※画像はイメージです

 少子高齢化で人口が減る日本。そんな中、築年数40年を超える分譲マンションは70万戸を超え10年後には2.5倍にもなるという。住人とともに高齢化するマンション。どんな問題が起きるのか、マンション管理士に直撃!

大問題(1)購入時と話が違う! 膨れ上がる修繕費

 どんなに素晴らしい高級マンションも、築年数を経過すると外壁や床材、給排水管などの設備も修繕工事を行う必要に迫られる。マンション管理士の松本洋さんは、

「さらに12年に1度の割合で大規模修繕工事を行い、建物を竣工時の性能に回復させることや、防犯設備の強化。高齢化に配慮して手すりをつけるなどバリアフリー化の工事も必要になるケースもあります」

 修繕計画に従い、その費用を滞りなく住人が積み立てることが理想。だが現実はそうではない。なぜ計画どおりに進まないのか?  その原因は、

「分譲マンションを買う場合、修繕積立金や管理費の名目で修繕費を計上していますが、販売業者はその金額をわざと安く見積もってお得感があるように見せるんです」(松本さん、以下同)

 国交省では、修繕積立金月額を平米単価200円を推奨しているが、ネットなどで見るとその半分、3分の1の物件がざらにある。

「以前からある話だが、最近はさらに酷くなり、修繕積立金が3倍から4倍に跳ね上がる。修繕積立金の金額に住人が反対し、安い積立金が継続するので築30年たったころ、お金が足りなくなってしまうのです

 購入時に修繕費が安いからと飛びつく前に、落ち着いて確かめることが必要かも。

大問題(2)管理組合不在で終のすみかの老朽化

「国交省の発表した『平成30年度マンション総合調査』によると、永住するつもりと回答したマンション居住者は過去最高の約6割に達しています。世帯主の年齢も高齢化が進み、70代以上の割合は2割超え。完成年次が古いマンションほど70代以上の割合が高くなっています」

 築年数40年を超え、大規模な修繕が必要となっている分譲マンションも、増加の一途をたどっている。

マンションおよび、住人の高齢化に伴い管理組合も役員のなり手がいなくなり、管理不全に陥ります。こうなると建物の老朽化に歯止めがかかりません

 松本さんが受ける相談の中でも、管理不全が居住者のモラルの低下をもたらし、マンションがスラム化するケースも増えているという。

「そうならないためにも、自分たちの住むマンションを“建て替える”“修繕工事を行い延命させる”などの選択に迫られます。

 しかしマンションの建て替えは、高額な建築負担金が必要なことから、建て替えを検討しているマンションも含め、これまで全国で280件足らずしか実施されていません

大問題(3)住み替え先で後悔!? 隣人トラブルご用心

 今まで一戸建てに住んでいたシニア層が“終のすみか”として、マンションを選ぶケースも増えている。

マンションのエントランス、共用部分のエレベーターなどがきれいに保全されているかも大切

「高齢になると階段の上り下りや庭の手入れがおっくうになる。マンションならオートロック・防犯カメラもあるのでセキュリティー面でも安心。このような理由で、マンションを“終のすみか”に選ぶ人が増えています」

 しかしその際、気をつけなければいけないのが、マンション選び。一戸建てを処分して“終のすみか”とするのだから、慎重には慎重を期したい。

「中古で購入するなら、ポイントは管理組合のよしあし。理事会の開かれる頻度や積立金の滞納がないか。さらに長期修繕計画や理事会の議事録も必ずチェックしてください」

 さらに内見する際、住人同士が挨拶を交わしているか、共用部分に物が散乱していないかなども重要だという。

引っ越した先でいちばん問題になるのが、隣人との人間関係。ゴミ出しや、子どもの足音などの生活音の問題など、戸建てとは違うトラブルになる要素はたくさんあります。居住者の意識の高さを知ることも、大切なことです」

大問題(4)所有者がいない!? 悲劇の“相続放棄”

 築年数の浅いマンションは買い手がつくが、老朽化したマンションは建物、給排水菅のメンテナンスがされてないケースも多く、買い手がつかないケースも増えている。

「老朽化の進んだマンションの所有者が亡くなると、一般的には親族が相続するわけです。しかし相続しても修繕費用などの管理費用がかさんだり、固定資産税などの支払いが発生するため相続放棄されるケースが増えています

 マンションの相続を放棄する場合、管理費や修繕積立金の滞納などの債権を相続する権利を持った人たちが、家庭裁判所に『相続財産管理人』の選任を申し立てる。

 相続財産管理人は、不動産会社などに物件を売却。そこで得たお金で管理費、修繕積立金の滞納分やローンの残額などを債権者に支払い、残ったお金は国庫に納めることになる。

大問題(5)修繕の先延ばしで結果、負担が増大!

 大規模修繕工事は、建物の立地条件、日常的な管理状態、社会的な要因などで個々のマンションによって異なるが、おおむね12年周期で行われる。

建築基準法で築後10年を経過した、外壁がタイル張りなどのマンションは、3年以内に外壁の全面打診調査を行う必要があると定められていることから12年周期という数字が一般的になっています

 気をつけなくてはいけないのが、費用の内訳。外壁だけでなく屋上の漏水、給排水管など共用部分は管理組合、専有部分は自己負担になる

「自己負担金を出したくないと、進めなければいけない工事を先延ばしにすれば老朽化は進みます。結果、エレベーターや機械式駐車場などの修繕と重なり、余計にお金がかかってしまうという状況にも」

 自己負担を渋っているうちに定年退職。収入は減り、部屋を担保に銀行などから、お金を借りなくてはならない場合も出てくる。

「余計な借金を背負わないためにも、適切な長期修繕計画を作成し、それに基づいて算出した修繕積立金を積み立てておくことが必要なのです」

 大規模修繕工事は、多額の費用がかかるので敷地および、共用部分の大きな変更を伴わない場合は、出席組合員の議決権の過半数で修繕工事を実施するか中止するかを決めることができる。老朽化が進んでいない部分にお金をかけない選択もできるのだ。

建設材料や塗料も新しくなった今、18年に1度でいいのではないかという意見も出ています

大問題(6)天国と地獄!? 管理会社の選び方

 管理組合員の高齢化と賃貸戸数の増加で、管理組合役員のなり手はますます少なくなるばかり。国交省の平成30年度マンション総合調査では、外部の管理会社に所属する、建築士や弁護士、マンション管理士など専門家を活用するマンションが4割を占めている。マンション管理士とは聞きなれない資格だが、

「マンション管理組合へのコンサルタント業務がメインの国家資格で、2001年に創設されました」

 しかし、すべて管理会社任せでも問題があるという。「管理会社も営利目的でやっているので居住者側も意識を高く持っていないとダメです。やらなくてもいい工事を受けていたら、お金がかかって仕方がありません。

 修繕するに越したことはないですが、大規模修繕工事のときに一緒にやったほうが安くすむという考えも。共用スペースを実際に歩いてみて、今工事するべきか自分たちで見極めることが大切です

 管理会社の言いなりではなく、自分たちで判断することも必要なのだ。

大問題(7)人気の高級タワマン修繕費もケタ違い!?

 あと10年たつと、築40年のマンションが今の2・5倍になり、老朽化マンションはさらに大きな社会問題になる。

“憧れ”のタワーマンションだが、至れり尽くせりの設備にはそれ相応の出費も…… 

「こうした現状を見越して、去年、築年数のたったマンションの再生強化を目的にした法案が成立しました。

 地方自治体が資金計画や管理組合運営の状況を評価・判定して改善に努めさせる法案です。必要があると判断された場合は、各自治体が管理組合に助言・指導を行うことができます。さらにマンション管理士などの専門家を派遣することも可能です」

 また2000年前後から急増したタワーマンションも、大規模修繕が必要になる時期を迎えている。

「豪華なプールやジム、最上階のラウンジなど、購入者の目を引きます。しかし、使用の有無にかかわらず管理費がかかるだけでなく、修繕時期が近づくにつれて、当初に予想していた費用を大幅に上回る可能性もあります

 人気のタワーマンションにも押し寄せる老朽化の恐怖。あなたの“終のすみか”は大丈夫ですか!?


まつもと・ひろし マンション管理士。NPO法人 マンションGPS専任講師。著書に『マンションの老いるショック! 』(日本橋出版刊)など

(取材・文/KAPPO INLET GROOVE)