ただでさえ難しいと言える女性同士のつきあい。特にママ友というと、年齢から、学歴、出身地とバックグラウンドがそれぞれ異なるため、価値観の違いから意見の相違もみられがち。ライターでママ友研究家でもある筆者が、そんなママ友づきあいに悩んでいるママにスポットを当てます。
不安の中の育児で、ママ友ができた喜び
首都圏で1歳の女児を育児中の光代さん(仮名・34歳)は、専業主婦のため自宅育児をしています。
「去年の7月に出産しました。まだワクチン接種もできない時期だったので不安も大きかったですが、近所の産婦人科で出産しました。産後は地域センターや、母親学級などの行事もコロナで中止が相次ぎ、ママ友が近所にいないのが悩みでした」
光代さんは、友人が主催した飲み会で出会った男性と、31歳の時に結婚。
「ちょうど周りがどんどん結婚しだしていたので、焦りもありました。旅行情報のサイトのディレクターをしていたのですが、裁量労働制で残業時間も毎月20時間を越えていて。身体への負担も感じていたので、結婚して半年ほど経ったときに退社しました」
退社後は、派遣社員として財団法人で事務の仕事をしながら、妊活に取り組みました。
「妊活と言っても、お互いの健康上に異常はなかったため、タイミング法と呼ばれる、妊娠しやすい日に子作りを行う方法を試していました。そのため、仕事を定時に終えて妊活していました」
無事に赤ちゃんを授かった光代さん。妊娠をSNSで報告すると、新卒で入社した企業で同期だった果歩さん(仮名・34歳)からメッセージが届いたそうです。
「果歩さんは、私よりも先に会社を退社していたため、しばらく会っていませんでした。でも彼女も専業主婦で、3歳になる息子さんを育児中だったのもあり、すぐにSNSのメッセージからLINEのID交換をして、会う約束をするようになりました」
そして出産前に、果歩さんとお茶をしたそうです。
「ちょうど果歩さんは2人目を妊娠中で、『同じ学年だね』と言って盛り上がりました。私は初めての妊娠で不安だったので、彼女の存在がとても心強かったんです。『◯◯ベルトっていう腰を支えるベルトがあるといいよ』とすすめてくれたり、果歩さんの細やかなアドバイスをありがたく思っていました」
徐々にマウント発言が気になるように
しかし、果歩さんのアドバイスに違和感を覚えることもあったと言います。『食育』という言葉があるように、食材にこだわるママも多いようですが、果歩さんもその一人だったようで、
「彼女は妊娠や出産で買い出しが大変なのもあり、この数年間は、無農薬野菜などの宅配を利用しているそうです。私の妊娠がわかったとき、『〇〇って知っている? 私も利用しているんだけれど、すごく便利なんだよ』とすすめてきました。ありがたいなと思いつつ、私は決められた食材で料理を作るのが苦手だったので断ったのですが、それでもしつこく『自分で買い物に行くの、大変じゃない? 旦那さんが嫌がっているのなら私が説得してあげるよ』と、かなり強引にすすめてきて困りました」
さらに、出産後は光代さんの育児に対して、なにかと上から目線の発言が気になるようになります。
「私は妊娠中はカフェインも控えて飲み物にも気を使っていましたが、果歩さんと息子さんがうちに遊びに来たときに、子どもがどういう飲み物を飲むのかわからなかったので、オレンジジュースを用意したんです。すると果歩さんは『うちの子には一切甘味料などの入ったジュースは与えていないからいらない』って言ってきたんです。しかも、用意したジュースの成分表示を見て『これ、〇〇が入っているから口の中がベチャってするんだよ』とダメ出しもされました。一旦、出したジュースをしまおうとすると、彼女の息子がすごく悲しそうな顔をしたんですよね……」
果歩さんの発言はまだ続きます。
「彼女は普段はお菓子なども全部手作りをしていて、『私は育児にストイック』と言っていました。それなのに、眠る前には晩酌をしているというんです。私が『妊娠中なのに、飲酒しているの?』と驚いたら、『飲酒は大丈夫なんだよ』とケロっとした表情で言いました」
一般的に、胎児への悪影響を考えて妊娠中はお酒を控えるべきと言われていますから、光代さんは驚きを隠せなかったそうです。
母乳が出づらいのに母乳育児の大切さを説かれて
その後、光代さんは産後に母乳が出なくて困っていました。母乳についてはデリケートな話題のため、同じ育児中のママにしか相談しづらいものかもしれません。光代さんはつい、その悩みを果歩さんにメッセージで打ち明けてしまい、後悔したと言います。
「母乳育児は向こうが先輩だったので、こうすればいいというアドバイスをもらえると思ったんです。彼女は『完母』と呼ばれる“完全母乳”で、ミルクを飲ませない方法を行っていました。私が赤ちゃんにミルクを与えていると知ると、『弱い子どもになる』と決めつけてきました。そして母乳が出るようになる◯◯式という方法をすすめてきたんです。もちろん、そのやり方でうまくいったママ友もいたのですが、“母乳が出ないとダメだ”という彼女の言い方に傷つきましたね……」
加えて、母乳が出にくいママにとっては、哺乳瓶でミルクを与えることに罪悪感を抱くケースもあるそうです。
「果歩さんと出産後にショッピングモールで会ったときなど、自分は母乳が出なかったので、果歩さんが目の前で授乳をしているのを見るのがつらいこともありました」
と光代さんは話します。
このように、相手よりも経験があることに対して、親切のつもりで自分のやり方をすすめてしまうのは、特にママ友同士ではよくあることだと思います。
育児は時代によって対処法が異なることもあります。例えば、ここ数年では液体ミルクが商品化されたり、抱っこ紐での抱っこの仕方が、対面ではなく赤ちゃんが正面を向く抱っこの仕方になったりと、その時々によって変化していきます。妊娠や育児に関しては、それぞれ価値観などが違うため正解はないと言えますから、子どもや周りに自分のルールを押しつけると、嫌がられる要因になることもあるでしょう。
とにかく自分の意見が正しいと思ってひかない、果歩さんのようなママ友とのつき合いは、相手に合わせていると疲れてしまうかもしれません。子どもの通っている学校が変われば会う機会も減りますから、ママ友関係は学生時代の友人とは違い、あくまで子どもを介した付き合いと割り切ることも大切です。すべてを取り入れるわけではなく、参考にできることは話を聞いて、あとは受け流すような距離感の取り方が必要ではないしょうか。
池守りぜね◎東京都生まれ。フリーライター。大学卒業後、インプレスに入社。ネットメディアで記者を務めた。その後、出版社勤務を経て独立。育児、グルメ、エンタメに関する記事のほか、インタビューも多数執筆。『一瞬と永遠』、『絶叫2』など、映像脚本も手掛ける。プライベートでは女児のママ。Twitter:@rizeneration