまったく上がらない
・職場の人間関係で悩んでおり、休職もしくは退職を考えている
・プライベートで長年のパートナーと別れたばかりだ
・以前のように新しいアイデアが浮かばなくなった
昭和の時代の企業風土だと、光浦靖子さんや平井堅さんのような海外留学は、「逃げ」だと非難されるかもしれません。人生100年時代の現代では、「逃げ」ではなく「リフレッシュ飛躍型の留学」と言えるでしょう。
ストレスの多い日本社会で働いていると、人生で一度や二度は先ほどの項目のような状況になることもあるでしょう。病気になるまで無理して、寿命を縮めてしまうよりは、一定期間海外で充電してきたほうが、長いスパンで考えるといいかもしれません。
そんな際に、光浦さんのようにリフレッシュ飛躍型の留学を取り入れてみる手もありそうです。
大川 彰一(おおかわ しょういち)Shoichi Okawa 留学ソムリエ 代表取締役
日本認定留学カウンセラー協会幹事、TAFE Queensland駐日代表。1970年京都市生まれ。セールス&マーケティングに約10年間携わり、カナダに渡航。帰国後、留学カウンセラーとして4年間で約1000名以上の留学やワーキングホリデーに関わる。その後、米国の教育系NPOのアジア統括ディレクターとして約6年間、日本やASEANの教育機関および企業との連携によりグローバル人材育成に尽力。海外インターンシップを大学の単位認定科目としての導入に成功、東北復興プロジェクト、アジアの国際協力プログラム開発にも携わる。現在は「留学ソムリエ(R)」として国際教育事業コンサルティングや留学の情報を発信。留学ソムリエの詳細はHP、Facebookから。