1997年からTBS系で放送されていた『学校へ行こう!』。みのもんたやV6が出演して、学生を応援する人気コーナーが多数あった。中でも、2002年から始まった、出演者がオリジナルのラップや替え歌を披露し、V6がそれを見守るコーナー『B‐RAP HIGH SCHOOL』は、当時の学生たちの間で大きな話題を呼んだ。
『軟式globe』や『Co.慶応』などの数多(あまた)の名物キャラの中で、ひときわインパクトがあったのが、尾崎豊のヒット曲の替え歌を披露していた尾崎豆(まめ)。オーディションをきっかけに出演することになったが、その経緯というのが……。
「当時、今みたいにインターネットでの受付がなくて、応募するにはハガキを書かないといけなくて。それが面倒くさかったので、TBSの苦情センターに電話をかけました。“苦情なんですが、『学校へ行こう!』のスタッフルームにつないでもらえますか?”と頼んで取り次いでもらって、オーディションを受けたいことを伝えました」
手を抜いたように聞こえるが、意外な近道だったようで、翌日のオーディションへ参加することに。
「フリップネタと、尾崎豊さんの替え歌を披露しました。フリップネタはディレクターさんにウケなかったのですが、替え歌になると、急に真剣な表情に変わったのを覚えています」
君の名前は今日から「尾崎豆」
なんとも気になる反応だったが、結果はその場では伝えられず。TBSから帰ろうとしたときに転機が訪れる。
「スタッフさんが追いかけてきて“土曜日、空いていますか? 収録が夜から始まるので来てください!”と声をかけていただきました。後から聞かされましたが、もともと“尾崎豊のミニ版”をできる人を探していたらしくて。それで“君の名前は今日から尾崎豆”と言われ、ジーパンと白いTシャツを持ってくるように指示されました」
晴れて2003年4月に『B‐RAP』への初登場を果たす。
「最初は不安でしたね。尾崎豊さんのファンから、苦情が来るんじゃないかと……」
そんな不安をよそに、瞬く間に人気者になっていった尾崎。「盗んだバイクを買わされた」など、印象的なフレーズの多い替え歌の作詞はどうやっていたのか。
「最初の3~4曲は、自分でつくっていました。その後は、週に1曲のペースでつくらないといけなかったので、とてもじゃないけど無理で……。結局、作家さんをつけていただきました。尾崎豊さんのどの曲で替え歌をするのかも、スタッフさんから指示がありました」
曲をつくるだけでなく、覚えるのにも苦労したという。
「僕は物覚えが悪かったので、作家さんが書いてくださった歌詞をなかなか覚えられなくて……。カメラの横にずっと歌詞のカンペを出してもらっていましたが、NGがすごく多かった。ほかの出演者よりも、断然多かったですね」
収録は、丸1日かけて行われていた。『B‐RAP』の出演者たちは、大部屋の楽屋に集められた。
「土曜の夜から日曜の夜でしたが、僕は何テイクも撮り直して、みなさんに迷惑をかけていたので、ほかの人の撮影が終わるのを待っていました。当時の僕は体重が42kg、体脂肪率2%のガリガリだったので、スタジオはすごく寒く感じたことを覚えています。放送では手元はあまり映っていませんが、震えながら歌っていました」
歌う前、意気込みや曲のテーマなどをモニター越しのV6メンバーとやりとりするのもコーナーの定番。尾崎のキャラクターに爆笑していたV6が印象的だったが、これも何テイクも収録していた。
「ディレクターに、だいたいの流れを書いた紙を渡されましたが、そのとおりにはならなかったですね。ディレクターが気に入らないと止められて、何テイクも撮り直しました」
それでも『B‐RAPリクエストアワード』という投票企画で1位を獲得するほどの人気だった尾崎は、歌以外にも出番が与えられた。V6の坂本昌行、井ノ原快彦とのミニコントに、MISIAをもじった名前で個性的なキャラのMUSIA(ムーシャ)とともに参加した。
「コントの内容は、おそらく、坂本さんと井ノ原さんはスタッフさんと打ち合わせをしていたと思いますが、僕たちはアドリブでした」
坂本から「頑張っているな!」
尾崎の“アドリブ演技”にはV6からも褒め言葉がかけられた。
「坂本さんに“ちゃんと演技してるな! 頑張っているのが見えるよ”と褒めていただけてうれしかったです。“おい、MUSIA! 豆はもうちゃんと演技に入ってるよ!”と、MUSIAをイジるようなことも言っていましたね」
夏休みをとるみのもんたの、代理MCにも抜擢された。
「MCをやると聞いたときはすごく嬉しかった。でも、“次のコーナーはこのコーナーです!”と言う以外、あまり喋らせてもらえなくて寂しかったですね。せっかくの機会なので、喋りたかったです」
悔しさを滲ませるも、この収録をきっかけに、突如ギャラがアップしたという。
「最初は1万円でしたが、代理MCのときから急に3万円になり、その後ずっと3万円でした。特にお知らせなどはなく、いつの間にか振り込まれる金額が増えていたんです」
増えたのはギャラだけでなく……。
秋のSPで「V6と再会」の夢
「収録を終えてTBSの外に出ると、女の子たちがたくさん待っていたんです。V6さんの出待ちだろうと思っていたら、僕の出待ちでビックリしました。東京駅まで一緒に電車で帰ることにしたら、日曜日だったのに僕のいる車両だけ満員になって……。近くにいたおじさんが“日曜日なのにどうして混んでいるんだ!”と言っていて、あのときの経験はまるで夢みたいでしたね」
そんな夢の時間は儚く、告知のないまま『B‐RAP』は突如、終わりを迎えた。
「『B‐RAP』のコーナーが終わることは聞かされていませんでした。“今回の収録が最後です”といった話もなく、いま思えば扱いが雑ですよね(笑)。現場で泣いているADがいたので、違和感はありましたが……」
この秋には『学校へ行こう!』3時間スペシャルが放送される。
「秋の復活は、まだお話はいただいていないですね。同窓会みたいなものがあったらうれしいですけどね。せっかくならV6さんと再会したいです」
今でも連絡を取り合うこともあるという『B‐RAP』のメンバーたち。まさしく、そこは彼らにとっての学校だった。