朝ドラ『おかえりモネ』の主役をつとめる清原果耶さんの魅力を徹底解説

 10代は小さな絶望の連続だ。何者でもない自分にいちいち絶望し、言葉にならない苛立ちや不安を抱え、夢や希望や可能性が少しずつ削り取られていく。それでも諦めるのはまだ早いと言われ、頑張ることしか要求されず。覇気がないとダメ出しされて、諦観も達観もできない自分をもてあまし、斜に構えてしまう。思春期のモヤモヤは「未完成の自分に対するジレンマ」である。

 そんな未完成な人物を、こうも繊細に表現できるものかと思う俳優がいる。清原果耶だ。瞬時に見せるむき出しの感情にはっとさせられたかと思えば、内に秘めて煮込みすぎたような、言葉にならない感情を繊細にあぶり出すときもある。現在、NHKの朝ドラ『おかえりモネ』でもヒロインを演じている清原の「未完の魅力」について振り返ってみようと思う。

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女中→妹→ヒロインへの跳躍

 清原と言えば、全国的には朝ドラのイメージが強い。

 まず、2015年の『あさが来た』では、ヒロインのおつきの女中・ふゆを演じた。ヒロインの夫・新次郎(玉木宏)にほのかな恋心を抱く、近年まれにみる純粋な女中の役だった。そして『なつぞら』(2019年)ではヒロインの生き別れの妹・千遥(ちはる)の役。天涯孤独の人生を幼い時に強いられた、やや陰のある娘だった。

 天真爛漫かつ順風満帆なヒロインとの対比で、朝ドラには不可欠な「不遇な女子」を演じてきた清原。ある意味で、ヒロインより思いを寄せてしまうというか、印象に残る役どころといってもいい。なんとなく、ふゆちゃん、ちはるちゃんと役名が出てくるしね。

『おかえりモネ』では念願のヒロイン・百音(ももね)に昇格。ただし、通常の朝ドラヒロインにありがちな元気はつらつ、ではない。東日本大震災で何もできなかった自分に対して無力感を抱えた、ちょっと鬱屈トラウマ系ヒロインなのだ。

 この3段階の跳躍には納得がいく。清原はモヤモヤ表現の天才なので、カラ元気の押し売りみたいなヒロインだったらどうしようと思っていたから。定番の朝ドラが好きな人は「モネはモヤモヤしすぎ!」と思うかもしれない。

 私もどちらかといえば、ガッツと気骨があふれるド根性ヒロインのほうが好きなのだが(『カーネーション』の尾野真千子とか『ごちそうさん』の杏とか『スカーレット』の戸田恵梨香とか『おちょやん』の杉咲花とかね)、清原のモヤモヤは決して嫌いじゃない。そのモヤモヤがスッキリと晴れ渡る日を心待ちにしているのだ。

 宮城県気仙沼市の亀島で育った百音は、森林組合で働き、山と樹木について学ぶうちに気象にも興味をもつ。海で育ち、山を知り、すべては気象とつながっているからだ。さらには災害から大切な人を守りたいという強い気持ちも根底にある。

 気象予報士の資格をとって、現在は東京で働いているが、モヤモヤの偏りが空回りしているところ。同じ気象予報士の同僚(今田美桜)から「なんかちょっと重いよね。人の役に立ちたいとかって結局自分のためなんじゃん?」と言われる始末。

 時折、百音がムキになって見せる表情には、厄介な一本気というか青臭さを漂わせる。それこそが未完の魅力のひとつでもある。この後、仕事に恋に、そして無力感やアイデンティティはどうなることやら。心配でもあり、楽しみでもある。

おとなしくないモヤモヤ

 きちんとそろった前髪、サラサラと風にそよぐ長い黒髪。おとなしくて聡明で優秀な女子感を醸し出す清原だが、まあ、生意気でこまっしゃくれた思春期を画面いっぱいにぶつけてくるときもある。

『俺の話は長い』(2019年・日テレ)では、主人公(全力で働かないニート・生田斗真)の姪っ子役。理由なき反抗で不登校になっていたが、母(小池栄子)の実家で一時的に仮住まいを始めてから急に学校へ行き始める中学生だった。

 ニートの叔父(生田)、元ヒモで急に会社をやめた父(安田顕)、多忙なキャリアウーマンで案外ゲンキンな母(小池)、喫茶店を営む優しい祖母(原田美枝子)とともに過ごし、思春期のモヤモヤを少しずつ咀嚼していく役どころ。冷めた視点で家族を見つめるも、カニが大好物で食欲だけには忠実。幼さを残しつつも、家族内で最も達観を見せた。親からすれば、子供の思春期は「欺く側から欺かれる側へ」の端境期。ちょうどその地点を演じた清原がしっくりハマっていた気がする。

 口の減らない生田と小池が、基本的におとなげなく、しょうもないことで姉弟喧嘩になる展開はもはやセッション。手練れが繰り広げるテンポのよい会話劇に、清原は不可欠な存在だった。ヤスケンとの父娘関係も「大好き、パパ!」みたいな嘘くさい甘ったるさは1ミリもなく、ちょうどよい距離とそれぞれの沽券を保ったままで展開。清原は数多いる10代の女優の中でも最高に適役だったと思う。

 もうひとつ。映画『まともじゃないのは君も一緒』では、べらっべらしゃべる割に意外とふんわりして具体性がない、いまどきの女子高生の役だった。予備校の先生である成田凌を舌先三寸で巻きこんで、自分の恋をアシストさせようと企む。また、女性経験のない数学オタクの成田に恋愛指南をするも、うっかりうまくいきそうになって逆に焦りを覚える……そんな恋模様を描く作品だった。

 清原のマシンガントークは自然体で、ようしゃべる役も心地いいなと思った。ちっともおとなしくなんかない、ませた女子高生で、大人を手玉に取る作戦まで完璧に練る策士。

 それでも成田に対して芽生えた気持ちに戸惑ったり、憧れのおもちゃメーカーの社長(小泉孝太郎)にホテルに誘われてついていく稚拙さもある。青春ラブストーリーと敬遠していたら損をする、丁々発止がおかしくて笑える映画だった。ああ言えばこう言う、1秒も黙っちゃいない清原は、有望なコメディエンヌとして評価したい。

Netflixで見せた彼女の狂気

 で、ぜひ観てほしいのは、清原の狂気。正統派美少女がもつ狂気がすごいのなんのって。『宇宙を駆けるよだか』(Netflix)は、清原と富田望生の「女子高生入れ替わりファンタジー」なのだが、ふたりとも強烈な印象を残した。

 清原は裕福な家庭に育ち、明るくて優しい人気の美少女優等生・あゆみの役。富田は母親(『ふぞろいの林檎たち』の中島唱子!)とアパートに二人暮らしで半ばネグレクト状態、容姿と根の暗さからかなり卑屈になっている然子の役。然子がある現象を利用して美人のあゆみと入れ替わるという、少女漫画独特の残酷な設定だが、いい芝居してんのよ、ふたりとも!

 劇中、清原が然子を、富田があゆみを演じる時間のほうが長く、性格がひねくれて憎悪に満ちた清原をたっぷり堪能できる。人を押しのけ、ドタドタと歩きまわり、爪を噛んで世を呪いちらかす清原には、なかなかの迫力があった。ちょっとサイコホラー感もあって、鳥肌モノである。

 そういえば、映画『ユリゴコロ』でも、吉高由里子の少女期を演じていて、おぞましさにぞっとした記憶がある。残虐な行為でようやく喜びの感覚を掴んだサイコパス少女の役だ。側溝に落ちた帽子を取ろうとした少年の上に、思いっきり鉄板を落とすシーンは強烈だった。適役といったら嫌がるかもしれないが、本当の狂気って表面上に出てこないからこそ怖いんだよなぁと痛感したくらい。

 調子に乗ってもうひとつ、狂気作品を。『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(WOWOW)の第3話「罪深き女」では、また異なる狂気を見せた清原。

 同じアパートに住む男の子が派手な母親(水崎綾女)に虐待されていると思い込む女子高生の役だ。自分も生真面目な母親(坂井真紀)と二人暮らし。シングルマザーに育てられているという同じ境遇に共感を覚え、守ってあげようとするも、実際はおおいなる勘違い、そしておぞましい事実があったというストーリーだ。

 激しい思い込みで慈愛に満ちた姉気取りの清原は、かなり怖かった。間違いなく狂気であり、物語の続きを想像したものの「たぶんこの娘に救いはないだろうな」と思わせた。母と娘の悲しい負の連鎖に、虚しさを覚える問題作でもある。原作は湊かなえ、ってところで、後味の悪さを想像してほしい。

今後の活躍に期待できる女優の1人

 ちょっと振り幅の大きい作品ばかりを挙げてしまったが、まずは主演作で彼女の実力を目の当たりにするほうが手っ取り早い。産婦人科医院で看護師見習いを演じた『透明なゆりかご』(2018年・NHK)は必見。妊娠・出産を綺麗事では終わらせず、手厳しい現実と向き合う清原の真摯な姿が胸を打つ。号泣必至なので、ティッシュ箱抱えて観てほしい。

 また、『螢草 菜々の剣』(NHK BSプレミアム)では、父は不正の濡れ衣を着せられて切腹、母は病で亡くなり、女中奉公に出る武士の娘役。本懐は「父の仇討」だが、父だけでなく奉公先の夫婦(町田啓太&谷村美月)への忠誠心が物語の主軸となる。

 清く賢く辛抱強いヒロインは頼もしかったし、殺陣も想像以上にキマっていた。武士の娘として、女中(というか乳母)として、そして剣士としての要素を完璧に満たした。この役に関しては未完ではなく完成形だったなぁ。

 すでに、代表作と言える作品がいくつもある清原だが、今後も倦まず弛まず良質な作品に出てほしいし、モヤモヤやジレンマをぜひ抱え続けてほしいとも思う。


吉田 潮(よしだ うしお)Ushio Yoshida コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。