「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
山口もえ、辺見マリ

第64回 山口もえ

《山口もえ、コロナ感染きっかけに「霊能力者」に心酔 田中裕二も困惑》と2021年9月23日号『女性セブン』が報じています。

 本当だったらヤバい話ですが、記事をよく読んでみると、もえの夫である爆笑問題・田中裕二の所属事務所あてに「霊能者A氏にかかわるな」という忠告の電話がかかってきたことは太田光代社長が認めているものの、A氏ともえが接点を持っているはっきりした証拠というべきものは見当たらないように感じました。

 山口もえと言えば、2005年に番組で共演したIT企業の社長と結婚。しかし、夫は会員制高級クラブを無許可で営業、2011年に風俗営業適正化法違反で逮捕されています。同年、もえは離婚。2015年には爆笑問題・田中裕二と再婚しました。

幸せな人が霊能者にハマるのかという疑問

悪天候でも気分が踊る、田中裕二パパ

 もえには前夫との間に二人のお子さんがいますが、『婦人公論』(2016年3月8日号)のインタビューによると、お嬢さんが田中をパパと呼んで抱き着いたことで、「私たちは家族になれる」と感じ、再婚に踏み切ったとのこと。子どもを連れての再婚というのは、いろいろ難しい部分もあるでしょうが、田中は“なさぬ仲”の子どもたちと良好な関係を築き、お子さんも生まれています。『週刊女性』(2021年9月14日号)によれば、7億円といわれる豪邸も建設したそうです。

 しかし、ちょっとしたアクシデントもないことはないのです。昨年の8月、もえは新型コロナウイルスに感染、夫の田中も感染して家族全員で入院しています。今年の1月には田中がくも膜下出血および脳梗塞に見舞われましたが、無事に回復しています。

 私の友人は「健康面では多少のトラブルがあっても、無事に回復しているわけだし、再婚して豪邸だって建てた。そんな幸せな人が霊能者にハマるかな?」と不思議がっていましたが、実際にもえがハマっているかは別として、「経済的に恵まれて家族も円満な人に、ちょっと何かがあったとき」というのは、実は不安になりやすいときではないかと思うのです。

長男のリュックをカゴに入れて自転車をこぐ山口もえ('21年8月)

余裕があるからこそ不安を感じてしまう

 まず、お金がないときはお金をかけて何かにハマるだけの余裕がありません。また、家族が闘病の真っ最中は不安になっている暇はなく、目の前のことをこなすだけで精一杯になるでしょう。ところが、お金がある人がちょっとしたトラブルを経験して、そこを切り抜けた状態のときは、よくも悪くもいろいろ考えてしまう余裕があるわけです。「今回は大丈夫だったけど、もしこの幸せが失われたらどうしよう」と思ってしまったら、ささいなことにも不安を感じてしまうのではないでしょうか。

 私たちは、自分が思っているよりも不安に弱いものです。たとえば、YouTubeを見ていると、「シミだらけの妻だと、夫は若い女性と不倫をする(だから、このクリームを買え)」「妻が太っていると、セックスレスになる(だから、このダイエット食品を買え)」といった類の広告を目にすることがあります。外見上の欠点を指摘してコンププレックスを刺激し、「それを放置しておくとこんな悪いことが起きる」と不安をあおるCMが多いのは、そうすることで売り上げが伸びるからであり、それは、私たちが不安に弱いことの表れではないでしょうか。

 不安というのは、性格の問題と思われがちですが、実はホルモンとも大いに関係があります。セロトニンというホルモンは感情を安定させる働きがありますが、このセロトニンが低下すると攻撃的になったり、反対に不安やうつになりやすくなるとされています。女性ホルモンの分泌が低下すると、セロトニンも低下しますので、女性ホルモンの分泌が変化しやすい女性は、不安になりやすいと言うことができます。

 加えて、新型コロナウイルスはいつ収束するのかは見当がつかず、経済的な打撃を受けている人もいるでしょう。子どもの感染も増えてきましたから、特にお子さんを持つお母さんは気が気でない、不安な日々を過ごしているのではないでしょうか。

 このように今は不安要素がとても多い時代と言えるでしょうが、もう1つ、人を不安に陥れるものとして、「思考のクセ」をあげることができます。心理学では「認知のゆがみ」と呼んでいますが、クセのある解釈をすることで、不安が増殖してしまうのです。

 歌手・辺見マリは2015年9月14日放送の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)で、拝み屋にだまされて5億円ものお金をだまされてしまった経験について明かしています。当初は拝み屋を信用していなかったマリですが、一気に洗脳されていったきっかけは、拝み屋に「娘であるタレント・辺見えみりの目が見えなくなる」と言われたことでした。当初は全く信じていなかったマリですが、実際にえみりが近視になり、視力が落ちてきたこともあって、一気に信用することになってしまったそうです。

 被害にあった人を例にするのもなんですが、マリのエピソードにも「認知のゆがみ」が潜んでいます。「えみりが近視になって、視力が落ちたこと」は、拝み屋の言うとおり、「えみりの目が見えなくなる」を意味するのでしょうか?

 近視の人は多いと思いますが、眼鏡やコンタクトレンズを使えば視力を補うことは可能ですし、定期検診を受けて何か違和感があったときに眼科医に相談すれば、ほとんどの場合は失明を避けられるはずです。近視が原因で「視力が落ちる」ことと「失明する」ことはイコールではないのに、そう思ってしまう。

「不幸の盛りグセ」に注意

 欠点を必要以上に大きくとらえてしまうことは「認知のゆがみ」の一種で、拡大解釈と呼ばれています。私はこれを「不幸の盛りグセ」と呼んでいますが、身近な例で言うのなら、彼氏があなたではない見知らぬ女性と街を歩いていたところを目撃してしまったとします。これを「浮気だ!」と決めつけることが、拡大解釈に当たります。職場の同僚とばったり出会って一緒に歩いていたなど、いろいろ可能性はあるわけですから、結論づけるには早すぎます。「いい方向に考えろ」という意味ではなく、「すぐに決めつけない」「ワンクッションおいて判断する」ことがポイントです。

 今更こんなことを言ってもどうにもなりませんが、辺見マリのケースで言うのなら、えみりの失明が怖いなら、視力が落ちてきたとわかった時点で、眼科の先生に相談すれば、洗脳されて5億円もお金を取られることはなかったかもしれません。「いつもと違う」ことを「悪いこと」と決めつけるクセがつくと、今のように先が見えない時代は、「悪いこと」だらけに思えて、不安が強くなってしまうでしょう。

若いころの辺見マリ

 拝み屋と出会った当時を振り返って、辺見マリは「離婚して、一家(子ども二人と両親)を養うのは、思ったより大変だった」と話しています。その一方で、自分を「周りのアドバイスを聞かず、悩みは一人で解決」してしまう性格であると自己分析しています。マリと同じように、不安があっても抱え込んでしまい、人に助けを求められない人は、一般人にも多いことと思います。あまり深刻にならずに、自分の苦しさを打ち明けられる人が周りにいればいいのですが、大人になるとそれもまた難しい部分があるでしょう。

 そんなときは、SNSを利用したらどうでしょうか。ツイッターに不安なときにつぶやく専用アカウントを作るのです(プライバシー保護のため、アカウントにはカギをかけることをおすすめします)。他のことはツイートせず、「不安なことだけ」をつぶやいてみましょう。とりあえず、不安な気持ちを吐き出せますし、時々タイムラインを遡って眺めてみると、自分が「こうなったらどうしよう」と考えていた不安が、かなりの確率で単なる“取り越し苦労”であることに気づくでしょう。

 まだまだ不安定な時代は、続きそうです。芸能人も一般人も不安を抱えながらの生活を余儀なくされそうですが、不安というものは角度を変えて見てみれば「まだ何も起きていない証拠」と言えるのではないでしょうか。もえのようにお子さんのいるお母さんは特に不安が募りやすくなっていると思いますが、不安をこまめに吐き出しつつ、「今が幸せだから不安になるのだ」くらいに開き直ってほしいものです。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」