8月末、2022年度後期の連続テレビ小説『舞いあがれ!』の制作がNHKから発表された。東大阪市の町工場で生まれ育ったヒロインが長崎・五島列島でパイロットを目指す物語で、時代背景は'90年代から現在にかけて。ヒロインは『カムカムエヴリバディ』('21年後期)と同じくオーディションでの選考になる(大阪局制作としては2作連続)。
時代遅れの女性像からアップデート
そもそも朝ドラヒロインといえばかつて、ほぼ演技経験のない新人女優をオーディションで選び、演じる主人公と重ね合わせながら、彼女が成長していくさまを視聴者が見守るというものが主だった。
「それがガラッと変わったのが『ゲゲゲの女房』('10年前期)の松下奈緒さんが演じたヒロイン像でした」
そう語るのは長年ドラマウォッチャーとして活躍しつづける漫画家のカトリーヌあやこさん。その要因となったのは、前作『ウェルかめ』('09年後期)を底とする朝ドラの視聴率の低迷だ。
「'90年代以降の民放のドラマブームと反比例するように'00代の朝ドラの視聴率は下り坂に入り、『ウェルかめ』はではついに平均13.5%まで落ちてしまいました。
当時のヒットドラマのヒロインは、『のだめカンタービレ』の、のだめ(上野樹里)や『ホタルノヒカリ』の干物女(綾瀬はるか)のような自らの欲望にとことん忠実なリアリティあふれる女性たち。
『リーガル・ハイ』で堺雅人扮する古見門が助手役の新垣結衣さんを“おまえは朝ドラの主人公みたいなヤツだな”と腐したように、明るくさわやかに優等生的な正義感を振りかざす朝ドラ的なヒロイン像は、時代遅れの女性像になり果てていたのです。
当然、NHKも時代の流れに追いつこうと、朝ドラヒロインのアップデートを試みる。それが『ゲゲゲの女房』の松下奈緒さんや『カーネーション』('11年後期)の尾野真千子さんを代表とする、世の中の酸いも甘いも噛み分けたしっかり者のヒロインというわけです」(以下、カトリーヌさん)
このテコ入れが功を奏し、『ゲゲゲの女房』で平均18.6%と一気に約5%も平均視聴率を上げた朝ドラは視聴者のハートを再びつかみ、ヒットコンテンツとして復活。民放の連ドラが次第に視聴率を下げていく中、いまでは最も数字を稼げるドラマ枠としてエンタメ業界に君臨。
当然、ヒロインの座の価値も上がり、'10年代以降は新人女優の抜擢だけではなく、井上真央、堀北真希、杏、有村架純、広瀬すず、戸田恵梨香など主演女優クラスが名指しで起用されることも多くなった。またオーディションを経るにしても、フレッシュ感はあるが主演経験もある有名な若手女優が選ばれるようになったのだ。
朝ドラでヒロインの妹役を演じると…
では昨今、どういう女優が朝ドラヒロインに選ばれるようになったのか?
カトリーヌさんは、「実は、NHKには“朝ドラポイント”なるもの存在するのでは?」と推測する。
「最近の例でいちばんポイントが高いのは朝ドラでヒロインの妹役を演じること。『まれ』('15年前期)でヒロインを演じた土屋太鳳さんは『花子とアン』('14年前期)で、『とと姉ちゃん』('16年前期)の高畑充希さんは『ごちそうさん』('13年前期)で、『おちょやん』('20年後期)の杉咲花さんは『とと姉ちゃん』で、『おかえりモネ』('21年前期)の清原果耶さんは『なつぞら』('19年前期)で……というふうにみなさんこの条件を満たし、朝ドラ出演から数年でヒロインの座を得ています。
ほかにもポイントとして加算されると思われるのが、朝ドラの家族&友人役、大河ドラマへの出演、ほかのNHKドラマやBSプレミアムドラマのヒロイン、NHK地方局制作ドラマのヒロイン、そしてBS時代劇への出演などです。
特に時代劇はポイント2倍的な感じもある(笑)。ご年配の視聴者への顔見世的な意味と、ベテラン俳優さんに揉まれて経験値を上げさせる意味もあるのではないでしょうか。朝ドラの現場自体、ベテランが多いですから。そして、これらのポイントを積み上げた先に、朝ドラヒロインというご褒美が待っているのではと思います」
例えば最も新しい朝ドラヒロイン、『ちむどんどん』('22年前期)の黒島結菜の場合は、朝ドラ『マッサン』('14年後期)でヒロインの娘の友人役を演じたのを皮切りに、大河ドラマ『花燃ゆ』『いだてん』に出演。やや変化球的な時代劇『アシガール』に主演したあと、朝ドラ『スカーレット』(19年後期)ではヒロインの敵役というインパクトのある役柄で話題に。
もちろんほかのNHKドラマや地方局制作ドラマ、BSプレミアムドラマでメインでの出演経験があり、かつドキュメンタリーや紀行番組のナレーションも務めるなど、まさにNHKの申し子的な存在。あとは朝ドラヒロインのお声がかりを待つばかりという状態だったのだ。
以上を踏まえ、朝ドラ『舞いあがれ!』のヒロインを予想すると、鉄板ともいえる大本命が浮き上がってくる。それは……。
「小芝風花さんです。朝ドラに関しては『あさが来た』('15年後期)でヒロインの娘役をやっていますが、それ以外のポイントもスゴい。
BSプレミアムドラマのヒロインを三度もやっていて、話題となった『トクサツガガガ』などNHK総合ドラマでのヒロインも二度。時代劇も『伝七捕物帳2』や『そろばん侍』のヒロインを経験しており、NHK広島制作のドラマのヒロインも二度。ドキュメンタリーや紀行番組でのナレーション経験も多々あり、さらにNHKスペシャルの大型企画『パラレル東京』では主人公の新人女子アナを好演しました。
これだけポイントが貯まっているのに加えて、小芝さんは今回の舞台となる大阪出身。ナチュラルな関西弁も操れるわけですから、こ“のタイミングでヒロインをやらなきゃいつやるの?”という状態で、まさに大本命」
ただ、もちろん対抗馬がいないわけではない。
「森七菜さんは『エール』('20年前期)でヒロインの妹ポイントを獲得。『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』『少年寅次郎』などのNHK総合ドラマにも出演しており、NHKスペシャルのナビゲーターもやっています。さらに大阪生まれの大分育ちという地元ポイントも加算されますが、時代劇経験がないのはマイナス。
そういう意味では11月から放送されるBSプレミアム時代劇『剣樹抄~光圀公と俺~』のヒロイン、松本穂香さんのほうが面白いかも。彼女も大阪出身で、朝ドラ『ひよっこ』('17年前期)でヒロインの友人ポイントを獲得していますし、キャラクターもNHK向き。今後の推され方次第では朝ドラヒロインにたどり着く可能性は十分あると思います」
ほかにも、芦田愛菜、平手友梨奈、浜辺美波、上白石萌歌、今田美桜、吉川愛、恒松祐里などNHKポイントを踏まえた話題の女優候補の名が挙がった。
まさに群雄割拠の朝ドラヒロインから、今後も目が離せない!