“オーディション・グループ”が最盛期を迎えている。2020年にデビューした『NiziU』や『JO1』ら、公開オーディション番組を経て結成されたグループが話題となったが、また新たにデビューを目前に控えたグループがいる。
NiziUを生んだ、J.Y.Parkプロデュースの『NIzi Project』は動画配信サービス『Hulu』で配信されるとともに、日本テレビ系『スッキリ』でもオーディションの模様が追いかけられていた。同様の形式で、今年4月にスタートしたのがボーイズグループのオーディオション『THE FIRST』だった。
「『AAA』メンバーの“SKY-HI”こと日高光啓プロデュースのもと、本格的なグループをデビューさせるオーディション番組。歌唱力やダンス、自己表現力など多岐にわたる審査を経て選ばれた7人が『BE:FIRST』です。
選考過程では合宿で寝食を共にし、チームに分かれて意見を出し合い試行錯誤する姿など、夢に向けて頑張る候補者の素顔が映し出されるのも番組の醍醐味。この段階で、視聴者は自ずと応援したいメンバーを“推す”ようになります」(広告代理店営業担当)
同様にJO1を輩出した、韓国発のオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』の“SEASON2”において、厳しい審査を勝ち抜いた11人で結成された『INI(アイエヌアイ)』。こちらも4月に『GYAO!』で配信が始まると、6月にTBS系列で最終回が放送された。
デビュー日被りに「全面戦争だ」
ともにオーディション番組から結成された、ダンス&ボーカルグループの『BE:FIRST』と『INI』。何かと被っている点が多い両者だが、いよいよ本格的なデビュー日が迫るなかで行われた発表内容にファンらは絶句。
「11月3日、同じ日に彼らのデビューが決まったのです。先にデビュー日を明らかにしたのが、9月8日に吉本興業からのプレスリリースで発表された『INI』。すると9月17日に、『BE:FIRST』も公式HP上でデビューシングルのリリース日を掲載したのです。
まさかの同日デビューに、SNS上では“狙った?”“被せてきた”“全面戦争だ”などと、困惑するファンのほか、互いをライバル視するような声も見受けられます。本来はコンセプトが似通うグループであれば、“食い合い”を避けて日程をずらすのが定石。それだけに何らかの思惑が見え隠れしますね」(前出・広告代理店営業担当)
“被せた側”の『BE:FIRST』のプロデューサー・SKY-HIは9月21日、デビュー日についてあらためて言及。
《“カルチャーを作る”と言っていた自分には、11/3の文化の日がCDリリースに適した水曜日であることは運命的に思えたので、半年以上前、オーディション真っ最中の段階から11/5,6,7のライブ会場を日程優先で各所に打診し、11/5の会場が確保できました》
つまりは半年前には“11.3”のデビュー日は決まっていたと主張。『INI』と重なったのはあくまで偶然ということか。
日経BPの総合研究所上席研究員・品田英雄氏に、“デビューが重なった理由”を聞くと「あくまでも私の考えですが」と前置きしつつ分析する。
「まず一つ言えるのが、オーディション番組から出てきたグループの結成までの過程を見ていただければわかるように、実際にはたくさんいた候補者の中から勝ち抜いた人物が残される形になっています。最近のビジネス界で注目されている言葉に“プロセスエコノミー”があります。
プロセス(過程)自体が魅力的であり、お金を生むことがわかってきています。単に出来上がった商品を販売するのではなく、実際に作る過程をすべて見せて盛り上げることで、消費者の消費意欲を高めるビジネスモデルです」
オーディションを番組として制作し、ともに選考過程の課題曲をiTunesなどの音楽配信サービスやオフィシャルサイトなどで配信。また『BE:FIRST』はYouTubeにもパフォーマンス動画を公開するなど、プロセスの段階でビジネスにしていたのは明らか。
「そしてもう一つ。最近のエンターテイメントビジネスで外せないのが、特に若い人たちが応援する意味で使う“推し”です。“推し”の対象を自分で見つけて一生懸命に応援することが、グループアーティストの楽しみ方の一つとして確立され、どんどん広がってきています」(品田氏)
負けたくないファンの“競争ゲーム”
番組で候補者のルックスや歌唱力、ダンス、はたまた性格やキャラが映し出されることで感情移入もしやすくなり、特定のお気に入りのメンバーである“推しメン”ができる。そんなメンバーが審査を勝ち抜いていくことはうれしく、さらに応援するというワケだ。
「この2点を踏まえて、デビュー日が重なることがどういうことか。今までの“推し”は、グループ内で競い合っている特定のメンバーに対して向けていたのが、ところが実は外には別の競争相手がいたことになります。良く言えば“さらなる推しがいがある”。逆に言うと“ライバルに負けてはいられない”と、ファンの人たちは推しグループをさらに応援するようになります。
デビュー日が重なるのは困惑する出来事ではありますが、一方でやりがいのある競争ゲームになるというわけです。これをマネジメント側は、売り出し方として考えていたのかな、と思いますね」(品田氏)
2020年1月、ジャニーズグループ『Snow Man』と『SixTONES』が“合作CD”をリリースして同時デビューを果たした。双方の所属レコード会社は別であることから“Snow Man盤”と“SixTONES盤”と区別して、ファンが明確に選択できる販売形態としたのだ。するとーー。
「翌日のデイリーランキングを確認してか、販売枚数で負けていたグループのファンがSNS上で“購買運動”を呼びかけて、次の日のランキングではライバルを追い越した。すると同様に、次の日にまた追い返して3日目でミリオンを達成。その繰り返しで最終的には170万枚を越す大ヒット。滝沢秀明副社長の戦略が見事に当たったのです。
またデビュー曲ではありませんが、2000年代には宇多田ヒカルと浜崎あゆみが3月の年度末に同日リリースしたことがあります。本人たちにそんな気はなくとも、競争や対決の形になれば我々も記事が作りやすくなり、刺激を受けたファンや読者を煽りやすくなります。“煽り商法”とでも言いますか(笑)」(音楽雑誌編集者)
デビュー日やリリース日をあえて被せることでメディアを巻き込み、アーティストを応援するファンを動かすことができる。SNSが広く浸透した今、一度火がつけば勝手に拡散されるので、理にかなった商法なのかもしれない。
「見える化」で“推し活”が加速
さらにファンの“推し活”に拍車をかけているのが、応援する努力と結果を実際に目にする機会が増えたこと。「現在は、ファンの細かな行動が“見える化”されています」とは前出の品田氏。
「CDには日ごとに変動するデイリーランキングがあり、YouTubeでも視聴したら再生回数“1”がカウントされたりと、応援しているグループとの関わりが数字として明確に見えるのでファンも推しがいがある。このように“推し”との関わりが具体的に見えるようになったのも、“推し活”がより楽しくなった要因だと思います」
一方で、『BE:FIRST』と『INI』のデビュー対決の背景には、さらに大きな利権が絡んでいるとも。
「それぞれの番組には日テレさんとTBSさんがサポートしています。自局の番組で露出を増やしてデビューを盛り上げていくことでしょう。いわば、どちらのオーディション番組がより優れたグループを生み出したのか、彼らはそんなテレビ局の“代理戦争”を背負わされたとも言えます。
勝利した番組はさらなる視聴率、動画サービスの加入者数にもつながりやすくなる。もはやデビューを目指す若者の夢だけではない、オーディション番組はさまざまな思惑と利権が絡むビッグビジネスになっているのです」(前出・音楽雑誌編集者)
11月3日、最後の“審査”を勝ち抜くのはどちらのグループか。