※画像はイメージです 牛乳

 週7回以上、乳製品を摂取すると、悪玉コレステロールが高くなることが判明。日本人の4人に1人の命を奪っている“血管病”のリスクを高める危険性があるという。年齢とともに悪玉コレステロールが上昇する40代以上の女性は特に危ない!

牛乳やヨーグルトに潜むリスクとは?

 ミドル女性が気になる骨粗鬆症の対策には牛乳、“腸活”にはヨーグルトといった具合に、健康にいいイメージのある乳製品。意識的に毎日とるようにしている人も少なくないだろう。

 確かに乳製品にはカルシウムを筆頭に、大事な栄養素が含まれているが、実は心筋梗塞や脳卒中などの“血管病”のリスクを高めてしまう成分も入っていて、注意が必要だという。

「牛乳やチーズ、バターなどの乳製品に含まれている飽和脂肪酸という成分は、摂取量によっては血管病の原因である動脈硬化を引き起こすことがわかっています。乳製品は健康にいい万能なものだと思っている人もいると思いますが、リスクも存在することを知っておくべきです」と言うのは、長年にわたって脂質や動脈硬化の研究を行っている、りんくう総合医療センター循環器内科部長の増田大作医師だ。

 なぜ乳製品に含まれる飽和脂肪酸が要注意なのか。

「健康診断などで指摘されて気になっている人も多い『悪玉(LDL)コレステロール』。飽和脂肪酸をとればとるほど、血液中の悪玉コレステロールが増えてしまうのです」(増田さん、以下同)

 飽和脂肪酸を多く摂取すると、悪玉コレステロールを肝臓がうまく回収できなくなり、血液中に悪玉コレステロールが増えてしまうという。

 本来、コレステロールは身体に必要な物質だが、悪玉コレステロールが必要以上に増えると、血管にプラークと呼ばれるこぶができて血液の流れが悪くなる。その状態を動脈硬化といい、血管に関係するさまざまな病気のリスクを高めるのだ。

飽和脂肪酸が血管病を招く

 日本人の死因第1位はがん(27・6%)で、およそ3人に1人ががんで亡くなっている。2位の心疾患(15・0%)と4位の脳血管疾患(7・5%)は、心臓や脳の血管の異常で起こる病気で、心筋梗塞や脳卒中などのことをいう。

「心筋梗塞や脳卒中は病気の発生する場所は違っても、いずれも血管の異常で起こるので、ひとくくりに『血管病』と考えることができます。それらの死亡率を合わせると22・5%。およそ4人に1人が血管病で亡くなっている計算になるのです」

 血管病のもっとも大きな原因は動脈硬化で、悪玉コレステロールは動脈硬化のリスクを確実に高める。そして、食べ物に含まれるもののうち、悪玉コレステロールをもっとも増やすのが飽和脂肪酸なのだ。

乳製品には飽和脂肪酸が多い

 私たちの寿命に大きな影響を与える飽和脂肪酸について、厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準」では成人男女の摂取目標量を、総摂取エネルギーの7%以下と定めている。ところが、農林水産省の推計では、成人の平均摂取率は8・2%。とりすぎている人が多いのだ。

 1日の摂取目標の上限である7%は、その日どんな食材からどれくらいエネルギーを得たかによって変わってくるが、ごく大ざっぱにいうと10g前後とイメージするとわかりやすい。

 牛乳コップ1杯(200g)には、4・66gもの飽和脂肪酸が含まれる。牛乳だけでなく、牛乳を濃縮加工したマーガリンやバター、チーズなどの加工品にはより多くの飽和脂肪酸が含まれている。

 例えば、朝にヨーグルト1カップを食べて、昼に牛乳をコップ1杯飲み、晩酌でおつまみに6Pチーズ1個を食べれば、それだけで飽和脂肪酸を約9・2gとったことになる。

 飽和脂肪酸は肉や卵にも含まれているので、乳製品だけで9・2gとっていたのでは、簡単に上限の7%をオーバーしてしまう。

「実際、3810人を対象にした調査では、乳製品を週に7日以上摂取する人は、それ以下の人と比べて、悪玉コレステロール値が上昇するという結果が出ています。健康にいいからと牛乳や乳製品を毎日とっている場合はとりすぎの可能性があります

乳製品摂取の頻度が増えると悪玉コレステロールが上昇!

乳製品摂取の頻度が増えると悪玉コレステロールが上昇!

 19〜64歳の3810人を調べたところ、乳製品を食べる頻度が増えるにつれて悪玉コレステロール値が上昇していることがわかった

出典◎Huang LY, et al. Optimal dairy intake is predicated on total, cardiovascular, and stroke mortalities in a Taiwanese cohort. J Am Coll Nutr. 2014;33(6):426-36.

特に40代以上の女性は要注意!

 悪玉コレステロール値の男女別の平均を調べた調査では、男性は50歳前後がピークで、60代から数値が減ることがわかった。

 これに対し女性は、若いころは男性より悪玉コレステロール値が低いのに、40歳を境に急激に上昇し始める。40歳前後に約110mg/dLだった悪玉コレステロールが、60歳前後には約130mg/dLまで上がり、それ以降、男性よりも高い状態が続く。

 そして、悪玉コレステロールの急増に連動するように、女性の心筋梗塞は50代後半~60代で急増し、70歳前後にピークを迎えるのだ。

「悪玉コレステロールの基準値は140mg/dLなので、60歳前後にかけて急上昇するといっても、健康診断では『問題なし』とされるレベルです。しかし実際には、40歳から60歳の間に悪玉コレステロールが急激に増えると、その後、心筋梗塞のリスクがぐっと上がってしまう。女性は男性と比べると若いときはやせているけれど、40歳ごろから急に太りだす傾向にあります。それにつられるように急増していく悪玉コレステロールをいかに抑えるかが、4人に1人の死因である“血管病”を予防するカギとなるのです

普段の食事でちょっとした工夫を!

 悪玉の急増を抑えるために気をつけたい飽和脂肪酸だが、普段の食生活でどう減らせばいいのだろうか?

 牛乳やヨーグルトを健康のためにも毎日とりたい場合は、商品の選び方をちょっと工夫するだけで大きく減らすことが可能だ。

 例えば、ひと口に牛乳といっても、普通の牛乳はコップ1杯あたりに含まれる飽和脂肪酸が4・66gなのに対し、乳脂脂分を減らした低脂肪タイプのものは1・34g。牛乳を飲む習慣がある人は、低脂肪に変えるだけで飽和脂肪酸の摂取量を3分の1以下に減らすことができる。

 ヨーグルトなど、ほかの乳製品も低脂肪タイプの商品が出ている場合があるので、食べたいときは脂肪分の少ないものを選ぶのがおすすめ。

 また、飽和脂肪酸は肉にも含まれている。特に脂身に多いので、サシたっぷりの霜降り肉や脂身の多い豚バラ、鶏肉の皮などにも要注意だ。

「もちろん、乳製品も肉も大切な栄養素を含んでいるので、食べていけないわけではありません。食べる頻度を気にしたり、飽和脂肪酸の少ない商品や部位を上手に選ぶことで、リスクが上がってくる40歳以降の大事な時期を健康に過ごしていただければと思います」

乳製品に多く含まれている飽和脂肪酸

乳製品には飽和脂肪酸が多く含まれている! 

●牛乳コップ1杯 4.66g
●6Pチーズ1個 2.7g
●ヨーグルト1カップ 1.83g

出典◎日本食品標準成分表2020年版(八訂)
※上の数値は低脂肪タイプではないものの目安

教えてくれた人……増田大作さん●りんくう総合医療センター循環器内科部長兼りんくうウェルネスケア研究センターセンター長。長年にわたって、コレステロールなどの脂質代謝や動脈硬化の研究に携わっている。

(取材・文/木村彩)