日本のコロナウイルス初感染は'20年1月のこと。新しい生活様式が生まれて1年半以上が経過した。マスクとともに代表されるのが「アルコール消毒」。店、会社、自宅……あらゆる場面で行われるそれは現代社会における“義務”といえる。しかし消毒に「アルコールを使いたくない」人は調査によれば65%にも上るという。医師もアルコール消毒についていくつかの点を危惧。その理由、また効果的な消毒方法とは?
現在、店や会社、自宅などで必ず行われているのが、アルコール消毒だ。出勤時、外出時、帰宅時など1日に幾度となく繰り返される。手指やテーブルなどのモノに対するアルコールによる消毒は“日常”となった。
注意!アルコール消毒の使い方
しかし、インターネット調査によると、消毒に“アルコールは使いたくない”という人は65%にも上った(株式会社バルコによる調査。期間は’21年8月、回答者は20代から60代の男女100人)。
「アルコールを使うことがダメだとは決して言いませんが、使い方を誤ると問題があることを知ってもらいたい」
そう話すのは、新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。
「アルコール消毒をやっているみなさんを見ていると、手に少しだけ出して、ササッと手にのばしているだけの人が多いように思います。
手からコロナに感染するいちばんの経路は手の甲や手のひらではなく、指先。指先をしっかり消毒することでそれを防ぐ。
教科書的には手首までしっかりと言われますが、いちばん大事なのは指先です」(岡田先生、以下同)
指先を重要視する理由は、
「感染するルートは大きく2つ。口や鼻から直接ウイルスを吸い込んでしまう。もしくはウイルスのついた手で何かをつまんで食べる。また、指先で口や鼻を触るクセのある人は、それでも感染は起こる。
しかし、指先まできちんと消毒している人はあまり見ません。少しだけアルコールを出して、歩きながら手にのばして……という人がほとんど。
いちばん大事な指先を消毒する前にアルコールが乾いてしまっている。しかしそれで消毒した気になっている。アルコールが悪いわけではなく、それ自体は万人が認める消毒剤であることは間違いないわけですから、問題はその使い方にあります」
気をつけたい「濃度と量」
とかく店先にある消毒は、自分の後にほかの客が控えている場面もあり、パッパとすましてしまいがち。
「アルコールを消毒のために使用するうえで、きちんと効果を出すには、ウイルスのいるところに30秒ふりかけなくてはいけない。より正確に言うならば、浸さなくてはいけない。
手指の消毒は、石鹸を使って流水でしっかりと洗うことがいちばんだと考えます。指先は特に念入りに。石鹸そのものに殺菌作用があり、流水で洗っていますから、その間に乾くこともなく、しっかり消毒できる」
アルコール消毒は、テーブルなどでも使用される。
「テーブルも手指と同様に乾かないように注意が必要。テーブルは手より大きい。アルコールをちょっと噴霧して拭いているうちに、アルコールが乾いてしまっている場合も多いでしょう。それでは効果は薄い。
ですが、最近の研究で、コロナはほとんどが人と人の対面でうつっていることがわかっています。つまりテーブルなどの“モノ”からはほぼうつらない。そのため水で湿らせた布巾でしっかり拭くことで十分だと考えます」
岡田先生はアルコール消毒をやめたという。
「アルコール消毒によって手がかぶれてしまう人は少なくありません。何度も使っているうちにカサカサになってしまう。近ごろはアルコールでの消毒はやめて、その都度しっかり石鹸で洗っています」
前出のネット調査でアルコールは使いたくない”という65%の主な理由はこれ。また、濃度にも注意が必要だ。
「アルコールは、濃度が70〜80%がいちばん殺菌効果が高い。しかし、このいちばん効果のある濃度を満たしていない商品はたくさんあります。アメリカでは名指しで“これは買ってはダメだ”と言われているくらいです。濃度が低いものですと消毒の効果が極端に落ちます」
アルコール消毒はモノへの影響も……。
「アルコールというのは、塗料を溶かすものでもあります。以前、どこの病院も噴霧式のアルコール類消毒器を使っていました。
しかし、その付近の床がボロボロになることが多発。そのため噴霧式から、ドロッとした液体に置き換わりました。
このように噴霧式の場合は、家具に影響を与えてしまう可能性があります。また、噴霧式は鼻や口から吸い、肺に届いて炎症を起こしてしまうリスクも」
アルコールが“ばい菌の温床”に!?
以前、医療の現場ではアルコール消毒によるトラブルが起こっていたという。
「20年ほど前はどこの病院も金属の缶に、アルコールに浸した脱脂綿を入れていました。注射用の消毒綿です。個包装ではない形で入っており、1つずつ取り出して使っていました。
ところがそれが消毒薬だから大丈夫という過信で、缶を洗わずアルコールを継ぎ足しで使っていました。それであるとき、実は缶がばい菌だらけだったということが発覚。アルコールは消毒効果がありますが、アルコールに慣れてしまった菌、アルコールに強い菌が生まれ、増殖してしまった。これを“アルコール耐性菌”といいます。
今世界中の人がアルコールばかり使うことで、もうあちこちにこのアルコール耐性菌が出始めているのではないかと思います。コロナ禍が収束した後、アルコールが効かない菌が広まっているということも」
問題点もあるが、外出時などは入り口にアルコールが用意されている。効果的なアルコールでの消毒とは?
「やはり指先を集中して消毒すること。まずモノをつまむ指先から。その後にほかの部分を消毒する。アルコールしかないのであればたっぷり使うべきだと思います。自宅の場合は濃度も注意。手荒れしてしまう人はしっかりと流水と石鹸で洗ってほしいですね」
“日常”となった以上、正しい消毒が求められている。
■「アルコール消毒」の注意点
・「どこを」消毒するかに注意
・アルコールの「濃度」に注意
・「噴霧式」消毒に注意
・「詰め替え」容器に注意
・アルコール「耐性菌」に注意
・手荒れに注意
・消毒した家具に注意
・流水での手洗いに注意