おうち時間が長くなり、お風呂上がりや寝る前にやっている人も多いストレッチ。実は、大多数の人が間違ったやり方でストレッチをしている!せっかく時間をかけてやっても効果があるどころか、脱臼や骨折の危険性も……。思い当たる動き、ありませんか?
ストレッチは、体力や年齢に関係なく、誰にでも日常的にできる運動だ。身体にムリなく気軽にできて、リフレッシュ効果もあるので行っている人も多いだろう。また、ストレッチは筋肉や関節の柔軟性を高めるので、本格的な運動をする前にも有効だ。
いいことばかりに思えるストレッチだが、意外な落とし穴があるという。
「日本では、多くの人がストレッチを間違ったやり方で覚えてしまっています。例えば、学校の体育などでは身体の柔らかさを測るために台に乗って立ったまま前屈を行うことがよくありましたが、これは今では危険なので、もう行われていません。
間違ったやり方でストレッチをしても、効果が得られないどころか、最悪の場合には脱臼や肉離れの危険まであります」というのは、スポーツトレーナーでストレッチに詳しい坂詰真二さんだ。
柔軟性というのは関節の可動域の広さのことだが、それを決めるのは、おもに関節を支える筋肉。ストレッチは、この筋肉を伸ばして関節の可動域を広げる運動だ。しかし、間違ったやり方で関節にねじりを加えたり、強い力で無理な負荷をかけたりすると、筋肉を伸ばしすぎて痛めてしまう危険性がある。
ひどい場合は脱臼や筋肉を傷つけてしまうケースも。特に女性はホルモンの働きで関節が柔らかい傾向があるため、脱臼の危険性が高く、注意が必要だという。
坂詰さんに、そのなかでも特に注意すべき“やってはいけないストレッチ”を6つ挙げてもらった。
少しでも痛いのは逆効果!
ストレッチというと、多少の痛みを伴わないと効果が得られないと思っている人もいるが、それが大きな間違いだと坂詰さんはいう。
「日本ではひと昔前まで、学校の体育の授業や部活動でストレッチを行う際に、多少痛いところまで頑張って伸ばすという風潮がありました。その感覚を今も引きずっている人が多くいます。しかし、痛みは関節に無理な負荷がかかっている証拠で、それ以上続けるのは危険です。しかも痛みを感じると交感神経が働いて筋肉を緊張させ、伸びを妨げるため、まったくの逆効果になってしまいます」
ストレッチは、痛みを感じる手前の“気持ちイイ”ところで止めるのが正解だ。また、痛みなどのネガティブな感覚を伴うと習慣化しにくいという弊害もあるため、注意したい。
子どもに押してもらうのは危険!
運動不足で筋肉や関節の柔軟性が低下している人や、もともと関節の硬い男性などは、自分ひとりで伸ばしにくいと思い、家族などに押してもらってストレッチを行うケースもある。しかし、これが関節を痛める原因になりかねないという。
「身体の構造を理解していない人がストレッチで相手の身体を押すと、必要以上に強い力を加えがち。関節に痛みを感じたときには筋肉が伸び切っていて手遅れ、なんてことにもなりかねないため注意が必要です」
身体が硬くても自力で可動域は十分広げられるため、必ずしも押してもらう必要はない。
「本来はプロトレーナーなどスキルがある人にお願いするのが理想ですが、家族などに頼む場合は、しっかりコミュニケーションをとりながら、加減して少しずつ力を加えてもらいましょう」
他人の力を借りたストレッチというのは、実は危険なのだ。
180度の開脚は構造上ムリ!
2016年に出版された開脚をすすめる本がベストセラーになったこともあり、女性の間で180度の開脚を目指す人が増加した。しかし、無理な開脚は大きな危険を生むと坂詰さんは警鐘を鳴らす。
「そもそも120度以上の開脚は、日常生活や運動でも必要がなく、ほとんど無意味です。しかも人間の動作は基本的に前後方向なので、左右の動きやひねりに対しては関節の可動範囲が狭く、無理な開脚は危険。特に女性は関節が柔らかく、180度の開脚など無理なストレッチは脱臼のおそれもあり、大ケガにつながりかねません」
股関節が180度開くのは柔軟性があるからというより、無理な訓練の結果。ヨガの先生やアスリートでも股関節を痛めることが少なくないという。無意味な憧れで大ケガ、なんてことは避けたい。
意識すると筋肉は伸びない
筋トレでは鍛える筋肉を意識するようにとよくいうが、ストレッチでは逆効果になるという。
「筋肉を意識すると、筋力は高まりますが、そのぶん力が入って伸ばしにくくなります。むしろ、ぼーっとしながら身体の力を抜いた状態でストレッチを行うほうがずっと効果的です」
そもそも筋肉は収縮することはできるが、それ自体に伸びる機能はない。意識しても伸びるわけではないのだ。
寝起きはストレッチに最も向かない
朝イチでストレッチ、と聞くと健康的な感じがするが、実は筋肉を伸ばす意味では、体温の低い起床後は最も非効率な時間帯だという。
「筋肉には体温を作り出すという役割もあるので、筋線維は寒いと熱を生みだそうと収縮するのですが、温まると脱力して伸びやすくなります。そのため、ストレッチは自律神経の働きで体温が高まる16時前後がベストのタイミングです」
ほかにも、通勤・通学・掃除後なども体温が上昇しやすいので効果的。もちろん入浴後に行うのもおすすめだ。
ただし、朝イチのストレッチは、心身を覚醒させ、消費エネルギーを増やす効果があるため、まったくの無意味というわけではない。目的によって使い分けるのがよさそうだ。
昔のやり方は超危険だった!
学校で身体の柔軟性を測定するために、台の上に立って前屈をしたことがある人も多いだろう。前屈はお尻やもも裏を伸ばすストレッチだが、立った状態で行うと非常に危険だという。
「昔のやり方には危険なものが多くありますが、立ったまま行う前屈はその代表。体勢が不安定なうえに、頭を上げたり下げたりするので、立ちくらみを起こして転倒事故を招きやすくなります。最悪の場合は骨折するケースも。しかも、伸ばしたいはずのお尻ともも裏の筋肉で体重を支えているので力が入ってしまい、ストレッチとして効率が悪いです。そのため、現在は学校でもこの方法は一切行われていません」
前屈の正しいやり方は、座って足を前に伸ばし、重ねた座布団など少し高い段差に腰を置いて、ゆっくり体重をかけながら足先に向かって手を伸ばすこと。お尻やもも裏に力を入れず、上半身の重さを利用して伸ばしていくのがポイントだ。
よくやる間違いで脱臼の危険が!
もうひとつ注意したいのが、ストレッチのポーズを間違えて脱臼の危険を伴うケース。
「勘違いされて行いがちなのが、壁に手をついて胸筋を伸ばすポーズです。正しくはひじを伸ばして行いますが、ひじを曲げたまま行って肩関節にひねりを加えてしまう間違いが多く見られます。肩関節を脱臼する危険があり、注意が必要です」
ストレッチの代表格も間違っている!
そして最後は、ストレッチの代表格のような存在の腕を使い肩を伸ばすポーズだ。
「胸の前で腕を交差し、肩まわりの筋肉を伸ばすポーズですが、なぜか昔から腕を水平に引き寄せるという間違ったポージングが浸透しています。しかし、水平方向だと肩はきちんと伸ばせないため非効率。正しくは手のひらを上に向けて逆側の腕に乗せ、下から上に向かって引き上げながら伸ばします」
このように、昔習ったなじみのあるストレッチポーズにも、危険で効率の悪いものが多くある。
ストレッチは、正しく行えばリラックス効果も高いため、自粛疲れでストレスがたまっている人にもおすすめだ。ぜひ正しいやり方を意識して、ケガをしないよう注意してほしい。
(取材・文/井上真規子 イラスト/関祐子)